不器用な自分と、@
(内藤駿芽)
1年生の二学期が終わる前の話だった。
2年生の平松源太先輩にどうしても用事があって、昼休みに体育科の2年生のフロアを訪れた。学年違うだけで雰囲気全然違うんだな、なんて思いつつ。
先輩のクラスへ行き、平松先輩を呼ぶ。今日は病院行くのでどうしても部活を休まなければいけないが、昨日の部活で先輩に借り物をしたのでそれを返しに来たということだ。
「わざわざすまんねー。 」
「いや、昨日忘れた俺が悪いんです。今日病院で検査あるから部活行けないですし」
「あー、左足のやつ?」
「そうです。」
実は先月の初め頃に、捻挫をした際に酷かったのか、内出血を起こしてしまった。っていうことも実はこれで3回目ぐらいのことなので、動揺はしなかったが。まあ大会直前とかじゃなかっただけマシ。中2の時とか全中の一週間前とかにこんな状態になって色々な意味で死にかけたもん。
それで、今日は検査で病院に行く。もう一応治ってはいるんだけど、念の為というやつだ。
なんて話していると。
「もしかして紗雪先輩の弟くんじゃない?」
と、急に女の人に話しかけられた。
「あ、はい、そうですけど…」
「やっぱり?駿芽くんだっけ?」
えっとこの人…見たことあるようなないような…姉ちゃんの知り合いか?
「愛結、駿芽困ってるから」
と平松先輩も止めに入る。
「あ、ごめんなさい。大好きな紗雪先輩から話聞いてたから思わず。」
あ、誰か分かった気がする。
愛結…ってことは菊崎愛結先輩のことか。姉ちゃんから話聞いた事あるような。確か、ソフトボール部の。
内藤紗雪とは俺の姉ちゃんのことで、同じ高校の3年生だが、体育科の女子の中でも何故かはわからないがとても良い人らしくて、他の部活の後輩とも関わりあるとか何だとか。女子ソフトテニス部でもインターハイなどにも出てる選手だった。
その日の夜、姉ちゃんにその話をしてみた。昼休みに話しかけられたって。
「ああ、愛結はいい子だよ。ほかの部活の後輩で1番可愛い」
「へー。今日平松先輩のクラス行ったら話しかけられたのさ。」
「なるほど。駿芽と1回話してみたかったって言ってたよ」
「まじ?」
まあ、お喋りなこの姉のことだから俺の話沢山してるんだろうな、先程の愛結先輩に。
「正直、見た目は駿芽のタイプじゃない?」
「それは思った」
「意外と可愛い子好きさんが」
「それは余計」
確かにそれは思った。ショートかボブかの間ぐらいの髪型、背は女子の中でも低めだが。運動部っぽいんだけど、でも少し清楚っぽい。
まあ俺結構、アイドルとか好きなんですよ。そこまでガチ勢ってわけではないけど、まあ手前まで来てるかな。CDもライブのDVDも揃えてますから。いや、これって結構ガチ勢?
まあ、ペアの吉岡徹也との話の合う最大の共通点もこれだったりする。
以降は、愛結先輩とは度々話すようになった。姉の影響もあるけど何しろ、平松先輩と村瀬先輩も同じクラスでも仲良いということで。
仲良くなるにつれ、俺も次第に好きになっていった。何しろ、可愛いんですよ。
毎度のようにキュンキュンさせられて、俺も男だっつーの。
時が経ってバレンタインの時の話だ。
この日は、星の里高校は入試のため学校が休み。学校では部活もできる場所がないため、部活は夕方からになる。
部活の時間まで家でゆっくりしようとしていると、突然連絡が来た。しかも、愛結先輩だった。
「少しでも時間ある?」
とのことだった。
先輩は学校にいるとのことで、たまたま誰も家にいなかったので俺の家に来てもらうことになった。というか、俺がいない時に姉ちゃんの元へ遊びに1度来たことがあるらしい。
ちなみに愛結先輩は緑陽市に住んでる実家通いの人だが、今日の入試ではソフトボール部がお手伝いだったらしい。
先輩に会うと、まず最初に
「ハッピーバレンタイン!」
と言われ、赤い紙袋をもらった。
「え、もしかしてこれのために来たんですか?」
「迷惑だった?」
「いや全然嬉しいです!!ありがとうございます!!!」
今日はバレンタイン。飛鳥も今日の昼間だけ彼女がこっち来てくれるらしくて昨日の部活浮かれてたわそういえば。
「手作りだから味は保証はしないけど」
「いや、美味しくいただきます。でもなぜ俺なんかに?」
