再び動き出した恋@





(金子翔弥)


俺には中学時代に付き合っていた女の子がいた。

女子ソフトテニス部の堀葉月。最初は俺の中学時代のペアであり仲の良かった、竹岡涼成が葉月のこと好きだった。でも、そんな中、葉月は俺に告白してきた。

告白されたけど、色々と複雑で、返事するのに少し時間を置いた。でもそのうちに、俺も葉月のこと好きになってしまった。


順調に1年半以上も付き合ってたんだけど、高校進学と同時に、俺は一旦恋愛から身を引かなければいけないことになった。北陽学園高校のソフトテニス部は現役中は恋愛ダメなのだ。

過去にはバレて大問題になったこともあるみたいだし。とりあえず俺はそれに従うため、中学卒業と同時に、葉月とは別れた。その別れる時に俺は約束を交わしたはずだ。

「ちゃんと戻ってくる」
って。


俺もそのつもりで頑張って行こうとしていた。…はずなんだけど。


高校2年生に上がった頃に、葉月と涼成が付き合ったという話を聞いた。ここは二人とも地元の緑沢高校に通っていて、今ではソフトテニス部の男女主将だ。
最初は、同じ中学だったチームメイトの古谷瑠斗と辻凛太に聞かれた質問で知ったんだけど、どうやら本当だったようで。

その時に俺はもう、葉月のことはいいや、ってなった。だって、結局別の男、しかも涼成のところに行ってるんだもん。







高校3年生の6月になる。

2ヶ月ほど前に、凛太から、涼成と葉月が別れたという話を聞いた。その時は俺は別にとうでもいいや、って思っていたけど、でも俺はとりあえず、このことについて、葉月と話したい、と思った。

瑠斗が仲の良い女の子が、葉月のペアである美杏なんだけど、連絡先を貰うことが出来て、俺の方から葉月に連絡を入れた。まあ、久しぶりとはいえ、普通に話ができているんだけど、この件については直接会って話したい。でも、俺が忙しいから何も会えもしないんだよね。……って感じで、気づいたら2ヶ月経っていた。



そんなことはさておき。今は県大会の最中。それもインターハイがかかっている大会、県総体。もう3年生になった自分にとっては、とても大事な大会になる。今年入ってからは、全国出場機会を逃しっぱなしだからなぁ、俺。





大会中、本部付近にいた時に、俺は葉月のことを見つけて、思わず声をかけた。

向こうも声かけられると思っていなかったのか、びっくりした様子でこちらを見てくる。そりゃそうか。直接会って話すのも実際、2
年ぶりくらいなんだから。




「というかごめん、俺が1度会って話したいって言い始めたのに、中々予定合わせられなくて」
「それはしょうがないしょ。しかもこんな忙しい時に。私も謝りたいこといっぱいあるから、ゆっくり話せる時でいいよ」
「葉月はもうこれ終わったら引退?」
「いや、国体予選は出るのさ。でも地区大会来週だから、負けたら引退。勝ったら8月。でも部活はびっちりは行かないかな。」
「もう引退か、みんな」


中学まで同じ地区だった仲間も次々と引退してる人はしてるんだなぁ、と思うよ。ちなみに葉月は今回は個人戦のみの参加で、それも既に敗退しているから、もう今日はすることないらしい。帰りの電車は夕方らしいし。



「これ終わって土日は休みとかじゃないの?」
と葉月に聞かれる。

「土曜日は休みだけど、日曜は午前中だけある。でも土曜日は用事ある」
「ってことは日曜日の午後はヒマってこと?」
「部活終わってからならね。」

日曜日はたしか12時半終わり。久しぶりに午前練のみだー。その分朝早いのが俺には合わないけどね。

「じゃあその日会える?」
「え、俺がそっち行けばいいの?」
「いやそれはどっちでもいいんだけど、あ、でも緑陽行きたいから私が行く」
「いいならいいけど…」
「よし、決まり」


