不器用な自分と、A




(内藤駿芽)


もうすぐ春休みになる。春休みには高校選抜が控えているが、その前には全国私学大会も行われた。その後に自分たちは一日だけ登校日があり、それから春休みに入る。
その、1年生最後の登校日の話だ。


「駿芽いるー?」
と、休み時間に自分のクラスにやってきたのは、体育科で隣のクラスで同じソフトテニス部の山岡広夢。

「はーい」
と返事し、山岡についていくと、そこにいたのは2年生の村瀬先輩と平松先輩だった。


「駿芽。よく聞け」
と平松先輩は俺の肩を掴む。


「単刀直入に言うとね、愛結と親密なこと、ソフト部の顧問にバレてる。」
と続けて平松先輩に言われた。


「……本当ですか?」
「朝、薄井先生が職員室で怒鳴りつけられたらしいよ。俺のクラスの人が見たって。」



いや。まじですか。
どこからどうなってこんなことになったのか。内心焦りしか出てこない。

話によると、俺らが遠征中で学校いないに既に発覚していて、平松先輩たちのクラスにもこの話は知ってる人は知っているらしい。いつの間に。







部活の前にも、僕らの顧問の先生である薄井先生に呼ばれる。



「赤川駅でソフト部の子と親密にしていたって聞いたけど。」
「はい。事実です。」
「だよな。ソフト部からきつく叱られたから。」

と、先生はしばらく無言になった後に

「気持ちに整理ついたらでいいから、話しに来い。」
と言われる。

「分かりました。すいませんでした。」


とりあえずこの日はこれだけで話は終わった。こういう時の薄井先生って特に怒るような発言もせず、何も言わなくて逆に怖いから、怒ってるのは確かだ。
そりゃそうだ。俺が起こした事で朝からソフト部の顧問に怒鳴られたらしいんだから。







春休みが始まるとすぐに自分たちは高校選抜に向けての遠征が始まる。今こんなことで悩んでる暇もねえや。






その、遠征中の、夜の話。




今回の遠征は平松先輩と同じ部屋。いつも仲良くしてくれている先輩なので、話も止まらない。


「ところで駿芽。なんで愛結とのことソフト部にバレたか知ってる?」
と話を切り出される。

「いえ。でも赤川駅の人影ないところでコソコソ会ってキスまでしたのは事実ですから。誰かに見られたんじゃないかなと」
と俺は言う。でも、赤川駅の中とはいえ、すぐにバレるようなところではなかったと思うんだけど。

「その前から、愛結のこと追ってた人がいるんだって。愛結の秘密でも握ってやろうとしてた人が。それで最近駿芽と仲良いしタメで話してるし、赤川駅の話よりもっと前から後を付けられてたらしいよ」
「ストーカーみたいなのですか?」
「それとは違うのか知らんけど、ソフト部で愛結のせいで部活辞めたとかいう人がいて、その人が友人と一緒に行動に及んだとかいう話。蓮の彼女がその人と同じクラスだからたまたま話全部聞こえてたらしいのさ。」


そういえば半年前ほどに2年生のソフト部で部活を辞めた人がいると聞いた。普通科の人だから俺もよく知らないけど、愛結絡みなのは聞いたから確かだと思う。

そっか、村瀬先輩の彼女さんの芽衣先輩は普通科だ。総合進学クラス。
同じ部活の2年生の先輩で普通科なのは志村先輩だけだけど、志村先輩は選抜進学クラスだし。芽衣先輩は総合進学クラスだから違うしな。芽衣先輩がいて良かったのかな。





「つーか、薄井先生には話したの?全部」
「まだです。気持ちの整理ついたらでいいから来いって言われて、そのままタイミング失ってて」
「その言い回しはかなり怒ってるよ薄井先生。」
「俺も感じました。しかもこんな全国大会直前だから余計にかと。俺のせいですいません。」
「別に俺は謝られることされてないけど。今の時間でも先生に言ってきたら?この遠征でこんなに時間空いてるの今日ぐらいだよ?」


