守りたい女の人




(北戸真司)



今後、自分には縁のないことだと思っていた恋愛。部員や先輩の話を聞いてると、いつもそう思う。

中学の時に1度付き合ったことはあるが、あれ以降、恋愛しようと思ったことはなかった。
勉強に…部活に。高校も工業科だからそういうのに縁はない。



話は11月頃に遡る。修学旅行のお土産、お世話になった先輩に渡そうと思って先輩のクラスを回っていた。

翔真先輩のクラス、3年5組へと行く。先輩にお土産渡しますねって言ったのに、チラッと見ても先輩いそうにない。
あれ、クラス違ったっけ、と思い4組を覗くと、「翔真5組であってるよー!」なんて日菜子先輩に言われてしまう。

昼休みに行くって言ったのにあの先輩どこにいるんだよ。とりあえず5組の近くで待つことにしたら、女の人が出てきた。…あれ、とても見たことある。


「誰探してるのー?」
なんて聞かれる。
「翔真先輩って今いますか?」
「翔真ねー、進路指導部連行されたから戻ってくるかわからないわー」

嘘だろ、会わなかったらまた来なきゃいけないのか。いやそういう時は日菜子先輩とか瑛太あたりにお願いしようか…。


「ねえ、南聖中だったしょ?」
と聞かれる。あ、もしかして…
「あ、そうです。多分小学校も同じだったような…」
「やっぱり?どっかで見たことあるなーって。北戸くんだっけ?」

あー、思い出した。
横平菜々香先輩。昔、何かで関わりあったんだよなぁ…なんだっけか、覚えてねえ。

少し話していたら翔真先輩が戻ってきた。「本当にすまん!!」なんて勢いよく謝られたけども。



その後に翔真先輩に、
「菜々香と話してたけど知り合いとかなの?」
と聞かれる。
「小学校の時に何か関わりあったようななかったような…でも話しかけられたので話してました」
「あー、そっか南聖中か」



まあそんなことがあったわけですよ。翔真先輩と話してたらなんか、何故か連絡先も教えてもらって、たまにやり取りはしていた。


話していると分かったのは、菜々香先輩は家庭環境があまり良くないらしい。あまり相談できる人いなかったらしく、1人で悩むほうが多かったと。

でも会う時は笑顔で話してくれている。だから余計に気になる。この先輩、辛いことは表に出さないタイプなのではないかと。それなのかわからないけど、いつの間にか恋心に変わっていたのは確かだ。








時は流れて3月。先輩は高校を卒業。卒業後は就職すると言っていた。携帯ショップの受付の人になると言っていたな。

いつからだろう、好きだとは思う。あの先輩のことは。
美人だし、でも何か放っておけない存在、っていうのかな。説明が上手くできないや。


学年末のテストが終わってすぐ、俺と智と航大は、3年で仲の良かった先輩に呼び出され、飯を食いに行くことになった。
柿口先輩と高野先輩と翔真先輩と汰斗先輩。本来なら中浦先輩とか峰川先輩とかもいるけど結局今日は都合が合わなかったみたいだ。翔真先輩はもうすぐこの地を離れるし、僕らも大会があったりと、今日しか集まれる日がなかった。



大騒ぎしてる中、俺の携帯に通知が入った。相手は菜々香先輩なんだけど、それを見た航大に、「お?!女の人とラインなんてしてるの?!」なんて言われた。

「いやうるせーよ」
「今絶対女の人だった!ねえ!」
「黙れ」

なんて話していると向かいにいた翔真先輩がニヤニヤしながら
「もしかして」
なんて言ってくるから
「そのもしかしてですよ」
と返した。つーか、クラスの友達と翔真先輩しか知らない気がするこの話。

「翔真先輩は知ってるんすか?」
と智が先輩に聞く。
「あー、だって俺…ねえ?現場立会人だし?」
と俺の方を向きながら言う翔真先輩。
「いや、そんな目で言われても」
こりゃ説明のしようがわからない。


「え、何どうしたの」
と柿口先輩まで話に乗っかってくる。
「真司の好きな人の話」
と翔真先輩が答える。
「いや先輩そんなこと…まあ好きですけど」
「いーじゃん今言ったって、どーせバレる」

翔真先輩何気にこういう話持ってくの上手いよな。

「んで誰なの?」
と汰斗先輩が聞くと答えるのはやっぱり翔真先輩。
「横平菜々香」
「うわまじか」

汰斗先輩も同じ中学だ。それに菜々香先輩って、この先輩の元カノと仲良いはず。あの、春太の毛嫌いしている玲佳先輩と。


「おー?とうとう北戸さんも恋ですかー?」
航大ってこういう煽り上手いと思う。いつも思うけど。最近だと華月とか司とかに。

「お前に煽られるほどイラッとすることはない」
と俺が言うと
「それはめちゃくちゃって言うほどわかる」
と智まで乗ってくる。






その数日後の土曜日の話。
前々から遊びに行こうと話してて、それがこの日だった。

俺も昼まで部活で、部活を終わってからラインを見てみると、
「ごめん、今は家から出れそうにない」
との一言が送られてきていた。
家から出られそうにない、って…。

隣にいた春太がそれをたまたま見てしまったようで。
「…どうしたの?」
と聞かれる。
「いや、何でもない」


あんなこと一言だけ言われたら心配になる。あの先輩、また1人で抱え込んでいるのかと思うと。
返事を送ったが、既読は付かない。



予定無くなったし、モヤモヤしたままだけど、春太と話しながら帰る。とりあえずすまん、春太。

「だいぶ前に玲佳が言ってた。菜々香先輩、中学の時から人前で涙見せることは滅多にないって。いつも元気で笑ってて、やることはとことんこなしているって。」
と春太に言われる。春太は一応毛嫌いしている玲佳先輩だけど、その玲佳先輩の友達が菜々香先輩な訳だし、話は聞いているんだろう。