と、この場で会う日にちを決めることができた。まあ、近々ちゃんと話せるなら、いいか。



「…まあ、元気でやってそうで安心した」
と俺は言う。

「こっちのセリフ」
と、笑いながら葉月に言われる。



高校に上がってからは髪の毛も伸びていて、今日も一つ結びをしている葉月。昔から、綺麗な顔立ちしているなと思っていたけど、見ないうちにこんなに美人になっていたとはな。

でも、やっぱり葉月を見つけたらすぐに分かるあたり、俺もこいつのこと諦めきれてなかったのかな。つい最近までは、自分でもよく分からなかったのに。



話していると、凛太がこちらにやってきて

「ちょっと翔弥、探したんだけどー」
と言われる。

「ああごめん、てかもう行かなきゃダメ?」
「まだだけど、気づいたら翔弥どこにもいないんだもん。惣田古谷が今やってるからそっち行こ」
「了解。」

とりあえずここで、葉月とはさよならだ。



「じゃあ、詳しいことは後でライン送る」
と俺は葉月に言った。






……でまあ、凛太にニヤニヤされるのも分かっていた。その通りだった。


「葉月と和解したの?」
「いや、会ったから話してただけ。涼成の件については、日曜日会って話すことにした」
「まじ?まあ、今週の土日くらいだもんな、時間あるのは」
「そうなんだよね。だからその時に思ってたこと全部話そうと思って」

凛太も、俺と葉月の話は1から今までずっと見てきているわけだからな。



部活の人にも少し見られていたらしく、後程数人にこのことを話すことになったのは言うまでもないけど。












で、その、日曜日の午後となったわけだ。


部活を終えて、俺は緑陽駅へ葉月のことを迎えに行った。こっちで生活して3年目になるけど、駅前なんて滅多に来ないから未だに何があるのか分からない。帰省の時は、親の車で帰るし、最寄りの駅はまた別だし。別に学校の近くにも大きい建物も駅もバスターミナルもあるし、緑陽駅行く意味ないんだよね。人多いし。

まあ、地元の南市よりは、流石発展都市の緑陽市だなぁとは思う。



俺は着替える暇もなく、部活の物を置いてそのまま着た。だからまあ、部活着です。目立つけどまあいいや。特に今は、やましい事とかないし、ただ本気で話したいことがあって会うだけだから。





「その格好ですぐ分かった」

と、やってくる葉月。葉月は部活は今日までお休みのようで、バリバリ私服だし化粧までしてるし、髪型もいじってるし。やっぱ高校生になるとオシャレになるんだな。可愛いよ、なんて思う。


「まあ、見慣れた格好?」
「しかもこれ中学の時から着てるじゃん」
「たまたま今日の部活これで行っただけだしー」

なんて他愛のない話をしながら、葉月が行きたかったというお店に行くことになった。


今や緑陽市はスイーツが有名で、新しい、インスタ映えのするようなお店も続々とオープンしているらしい。葉月の見せてもらったら、色々とあるんだなって。

女子だけかと思ったら、部活帰りっぽい男子集団とかも見かける。やっぱり人気なんだな。こういうところは。部活引退したら行ってみようかな。テニス部の誰かと。


で、行ったお店は抹茶スイーツのお店。実はお互い昔から、抹茶大好きなんだよね。俺は抹茶ラテだけにしたが、葉月はパンケーキを注文。これがずっと食べたかったと言っていた。




「そういえば、個人も団体もインターハイ出場おめでとう」
「ああ、ありがと。てか個人戦のインハイ掛けの時お前その試合見てただろ」
「バレた?」
「おかげで凛太がいちいちうるせえんだ。試合中なのに馬鹿にしてくる」



自分は先日のインターハイ予選では、見事個人戦はベスト4、団体戦は優勝し、団体個人共にインターハイを決めることができた。自分はここ最近全国大会を逃していて、昨年個人戦で出たインターハイ以来だろう。






「んでまあ、本題に入るけど。涼成との話を聞きたい。なぜ付き合ったのか、最低限そこだけでも。」
「いや、この際だから全部言うよ。」
「言える限りでいいよ別に。」
「とりあえずね、」

と、話を聞くと、高校2年生に入る前に、涼成が葉月に告白していて、涼成本人は、自分の気持ちにケジメを付けたいから告白するだけした、ということだった。だから涼成だけは責めないでくれ、と、葉月も言う。

