墜落する星への願い事

肌が、ひんやりとした外の外気に触れる。
それは思っていたよりも肌寒くて、いつのまにかすっかり秋になっていたのだと、そんなことを考えながら彼に借りた上着を少しだけ寄せた。

外はしんと静まり返っていて、自分以外の生き物の姿は見当たらない。
既に時刻は深夜と呼ぶにふさわしく、日付が変わる少し前なのだから、当然と言えばそうなのかもしれないが。
空には雲の姿はほとんどなく、星と月がチカチカと眩しいくらいに輝いていた。

(…心配そうな、顔をしていた)

家を出る時、彼はまるで小さな子供をおつかいにやるような、そんな不安げな表情で数度、大丈夫か、と尋ねてきた。
自分はそれに、笑って大丈夫だと告げて、こうして今外を歩いているのだけれども。―正直なところ、あまり自信はなかったのだ。
もちろん、少しの間こうやって物思いに耽りながら歩いて、気が済めば、何食わぬ顔で彼の待つあの家に戻るつもりだ。
彼以外の頼る知り合いなど自分には既に一人も居ない。それでなくても彼の元を離れるつもりもないし、離れたくない、と思っている。



眠ることをあまり必要としていない体とはいえ、昼間よりも幾分か緩慢な動きになってしまう。



空を見上げると、今日は月が一層大きく、黄色く、美しく見えた。もしかすると、満月なのかもしれない。
その美しい黄色を見ていると、ふと、彼のことを思い出した。
まるで彼の髪の色みたいだと考えて、そういえば彼の名前にも月が入っていることを思い出す。何となく可笑しくなって、笑みが零れた。

目的地もなく歩いていた足を止めて、踵を返す。彼の家に帰ろう、と、そんな考えが自然と頭に浮かんだ。
帰って、一緒にこの夜空を見ながら、他愛もない話でも出来たらいい、と思う。
出来ることなら、…そんな日が、ずっと続けばいいと、思っている。願ってしまう。

自分はもう神様に祈ることが出来るような、生き物ではないけれど。
それでも、誰も見ていないような、こんな何でもない日に流れる星に願掛けをするくらいは、許されるのかもしれない。

声に出さずに呟いた、あいしています、という言葉が、静かな夜の空気に紛れて消えて行った。