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365日のお題
おえかき帳 と おはなし
≫ついった垢 @aoicio
>色々募集中(20220505更新)

▼2022/04/04:小話 --設定関係

(ネルとアガートルージュ)



彼女は今日も死んだまま




僕の世界は全てが主様で構成される。
主様によって生かされる世界を僕はただ調律して、記録して、均衡を保ち、生かす。そして生きる。黄泉還りを果たした僕に主様は呪いを掛けた。二度と死なない様に。二度と我の元から離れない様に。二度と僕の肉の味を覚えさせない様に。その顔は兄では無かった、無くしたのは他でもなく僕で、煌々とした優越感に顔を歪ませる。さてはて、主様は言う。

「アレはまだ居るのか」

「そうですね、最初期の混乱も落ち着いて今は僕の世界を楽しんでいるようです」

「相変わらず愉悦に逃げる女だ。」

現実逃避なのだけれど、それを込みで主様は呟いた。僕らの母さんは主様が食された。そして生み出した、いや産み落とされたのが次の母さん。変質的に主様を愛する妄執に囚われた可哀想な獣。
春の日の午後。

「世界を知って育っただろう、そのうち神に輿入れ出来る迄に監視しておけ」

「器はどうされます」

「アレを愛したモノが創らないのであれば我が創る。子を産むしか利用価値のない神だ、我がその気になるまでは捨て置くが………それより貴様が産むか」

「気もないお言葉」

「我の世界は貴様一人でいい、他には要らん」

あぁきっと、この人は不幸になるのだ。
僕はただ、朽ちゆく傍らでそれを見届けようと思った。僕しか、この人の本質を見抜けてはいないのだろう…母さんの子供の一人は偶に主様を尋ねてくる。母親を食ったというのに満足そうで、抵抗が無い辺りが非情に可哀想だ。

「神でさえ自分本位に生きている。見返りを求めて打算的に生きている。我はだから父を殺した、母を食って、貴様も食った。我から逃げる神も進んで頭を垂れる神も全て食い尽くした。何故だと思う」

主様は語る。
教えを乞う。

「覚悟をしたからだ、それで世界に平穏が訪れるなら兄弟姉妹、一族郎党全て腹に入れてやる事にした。それで緋翠が我が手中に戻って来る事を想えば、正気を手放す事も諦めた。神は我が骨の一片残さず飲み込んだのだ。未だに血の味は覚えている、罪過の数を数える事等久しく飽きる位に咀嚼し嚥下し覚悟を決めて加虐の限りを尽くした親不孝は我以外におるまいて。なぁ緋翠よ、咎は何時現世に戻って来ると思う、我の器か好いた者の器か。何方にせよアレは殺す、次を創らねばならないな」

「殺すのですか」

当然に。

「喰う」

微笑が空気を震わす。
この人の殺し方は全て丸ごと飲み込む事だ。僕を食べた事で肉の味と罪の味を覚えた主様は、もう生きた獣しか口には入れなくなってしまった。普通は逆なのでは?と問うた事もあるが、『緋翠を殺した罪過を持ち続ける為だ』と返された。深層より愛い出て、愚かに喰らう。

「抵抗したらどうします」

器を創ったとして愛しているのであれば少なからず懸念事項は起こるもので。僕は主様が聡いことを知ってはいるけれど、同時に慢心される事も知っている。準備は万全に、決して主様を失望させない為に。

「はっ、抵抗などするものか。己大事さ故に愛から目を背け自らを殺す男だぞ。現実逃避にも程がある、その点は咎とお似合いか。逃げる癖を付けた奴は救われない、目を開いて己が現状を然と受け止めない限り、咎が何処で何をして死んだとして気付く訳が無かろうよ。見たか、咎が夢に出ただけで狂う姿を。我には理解出来ない、狂うくらいであれば我に接触を果たす位は頭が回ると思っていたがな。いっその事我が喰ってやろうか。夢の中で何時までも滑稽な様子を眺めてやろう、飽きるまでな」

「大事なものすら見誤るなら狂わなければ良かったのに。とても繊細……いえ、父さんと同じで頭の回りが悪い阿呆でしょうか」

「知らん、興味も無い」

「目の前で滅が喰ったと聞きました」

「滅……滅、あぁ本当に奴は咎を不幸に追いやる良いコマだ。だが父親に殺されなかった点は問題だな、処理する手間を省けた筈が」

「僕が殺します」

「捨て置け、取るに足らん」

安寧に、話は打ち切り。
無言と沈黙が続く世界。主様はまた暫し微睡みの中で思案し、僕はただ傍らにお仕えする。雨が降る、雪が降る、雷が轟く、太陽が照りつける。世界はそうして主様の為に無駄な命を回し続けるのだ。早く、早くこの方と終わりの先に歩みたい。



『また今日も人の話を聞かなかったわ。あれの耳は想像以上にくそ悪なのかしら?そうなのかしら?アルカナの話を聞かないで覚えてもいないなんてあいつほんと駄目よ。ちょっとでも覚えてたらアルカナの為に器を創らない、普通は。普通じゃなかったとしてもよ!馬鹿よ馬鹿、アルカナ今度は股間を蹴りあげようかしら』

「母さん、必死ですね」

『そりゃあね、だってアルカナは生き返りたいもの。どうせなら不老不死になりたいわ、そうして世界中を飛び回るのよ。死んでも死なないんだから素敵よね。そして何回でも父さんのご飯になるのよ』

「それは怖いな、主様の吐いたものの処理は面倒そうだ」

『うふふ、馬鹿みたい』

彼女は今日も笑うのです。
誰かさんが気付くまでの猶予。



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