バレンタインの出来事


(小倉つぐみ)


振られても、諦めきれないってこういうことか。



中学3年の時に告白した。でも振られてしまった。でも彼には彼女がいる訳でもなくて。だから余計に諦めきれないのかもしれない。
「あいつは恋愛が分かってない」っていうのを聞いたから。それもある。

たしかにあの人が恋をしているとか聞いたことない。だから可能性を感じてしまうのでは、なんて自分に都合の良いことしか考えられない。



宏斗とは高校も結局一緒。私は本当は別の高校行きたかったのに、成績が足りなくて行けなくて、結局選んだのはこの西星高校。テニス部だった私は、ソフトテニスは好きだけど、強豪である西星の女子ソフトテニス部で続ける勇気はなく、男子部のマネージャーをやることにした。

マネージャーをやる、と決めた時は彼の存在を全くもって忘れていた。学科が違うから会わなかったのもあるけども。
まあ、テニス部のマネージャーって大体みんな可愛いから、可愛い先輩と出会えて親しくなれたのが本当に嬉しかったけど。



話は2月に入ってしばらく経った時のこと。

2月…といえばバレンタイン。
あー、どうしよう、どうしようか。

部員と顧問の先生とコーチにはお礼の意味であげるつもり。あとよくお世話になってる女子部員とか、あとはクラスの人…いや多すぎだろ。

休み時間にたまたま会った朱里とそんな話になったんだ。朱里は中学の時にテニス部だった人で、成績も残していた元南聖中の後衛。高校では続けていないけど中学の時からテニス繋がりで親しかった。クラスが違うのが惜しいけど。


「つぐみってさ、部員の中に本命いたりするの?」
と聞かれる。いや、質問が唐突すぎ。

「いるけど?てか誰のことか知ってるじゃん朱里」
「え、てことはまだ宏斗のこと好きなの?」
「YES」

入学した当初に話したな、朱里に。
七星ちゃんがテニスに興味を持ってくれる前は朱里しか話が合う人がいなかったから。そういえば。

「じゃああれできるじゃん!」
「あれって?」
「部員皆に配ってるつもりだけど、実は1人だけ本命も用意してますよーってやつ」

あー、よくマンガとかである展開ね。

「なんか考えるだけで緊張してきた」
「でもせっかくのバレンタインで何かやらないよりはいいと思うよ?」
「うーん…」

確かにそれは思う。バレンタインなんて年に一度しかない。今まであんまり本命チョコとか考えて来なかったけど、…そうか。





まあ結局、手作りしちゃったよね。部員や友達にはココアクッキーを作って、1つ1つ小さい入れ物に入れていく。にしても量が多すぎるな。西星のテニス部って3年いなくても30人近くいるからな。

一応、宏斗のだけは多めに作った。ガトーショコラを作った。でも入れ物も違うからバレるよねー絶対。いやもう陽介とかにはバレてるんだけどさ。

でも部活の時にはあげれなかった。皆と同じようなクッキーはあげたんだけど。


どうしよう、本当に。
結局渡せないまま学校も部活も終わってしまって。もうそれならそれでいいや。いっそ家に押しかけるか。

なんて思いながらバス停に向かうと、宏斗もそこにいた。


「よ」
と、手を挙げてくる宏斗。


「宏斗はチョコどんだけ貰った?」
と何気なく聞いてみる。
「俺のクラス考えみ?男子しかいねえぞ?」
「あー、そっかそうだねー。悲しい奴」
「どうせ女子は友チョコーとかやってるんでしょ」
「やったよー。これが七星ちゃんので、これが朱里ので…」

私がどれだけ宏斗のこと意識してても、いつも通りの会話になるもん、安心する。さすが小学生の時から同じってだけあるなとは思う。

逆に考えて、いつからだっけ。
宏斗のこと好きだって思ったの。
かっこよくて。本当に。

中学生になって男らしさが増し、部活の姿も近くで見てきたが真剣な姿が本当に好きだった。いつの間にか。惚れていたんだ。
やっぱり私、この人が好きだ。



バスを降りる。家も近いからいつも降りるバス停は同じ。
…渡すなら、今しかない。


「宏斗、いいものあげる」
と、私は、宏斗に渡す袋を差し出した。

「え?なに?お前からさっきもらったよな俺」
「さっきのはさっきの!これは…いつものお礼というか…その…長い間世話になってるし、そのくせに宏斗にバレンタインまともにあげたことないし…」
「たしかにな、まともにもらったことねえわ。いつもついで程度だったしな」

確かにそうかもしれないな。中学の時もああやってテニス部みんなにあげてたからその流れだし、小学生の時はそんなこと考えもしなかったし。


「素直に嬉しいや。わざわざありがとな」
と言われ、宏斗に抱きしめられた。一瞬だけ。

「え?!」
「じゃあな!ありがと!」
「え、ちょっと!ねえ!」

そう言って宏斗は笑顔でいなくなってしまった。

ちょっと心臓が追いついてない。
何、今の…
私、宏斗に抱きしめられ…た…?



やっぱり私、宏斗のこと
まだ好きでいよう。

って、本気で思ったバレンタインだった。






「ええええ?!それはやばすぎ!」
次の日に教室で七星ちゃんに、昨日のことを報告した。
「本当にやばかった…忘れられない本当に…」

「お前、顔やべーくらい赤いけど」
と、泰聖まで話に入ってくる。

「だって抱きしめられたんだよ?!本当に昨日から心臓が落ち着かないんだって!」
「あ、まじ?それはおめでとう」

今日から2日間、入試関連で部活なくて良かったって心から思った。部活あったら絶対部活中に思い出して1人でニヤニヤしてたと思うくらい。やばかった。