確かに、タイミング失ったままで言わないよりは、とっとと言っちゃったほうがいいか。大会が始まる前に。



「薄井先生は向かいの部屋だから、行ってきな。」
「平松先輩、本当にありがとうございます。行ってきます。」


俺は先生のところへ向かった。





「どうした?」
「話があります。時間ありますか?」
「いいよ、鍵開けるから入って来い」

先生の部屋の中へと入る。先生は一人部屋なので、他に誰もいない。まあ、このほうが話しやすい。



「先日は、すいませんでした。」
「気持ちの整理ついた?」
「はい。」
「まあ、無理して言うんでない。言える範囲だけでいいから。」


とりあえず俺は、今までのことを全て話した。出会いから、好きになるまでの経緯、その後に関わっていたことなど。本当は全部話す意味は無いんだけど、つい。



「まあ、別にテニス部の部則に引っかかってる訳では無いから、恋愛するのは自由だけど。別に恋愛禁止の部活じゃないし、村瀬とか飛鳥みたいなやつもいるし。でもこの学校の女子の部活はほとんど恋愛禁止。厳しい世界だよな。特に体育科にとっては」
「正直、辛いです。」
「俺も学生時代、そんなことあったからなー。」


と、薄井先生は自分の話を始めた。



「北陽のソフトテニス部は昔からずっと恋愛は禁止。勿論俺のいた時も。でも俺は女テニの子を好きになった。でもそれ以上距離を縮めることもできない。決まりごとがあるから。でも気持ちは好きになる一方で、後に、隠れてコソコソ付き合い始めた。色々とやることやってたし、それが部活の人にバレて、先生にもバレて、大騒ぎになったことある。」

きっと北陽のテニス部で1番問題起こしたのこの件の俺だよ、なんて先生は話す。

ちなみに薄井先生は北陽学園高校出身であり、高校生時代も大活躍していた選手。




「まあ、その時好きだった人が今の奥さん。色々とあったけど結局ずっと付き合ってたし」
「あ、そうだったんですか……?」
「大学もバラバラだったけど別れることなく付き合ってた。だからお前も、今回みたいな事で自分の恋愛を諦めないでほしいなと俺は思う。色々と複雑だとは思うけど。これ言いたかったために、駿芽と話したかった。でも、油断はせずにね。」
「ありがとうございます…。」



俺も今、話を聞いて、何も言えない状態になっていた。

まだ考えが未熟だった。正直今は恋愛に関しては複雑な状況だ。だからまあ、村瀬先輩とか徹也とか見てたら、ストレートに恋愛できることに羨ましく思っていた。

どうしてこうなってしまったんだろう、と思った時には遅かった。彼女にとことん惹かれていた。好きになってしまったものを。




「どうしたらいいんですかね、俺」
思わず涙が出てくるし、止まらない。

「どうしても好きなら諦めないほうがいい。でも今は密かに。どうせあと半年もしないうちに自由になるんでしょ?」
「そうですね…。」


そういえば、先輩から聞いた話だけど、女子バドミントン部の先輩が、中学の時から地元の人のことが好きで、昨年の夏にやっと付き合うことができた、とか。たしかその相手が、西星のソフトテニス部の人だとか。


中藤先輩も彼女の引退まで上手いことやってたし、俺はそんな上手いことできなかったなぁ。先輩に秘訣教えてほしいぐらいだわ。







「ちょ、源太呼んで」
「わかりました。」

と言われ、とりあえず、俺が携帯から電話をかけて、平松先輩を呼んだ。



「部長だから一応お前にも言っておく。とりあえず今回の件はソフト部の人間関係も絡んでいたみたいだし、ソフト部側からは許してくれることになった。しかも駿芽たちは付き合ってはいないから。でも今後こういうことがテニス部にも多発するのであれば、次はないかもしれない。それは覚えとけ。」

みんなには学校戻ってからの部活で話すから、ということで話は終わった。先生はちゃんと話聞いてくれたけど、やはりこういうことに絡んでくるのは、放っておくことはできないんだろう。ごめんなさい、本当に。





部屋に戻ると、

「テニス強いし頭良いし、器用でなんでもできる駿芽だけど、恋愛には不器用なんだなーって」
と平松先輩に言われる。

「いやバカにしてます?」
「単純に思った。」
「でも俺本当に、欲を抑えきれないしょうもない奴なので。そこがダメだったんですけどね、今回の件は」
「まあ、分からなくもないけどさ。俺も恋してる時は、同じだ。何だろうね恋愛って。」
「……そうですね。」



本当に、ご迷惑をおかけしました。
明日から全国大会の舞台で戦うんだ。まあ、心の中のモヤモヤはスッキリしたし、あとは存分に。