でも、葉月は、その告白をOKした。俺としばらく離れてて、色々と心が寂しかったと。それでまあ、葉月的には、その寂しさを埋めようとしたらしい。
でも本人は、後々それを後悔するようになり、このままじゃ、葉月が俺のことを裏切ったも同然だから、俺ともう一度向き合えないからと、最初は涼成のことを好きになろうと決意したみたい。でも、ダメだったとか。



「……とりあえず、寂しい思いさせたのはごめん。特に連絡も取れてた訳じゃないから。」
と俺は言う。

「でも元々こうなるって、中学卒業する1年前から分かってたことなのに、ちゃんとできなくて涼成のところに逃げるように行った私が1番悪いし、1番最低なことした。」
「確かにそこは葉月が悪い。世間的に考えるとね。俺も正直、この件の葉月のことは意味わかんなかったもん。みんなの話聞いてて。」
「本当にごめん。」
「でもそうさせてしまったのは俺のほうだから、俺も悪いんだよね。まあ、結果どっちもどっち。」



まあ、とりあえず俺は、今まで思っていたことを全部言った。今までのモヤモヤが晴れた気分だ。スッキリした。

実際俺も、葉月のことを見捨てたと周りから思われても同然だったと思うのさ。連絡してなかったし。お互いの近況報告ぐらいとかは、すればよかったのかな、なんて。

涼成と葉月が付き合ったと知った頃くらいに、同じ小学校だった人で今は白石工業で活躍している馬田智貴にこの話をしたことあるけど、それは翔弥も悪いと思う、って言われたことがある。まあ、みんな思うわ、それは。


後輩の夏原空都が、現役中ではあるが付き合っている女の子がいるみたいで。好きな子とは一旦別れたけど、結局今はコソコソと付き合っている状態なんだけど、空都の話聞いてたら、俺も色々と考えさせられた。だから空都には、感謝してる。






「1つ聞いていい?」
と俺は話を持ちかけた。

「何?」
「実質俺が部活引退して恋愛解禁するのもあと2ヶ月なんだけど。俺が部活引退してから、葉月のところに戻りたい、って言ったらOKしてくれる?」

今日1番聞きたかったのはこれだ。


「じゃあ逆に質問。翔弥は私のこと好きなままでいてくれたの?」

と、更に聞かれる。まあ、隠しても何も無いから、全部正直に言うよ、俺は。


「好きだった。何だかんだ忘れられなかった。2年生の時は忘れようとしたけど、でもダメ。県大で見かけた時無意識で目で追ってるって言われてるぐらいだから、きっとそう。」

凛太たちにはよく、また葉月のこと見てるーなんて馬鹿にされてきたけど、でも逆にそのおかげで、俺の気持ちがまだまだ存続しているんだな、ってことに気づいた。本当に、無意識にやってたから。


「私もそう。だから涼成と別れた。本当に自分勝手な女で、私自身嫌になっちゃうけど」
「じゃあ、付き合うっていうのはいいってこと?」
「いいってこと。」
「まあ、まだあと2ヶ月、待たせなきゃいけないけど。」

8月の国体予選を終えると、北陽のソフトテニス部は1年を終える形になる。俺ももうそんな時期か。早いなぁ、なんて。



「今度こそは、約束守るから。ちゃんと翔弥のところに戻るから。」
「信じていいんだよね?」
「うん。」
「…なら、良かった。」



内心は本当に、安心した気分だ。俺もつい、笑顔になってしまった。自然と笑顔になるなんて、あんまりないんだよな、俺。凛太みたいに感情豊かじゃないから。いつも怖そうなんて言われてるから。ははは。






そのあとは、お互いの今までの話をした。進路の話、部活の話、とか。




まあ何だかんだ話し込んで、この日は終わった。

駅の改札前まで送ることにしたので、ここでお別れだ。


「じゃあまた、8月。」
「うん。バイバイ。インハイ頑張ってこーい!」
「ありがと。葉月も色々と頑張って」
「はーい!」



俺の恋愛も、また、動き出しているのかな。