時々、そんなことを考える。
手にしていたゲームのコントローラーを、思わず握りしめた。
その途端、手に振動が返ってくる。びくりとして画面を見れば、そこにはゲームオーバーの文字が浮かんでいた。気づかないうちに、暫くの間手を止めていたらしい。
「……はあ」
最近は減ってきていたと思ったのだが―小さくため息をついて、ゲーム機の電源ボタンへと手を伸ばす。緑色のランプが、赤色へと変わった。
それは思い出せば身震いしてしまうような、何をしていても思わず思考がその一つに絡め捕られてしまうような、自身の中では最も思い出したくない記憶だ。
それでも、嫌というほどに鮮明に焼きついたあの日の記憶は、どれだけ時間が経とうと自分の中から消え去ってはくれそうにない。
自分の意思とは裏腹に、動かない足。振りほどかれた手と、彼女の辛そうな、今にも泣きだしてしまいそうな、表情。
ひとつひとつを思い出すたびに、一体自分はあの時どんな顔をしていたのだろうか。なんて、今更どうにもならないのに、そんなことが、頭の中に浮かんでくる。
それから、次彼女に会う時、どんな顔で会えばいいのだろうか、なんてことも。
分かっている。この世界に帰ってきてから、彼女とは何度も言葉を交わした。
再会した時こそお互いにぎこちない表情で、何を話せばいいのか分からなかったものの、今ではそれも緩やかに、少しずつ、修復されていることも。
分かっている。自惚れでさえなければ、彼女も自身の事を嫌ったり、軽蔑したりしていないことは。
…それでも、どうしようもなく自己嫌悪に襲われるのだ。
彼女がどんな言葉をくれようとも、あれは自身の責任で、許されることではない。
むしろ、許してくれない方が良かったのかもしれない。
そんなことを言えば、彼女は困ってしまうのかもしれないけれど。
再び、目を開いたあの時。
自分はあの神社の前に一人立ち尽くしていて、隣に彼女は居なかった。
どこを見ても、どこを探しても、何度呼びかけても、そこに彼女は居なかった。
それからは、…本当に、思い出したくもない、というより、何をしていたのか、自分でもあまりよく覚えていない。
家族には、随分迷惑をかけたと思う。一ヶ月もの間行方不明になっていて、それでいてその間の記憶は無い、と言うのだから。
けれどもその時の自分には家族を気にかけるような余裕もなかった。ただ、自分は帰ってきて、彼女を連れて帰ってくることは、出来なかったのだと。
僕は、彼女の手を放してしまったのだ。
それだけは、理解が出来た。
床に置いていたスマホが震える。
そちらに目を向ける。ただのゲームの通知であることを確認すると、画面を再び切った。
消えた画面に映し出された自分は酷い顔をしていて、思わず力のない笑みが零れる。
(…そういえば、最近、三人で遊んでないな…)
彼にも、久しぶりに会いたい。
そんな考えが一瞬頭をよぎるが、すぐに緩くかぶりを振る。
無視されたらどうしよう、と思うと、自分から連絡を取ることすら出来ないのだ。
それを彼に言えば、彼はいつもの軽口で笑い飛ばしてくれるのだろうけれど。
他人に親切に、優しくすれば、上手く生きていけるのだと、思っていた。
もちろんそれは自身がそうしたいからしているのであって、義務だとか、仕方なく、だとかでしている訳ではない。
元々、そういう性格らしい。人の喜ぶ顔を見るのが好きだ。それがこちらに向けられていないとしても、笑顔を見ると嬉しくなる。
ただ、……あれ以来、自身は以前にも増して、人と関わることを恐れるようになってしまったと、思う。
理由は分かっている。
怖い。
また、あの時のようになるのかもしれない、と考えると、酷く恐ろしい気分になる。
そうなれば、きっと二度と帰っては来れない。何故かはわからないけれども、確信があった。
彼女とは、あれからも何度か奇妙な―それこそ、一歩間違っていれば帰って来られないような出来事に、巻き込まれた。
帰ってくるたびに、彼女の体温を感じるたびに、自分は酷く安心している。
情けないことだが、それこそ一人の時に、幼子のように泣いてしまっているのだ。
だからこそ、帰って来れなかったときのことを、考えてしまう。
どうか、どうか叶うことならば。
今度は、彼女だけは、…彼女の事だけは、守りたい。
例えそれが、彼女以外の人に、害を為すことになっても。
…僕が、犠牲になるとしても。
優しさだけでは、人は救えない。助からない。
「…ごめんなさい」
誰に向けるわけでもない謝罪が、一人の部屋に、嫌に響いた。