「まあ、最近仲良くしてくれてるし。」
あとこれ先輩に、と、姉ちゃん用のものも預かった。姉ちゃん今は女テニ3年生で卒業旅行中だから、いないんだよね。
「でも明日も学校あるのに、何故わざわざ…?」
と俺は疑問に思う。そう、別に今日じゃなくても、明日は学校だ。まあ、午前授業だけど。
「駿芽のこと好き。って、言うだけ言いに来るつもりだったの。」
言ったあとに、先輩は俺のことを本気な顔で見つめている。
「それ、本当ですか?」
「本当だわ。」
「いや、顔がマジなので本気は伝わりますけど。」
「言うだけ言いたかっただけ。駿芽が私の告白をOKしようが断ろうが付き合えないことには変わらないんだし」
まあ実際そうだ、俺がどう返事したって、付き合えないことには変わりない。ソフトボール部の部則によって。
まあ、隠れてコソコソ付き合ってる人もきっといるだろうけど、「もしこの状況になっても、絶対に相手の引退まで付き合わないほうが身のためではあるよ」という中藤先輩に言われた言葉を思い出すからな。
俺は思わず、愛結先輩のことを抱きしめる。
「俺だって。好きですよ。だから、俺は待ちますよ。先輩と付き合える日が来るまで」
実際のところ愛結先輩はもう3年生。あと半年ぐらいで引退となるのだ。
「本当に?」
「むしろ、先輩が部活引退した後に俺から言うはずだったのに、さらりとこのタイミングで言われちゃったし」
とりあえず、何がともあれ今はこれ以上何もしない、ようにはする。せっかく両想いって分かったのにこの状況、仕方ないことだけど悔しいなぁ。
「あと、別に先輩付けて呼ばなくても、敬語で話さなくてもいいよ。」
「え、いいんすか?」
「うん。」
ま、まあこの辺は、次第に慣れていこう。
それ以降は話す機会も増えた。学校でも普通に接してくれるし、クラスメートにも「なんかお似合いじゃん」ってからかわれるようになったし。まあ、この先は言えないから、うるせー、とかの反抗するような言葉しか返せないけど。
平松先輩と村瀬先輩、そして前にこの話をしていた大橋岳人の他に、徹也と飛鳥、山岡や亘にも3月の遠征の時にこの話をした。まあ、こいつらならいいかなって。
ふと思い出す。バレンタイン貰ったから、ホワイトデーお返ししないといけないじゃん。と。
というわけで、ホワイトデーの日の部活終わりに、渡すだけ渡すことにした。
愛結が実家通いだから正直会いやすいところはある。でも、そこそこ遠い。緑陽北中出身だから。俺も冬は電車通いだ。
お互い部活を終えた後、駅の中で待ち合わせ。人影の少ない場所に行った。
「ホワイトデー、持ってきた」
と俺はお菓子が入っている紙袋をそのまま渡した。
「ありがと!」
「しっかり色々と詰め込んであるから。あとこの赤の袋は姉ちゃんから。2月渡せなかったからって」
「ほんと?紗雪先輩にお礼言わなきゃ!」
というか、ほぼ姉ちゃんセレクトなんだけどさ。何がいいのかとか本当にわからなくて。好きな人にホワイトデーのお菓子を渡すってこんなにも神経使うことなんだなと。
「電車いつだっけ?」
「46分。駿芽は?」
「俺は55分。じゃあまだ時間あるね」
今は18時30分を過ぎたところ。俺の家の方向の電車は30分おきにくるんだけど、さっき行ってしまったばかりということだ。
「今度、また家にお邪魔していい?」
と突然聞かれる。
「いいよ全然。むしろそのほうが会いやすいかも。」
「やっぱりそうだよねー。これ以上何も進展できないし」
「何?なんかしてほしいの?」
「あ、いや、違っ……」
と顔を真っ赤にする愛結。可愛すぎる。
ついつい俺は、愛結の唇にキスをしてしまう。可愛すぎるほうが悪い。
「ちょ、今?」
「ごめん。抑え効かなかった。可愛すぎるって」
「いや……いいけどさ?こんな形でファーストキス奪われるとは思わなかった」
「え?ファーストキスなの?やった」
まあ俺がファーストキスじゃないのが残念なんだけど。前の彼女の時にある程度ね。その先まで進むことはなかったけどね、その人とは。
なんてやってると、愛結はもう時間がきてしまった。
「あ、もう帰るね!ありがとうね!」
「こちらこそ。気をつけて帰ってねー」
部活終わりの短時間、幸せなひと時を過ごした。
でもこの時のこの行動が、後に問題となってしまったのである。