彼らがキラキラと輝く本物の星ならば、俺はきっとハリボテで作られたチープな電飾の飾りなんだろう。
無論見た目の話ではない。それだけならば自分の容姿が優れていることなんて、分かりきっている。飽くほどに言われてきた、聞いたきた言葉だ。
何か、もっと、本質的な何かが違うのだ―
「綺羅?」
自分のことを呼ぶ声に顔を上げる。そこには同じグループのかずくん―立花和葉が立っていた。
ぼんやりとしていた意識が覚醒したせいか、周りの音が一気に耳に飛び込んでくる。明るい音楽と、忙しなく動き回るスタッフの話し声。目の前に立つ目に痛いほどのスパンコールがついた衣装を身にまとった、彼の少し呆れたような不安げな声。
返事をする代わりに首を少し傾げると、かずくんは困ったような顔をして言葉を続ける。
「…具合でも悪いのか?」
「……んーん、大丈夫だよ」
彼と自身が立っているのはステージの上だ。今日は音楽番組の収録で、先日出たばかりの新曲を歌う予定だったはずだ。
そして今は丁度リハーサルが終わったところだ。恐らく本番前の休憩なのに楽屋に戻ろうともせずぼんやりと立ち尽くしていた自分を見かねて、彼は声をかけてきたのだろう。
ならいいけど、とまだ少し憂いを含んだようなままの彼へと手を差し出す。その手を見て怪訝な顔をした彼に、俺はへら、と力の抜けた笑みを浮かべた。
「疲れたから楽屋まで連れて行ってー」
目の前の彼の盛大なため息が、今度ははっきりと聞こえた。
*
ぼすん、と音がして体がベッドに沈み込む。大きく息を吐き出すと一気に全身の力が抜けて、もう一歩も動ける気がしなかった。
ごろんと寝返りをうつと、立派な天幕と天蓋が目に入る。正直悪趣味なベッドだなあとは思いつつも、変えるのもめんどくさいのでそのままにしている。
今日の収録は成功だった、と思う。珍しく自分のダンスの失敗もなかったし、他のメンバーはいつも通り完璧な歌唱とダンスだった。
キラキラと輝く衣装を身に纏ってステージ上に立つ彼らを思い出す。
同じステージに立っている筈なのに、時々、自身は彼らと全く違う場所にいるような、そんな気がするのだ。
輝夜綺羅、なんてアイドルになるために生まれてきたような名前をしているのに、その実自分の歌のダンスも誰よりも劣っていることは、十分自覚している。それが、自分の練習不足から来ていることも。
―ただ、それを直す気もないのだ。
本気を出しても、精一杯追いつこうとしても、何も見えなかったら、それこそ自分はどうしていいのか分からなくなってしまう。
最初から手に入らないものなら、求めたくない。輝く星になりたくても、…最初から、偽物だったならば、それはもうどうしようもないことなのだ。
それを逃げだと詰る相手も居るかもしれないが、それでも構わない。そもそも、自身は逃げでここまでやってきたのだ。
「……、」
体を起こす。ベッドの横には、大きな姿見が立てかけられている。
通った鼻筋と、大きな瞳と、透き通るような白い肌。染髪したわけでもない生まれつきのプラチナブロンドは、緩くウェーブのかかった髪質だ。
異国の血は入っていない。と、そういうことになっている。何故なら輝夜家の一族に、異国の血を引く相手と結婚した者は一人も居ないからだ。
周りの人間が自分に甘いのも、次男だから、という理由だけではないことくらい、この年齢になれば理解していた。
それだけの理由ならば、芸能活動を許されるはずがない。事実、妹である輝夜璃瑠は監視と言っていいほどの窮屈な毎日を送らされているし、既に高校卒業と同時に結婚することも決まっている。
だから、自身がこうやって芸能活動を始めたのは、家へのあてつけのようなものだったのかもしれない。もちろん本当にやってみようという気はあったし、折角どこの誰だかも分からない母親にもらった顔を生かせるのなら、それに越したことはないと思ったのだ。
ただ、少しでも困らせてやろうだなんて、あまりにも青臭い我儘だった。
そして結局、俺は賭けに負けた。父親にそれを告げた時、彼はこちらを一度も見ようとはしなかった。
所詮、あの人、…長男の代わりで、スペアでしかないのだから、何をしたって無意味だ。
それは、俺の元々の面倒くさがりな性分を加速させるには、十分すぎる理由だった。
「兄さんは…、…まだ仕事かな」
呟いた声は、僅かに掠れていた。こんな声でかずくんと喋った日には慌てて飲み物とのど飴を用意されそうだ、なんて考えて、少し笑う。