おはなし倉庫

▼2018/09/02:月光院と音紬 --短文

『歩く爆弾だね』





「めでたいね」

倶利迦羅が微笑む。それは珍しく愛想だけの笑いではなく、心からの。そして小馬鹿にした笑い。

「だけどせっかくの挨拶に無愛想はいけないんじゃないかな、月光院」

笑いまじりの顔に冷ややかな目が合えば、火花がばちりと飛び散っていた。音紬はほんやりと(それでいて危険だと理解しながら)二人の顔を交互に見る。どうやら勝負に負けたのは月光院のようだ。悔しそうな内心は顔にせず、フンとそっぽを向いた。愛想がないのは元々である。

「あの…これでノーゼ達は、失礼いたします。執務中にお邪魔を致しました…」

「いいよ。久しぶりに照れた月光院を見れたしね。またいつでも一緒に来なさい。お茶菓子くらいは出せる」

「…ありがとう、ございます」

音紬が丁寧にお辞儀をする。顔は仄かにはにかんでいた。それから音紬は、そっぽを向いている月光院の服の裾をくいと引っ張り、退出の目配せをした。最高神の部屋でふてぶてしい態度が取れるのはまさに冥王くらいだろう。部屋を後にする二人の背中に倶利迦羅はヒラヒラと手を振って見送る仕草を見せた。そして扉が閉まると同時にふぅと息を吐く。流石の最高神でも、箱庭一無愛想な冥王には息が詰まる。堪えていた笑いは自然と口元から零れていった。

「もう…お兄様はもう少し皆さんと、仲良くしないと」

「……できない」

長い長い紅色の廊下を二人で歩く。音紬の腕の中にある花束は、何故か道行く純から受け取ったもの。アシェリアに押し付けられたと文句を吐いていた。ぶっきらぼうな月光院の反応に音紬が困り顔を浮かべれば、謝罪代わりの接吻が音紬の頬に落ちる。
照れ笑いを返した。

「…どうし、て?」

「君以外にこんな風に接するつもりはない。それから、もうお兄様ではないだろう」

「月光院でしょう。それは…慣れてないから、謝ります。ノーゼ以外にはっていうのも、嬉しいけれど……やっぱりお兄様には、ずっと笑顔でいて欲しいの」

我が侭かしら、と首を傾げる。その愛らしい表情に月光院は戸惑いを見せるも、こほんと咳払いをして理性を保った。どうしてこんなにも、妹に甘いのだろうか分からない。

「君が私の前以外で笑わないのなら、約束してもいい」

「まるで幼子みたい…お兄様ってば。ノーゼはお兄様の母親ではないのよ」

「…恋人だろう」

自然に目線が会い、軽い沈黙の後どちらともなく唇を寄せた。ここが廊下でなければ良かったのにと月光院は思いながら、名残惜しく唇を離す。
甘い、甘いそんな。

「廊下でそのような、淫らでふしだらな行為をするのは止めた方がいいですよ、月光院。それから、音紬も」

彼らが進行するはずだった場所。目の前にはいつの間にか、にこにこと普段と変わらぬ笑顔で立つアシェリアがいた。目だけは笑っていない。音紬はアシェリアの言葉に廊下だったことを思い出して、顔を真っ赤にして首を振った。相変わらず、月光院は仏頂面のまんまで。

「ア、アシェリア…様、」

「ご馳走様でした」

律儀に会釈。
二人の言いたいこと(この場合は言い訳だが)も聞かずにアシェリアは勝手に話を進める。やはり目だけは笑わない。むしろ怒りの念が込もっている。

「アッシェは別に気にはしないんですけど、あなた達のキスという行為を遥華や瑪瑙達、それに倶利迦羅の使役している方々が見てしまったら、教育諸々に良くないと思うんです。仲直りできて嬉しいだろうことは分かるんですが、時と場所はちゃんと考えて下さいね。あぁ、アッシェは構いませんよ。大事なことですから二回言いますけれど」

おほほ、と一言。
真っ赤になったリデルと無表情のまま実は冷や汗だらだらな月光院を横目に、アシェリアは間を抜けて歩いていく。鼻歌混じりで、ほのかにスキップのステップを踏んでいたことは、何かの間違いだと思いたい。

「……お兄様の、馬鹿…」

何故か月光院は音紬に小突かれて、一週間口を聞いてもらえなくなるのはこれからの話。周りには注意しましょうという教訓の話。


あまあまちゅー
(噂になるまで)


輪廻に怒られました。



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