「先輩の力になりたい、ってずっと思っている。俺は。」
「じゃあ頑張れ。真司なりに、先輩を支えればいいさ。」

なんて言われて春太との分かれ道まで着いた。頑張れよ、なんて言われて春太はいなくなったが。




数時間が経った頃、電話が1件。
菜々香先輩だ。

「今からは大丈夫?」
なんて、聞かれる。
「大丈夫ですけど、」
「話、したいだけだから、近場でいいし」
「…分かりました。どこ行けばいいです?」


やっぱり、何かあったんだな。



待ち合わせの場所で待ってると先輩は来た。笑顔で来たけども、心から笑っているように見えない。


「先輩、何があったんですか」
「…そんな、大したことじゃないよ」
嘘つけ。

「お兄ちゃんがまた非行に走ったらしくて、お母さんも泣き叫ぶし、もう、本当によくわからない。」

菜々香先輩の母親はあまり精神状態が宜しくなかったり、兄はすぐ暴力を奮ったり非行に走ったりする人。弟は中学校も行かず引きこもっていると。父親が家を出てから家にまともな人がいない、って前に先輩がチラッと言っていた。

「私が頑張らなきゃ、って思わなきゃいけない。頑張らなきゃ…」

そこまで自分を追い込む人初めて見たよ。
もう、聞いてるだけじゃいられない。俺も、話聞いてて思ったことは沢山ある。


「先輩は、頑張りすぎなんですよ。さっきから涙こらえてばっかで、そんなに泣きたいなら泣けばいいじゃないですか。」
今まで俺が菜々香先輩に対して思っていたことだ。我慢強いにも程がある。

「無理だよ。人前で泣くことなんてできないもん」
「そう思ってるから先輩は辛いことをすぐ1人で溜め込むんじゃないんですか?」

先輩は黙ってしまった。ちょっと、強く言いすぎたかな。


「とりあえず、もう1人で抱え込みすぎないで。泣きたいなら泣いてスッキリしましょうよ。人前が無理なら、俺の前だけでも良いですから。」

俺がそう言った途端、菜々香先輩は俺に抱きつきながら泣き叫び始めた。思わず俺も、抱きしめてしまう。

「もう、辛いことだらけで何に泣いてるのかもわからない、でも辛いのは確か…」
「それぐらい溜め込んでたってことですよ。辛いことを。」


本当に、この人、自分を追い込みすぎている。それに気付かないふりでもしてるのか、何なのか。
とりあえず、もう俺はそんな姿を見たくない。笑うなら、心から笑ってほしい。





しばらく経ち、先輩も落ち着いたようで。

「ありがとう、ここまで言ってくれる人初めてだったから、素直に嬉しい。」
と言われた。
それだったら良かったけども。

「俺の方こそ、上からなことばかり言っちゃってすいません」
「そんなことないよ。でもまさか、あの時に気分で話しかけた後輩に救われるとはなぁ…って」
「あー、確かにそう思いますよね」


そういえば最初に話したのはそんなんだったわ。向こうもノリで話しかけたみたいだし、って考えたら、出会いってすごいなって思うよね。

俺もわりと人見知りするタイプだから、こういうこともあまりないし。



近くにあったコンビニに入り、「何か飲みたいものとかありますか」と俺は聞く。「え、いいの?じゃあフルーツオレ飲みたい!」と言われた。

「菜々香先輩のそういう心から笑った顔が見たかったんです、俺は。」
と俺は言った。

「…って言われりゃ、今までも見透かされてたみたいね。真司って結構察しの良い人?」
「言うほどでもないけどよく言われますね。」
「じゃあ、きっと今後もこうなるだろうな」
「それは先輩の自己管理の問題でしょう?」
「あ、そっか、」

まあ、先輩の事情を少し聞いてたっていうのが1番あるんだけどさ。



「いつもクールな真司が、私の前でいい笑顔見せてくれるところ好き」

なんて、面と向かって言われる。

「…バレてました?」
「今まであえて言わなかった」
「いやー、恥ずかしい」

あえて言わなかったって…。
でもこの人といて自然と自分も笑顔になれるのは確かだ。




「俺、好きですよ、先輩のこと」
と、俺は先輩に向かって言った。


「だから俺、先輩のこと、守ります」
「なに、もう、急に告白して」
「…すいません」


すると突然、菜々香先輩からキスをされる。

「…え?」
と聞くと、先輩はとても笑顔。

「真司って、年下とは思えないくらい男前だよね。かっこいいし、こんな私のこと気にかけてくれるし、優しいし。」
「どうしたんですか」
「私も真司に惚れてるから。好きだから。」


ここまで女の人を守りたいという気持ちが強くなったのは菜々香先輩が初めてだ。本当に、放っておいたらいけない人だと思う。


また泣き始めちゃった先輩。どんだけ今まで泣いてなかったんだよ、この先輩。

「菜々香先輩って本当は泣き虫?」
「ちが、これは嬉し泣き!」
「はは、ありがとうございます」