分かってほしいこと
(福島玲一)
ふと、思ったのね。
あいつ、男性に対しての危機感というものがない、と思う。
たしかに七星は今まで恋愛経験も何も無い。あいつがテニス部を応援するようになってから、わりと部員から近寄られてるけども、至って普通。いや、俺が考えすぎなのかな。
特に川岸先輩。あの先輩は絶対七星のこと好きであろう。あの先輩が1番積極的にはなしかけてる。それを見ていつも思う。
中学の時のあの件を知ってるから、尚更心配だ…。
あ、俺?俺は七星のことは好きだと思うよ。
昔から知ってるから、あんまりそんなこと考えたことなかったんだけど、好きだなって気づいたのは高校からだし、ぶっちゃけ川岸先輩のおかげなんだけどさ。
最初はびっくりした。あいつがテニス部と関わり持つようになったこと。七星のクラスの友達が男子部マネージャーのつぐみだったのが1番大きいんだけどさ。
あいつ、ホイホイ付いていくところとか本当にどうにかしないとこの先また酷い目に遭う可能性も高いと思う。部活の先輩はそういうことはしないって信じてるけど、最悪のケースに至ることもあるかもしれない。
中3の時にあんなことあっといて、学習してんのかなあいつ。
むしろこの件知ってるのは西星のテニス部では俺しかいない。当たり前だ、俺しか中学も学年も同じなのいないんだもん。
そういえばもう1人、この話を知っている人がテニス部の周りにいてね。朱里のことだ。
中学ではテニス部の後衛として活躍していたが、高校では続けていない。朱里と七星も中3の時に仲良かったから、知ってるんだけどさ。
「…って、俺は思う訳ね」
ととりあえず思ってることは話した。
「確かに、素直だからねあの子」
「関わりの深いテニス部は大丈夫だとは思うけどね、川岸先輩の動きがどこまで行くかだけど」
「あー、テニス部はあの人次第か…」
テニス部じゃなくてもさ。七星あいつ、自分で気づいてないようだけど中学の時からモテてはいた。まあ、それがあの事件に繋がったんだけど。
春休みに入ってからの話。その前から、漫画の貸し借りの話が出てた。中学の時から俺が新刊出る度に貸してた漫画の最新刊が発売されて、それも春休み中だったから俺の家まで来ると言っていた。
ああ、あいつ本当に何も考えてないな。
「玲一の家久しぶりだなー」
「たしかに中学以来かな?そもそも部屋に友達上げないし」
中3の時のクラスのメンバー数人で、俺の家で集まった以来か。一年前の春休みか、あれ。
こいつとは話が合うから結構この日は話し込んだ。マンガやアニメなどは話が合うんだ。
1時間半くらい経っただろう。小腹空いたな、ってキッチンからお菓子とお茶を持っていく。
部屋に戻ると、七星は暑くなったのだろうか、着ていたカーディガンを脱ぎ、若干くつろいでいた。
俺の前だったから良かったけど、これ川岸先輩とかの前でやってたら絶対何かされてたと思う。ってぐらい、襲われてもおかしくない状態だった。
でもやっぱり俺も黙っちゃいられない。ここまで来たら。
「傷跡えぐる話するけどさ。七星さ、中3の時自分の身に何が起きたか覚えてるしょ?」
と聞いてみた。
「…忘れてるつもり」
「実際あんなこと今後起きてもおかしくないよ?今のままだと」
「え?どこが?」
いや、ほんとに正気かよ。
もうさすがに、俺も限界来たかな。
「男に対して危機感のないそういうところだよ。」
七星のことを軽く押し倒した。そして流れでしてしまったキス。直後に、自分も我に返った。
あーやってしまった。こんなことするつもりなかったのに、あーあ、何してんだ自分。
七星は何も言わない。言葉を発しない。
「…ごめん」
俺はすぐに離れた。さすがにこれ以上雰囲気に飲み込まれてはいけない。
「でも、男はこういう事しか考えてない野郎ばっか。七星はいくら異性と意識してなくても、相手は七星のことを異性と意識しているかもしれない。それくらい、分かっといたほうが身のためだよ。」
あんまり強く言いたくないけど、こうやって言うしかない。
「七星は男に対する危機感がなさすぎる。仮に俺が今最後までやろうとしてた可能性もあるかもしれないよ?いくら俺でもそういうこと考えてるかもしれないよ?」
「…そうだよね。今後は、気をつける。」
俺もやり過ぎたか。七星、泣き始めちゃったよ。
仮にって言ったけど、ほぼ本当のことだし。
「ごめん、気にしないで」
「いいよ、今のは全部俺が悪い」
自然と抱きしめてしまう。
ああ、俺も結局雰囲気に流される人間か、野川先輩の言ってたこと分かるかも。まあ、今回の件でよく分かったよ。
「勢いでキスまでしちゃったのは本当にすまん。でも俺だって…」
と、言いかけて言うのをやめた。これ以上言うのは、今じゃない方がいいか。
好きだから、七星のこと。
次の日の部活終わり。
「今日朝からテンション低いね玲一」
なんて柊弥に突っ込まれる。
「いや、ほんと、やらかした」
「何にやらかしたの」
と近くにいた泰聖も入ってくる。
「昨日勢いで七星にキスしちゃった…」
と小声で言うと2人は唖然。
「玲一、そういう時もポジティブに生きろ」
と柊弥に言われる。
ポジディブにって…俺そんな思考ないし…。
「ま、玲一なりに進展あったならいいじゃない」
と泰聖まで。
「あれ進展のうちに入るのか…?」
とりあえず、俺、恥ずかしいことしたわ。
でも、あいつ、あれで分かってくれたかな、俺が思ってたこと。