おはなし倉庫

▼2018/09/02:万里と永愛 --長文

『出会わなければ、』






慰めの片羽根

(ぎらだく/万永/R15)





月の綺麗な晩。
万里にとって今日という日は、寛容な彼でも気乗りしない人間の監視を目的としたソトの軍隊への入隊初日。当然仕事中には苛々や鬱憤は溜まり続け、何か手頃なモノに八つ当たりがしたくて眩むネオン街をさ迷う間も、なかなか気持ちは収まらない。街に屯する娼婦も男娼も、見目麗しい軍服姿の万里に感嘆の溜め息を零し目線を投げ声をかけて、万里への想像を膨らませていくのだった。初冬の風が冷たく肩を掠めて丁寧に束ねた金糸がひらひらと揺れる。
しばらく経つとはてはて、と万里は頭を傾げ立ち止まった。気の向くままに歩いていたせいかいつの間にか郊外に出ており、煌びやかなネオン街は遥か遠く、万里を嘲笑うかのように揺らめきを見せる。煩わしいモノが撒けたは撒けたでいいが、これでは都合が悪い。しかし戻るのも面倒で、郊外の散策をすることに決めた。そうするうちにやがて、広い草原地帯に繋がり穏やかな夜の闇を見た。吹き抜ける風の冷たさに悪寒がして、暖が取れる場所はないかと辺りを見回すと偶然にも明かりが付いた建物がある。住民が女性ならば、この苛ついた気持ちを鎮めさせるため襲ってしまおうかなどと悪癖に考えて、万里はその方向へと歩き出した。

「……聞き…けて……って…」

誰かの話し声が聞こえる。明かりが灯った建物はどうやら教会だったらしい…万里は瞬間自傷気味に笑みを零しつつ、敷地内に踏み入れ声のする方へ方へ奥へと進んで行った。死神の自分が一生訪れることがない筈の場所が、万里の仄かな興味を刺激する。

「さぁ、今日はここまでに致しましょう…皆様に良い夢と愛が訪れますように、アーメン」

跪く人々の真ん中に立っている人物は神父だろう。教会の外でわざわざミサを行う理由は分からないが、神父は聖書を片手に微笑みながら各々の背中を見送っていた。その美しい表情に万里は自らの時間を止め、脳裏に浮かぶ人物のことを思うと溜まりに溜まった鬱憤をこの神父にぶつけてしまえばいいと意地の悪い考えを思い付く。
心的障害という名。

「あのー…」

なるべく警戒心を持たれないよう紳士的に話しかける。はい、と柔和な声で振り返った神父はやはり似ていた、と思った。だからか万里に何百年振りかの体の疼きを齎した。悟られぬようゆっくりと近寄って行くと相手もこちらを気遣ってか、そばに走り寄ってくる。美しい顔を今から自分が歪めるのだと思うと歪んだ笑いが収まらない。

「すみません、今日のミサはもう終了させてしまっ……ん、っ…!?」

言葉を全て言い切らせる前に万里は神父の手を引き体を寄せ、その柔らかな唇を奪っていた。油断して緩んだ隙間にくちゅりと舌を滑り込ませ、舌と舌を絡ませていく。茫然と抵抗を見せぬ神父だったが、次第に脳が万里に今されている行為をはっきりと認識し、強い拒絶の抵抗を始めた。はぁはぁと荒い息で睨み付ける神父の瞳が、万里に鳥肌を立たせるような気持ちの良いの快感を心身に与え、歪んだ心を確実に内側に孕ませた。神父に至っては、まるで万里を汚らわしいモノかのように蔑み威嚇し、そのまま二人は見つめ合う形をとる。

「な、にを…いきなりっ…!」

「あぁ、やっぱり君は喜びより憎しみに満つる顔の方が遥かにそそりますねぇ。私の思った通りです」

「ふざけたことを!」

「本当本当。私ね、好きになっちゃったんですよー」

君のこと、と神父を愛おしく見つめる素振りで腰を引き寄せ頬を撫ぜる。遊び半分のその場のノリに合わせた万里の告白で、驚愕に目を見開いた神父を嘲笑する。そうしていやらしく背筋をなぞりながら、微かに反応を示す華奢な彼に荒々しくそして激しく、抵抗するスキすら与えずに再び唇を重ねた。くちゅくちゅと無機質な音が耳に届く。拒絶から堅く目を瞑る神父を嘲笑いながら、その体を重ねた唇を離さずに軽々と抱き上げた。急に宙に浮かぶ体に反射で瞑っていた目を開き、神父は落ちないよう保身のために首に手を回してしがみついてくるのが、万里には滑稽で仕方なかった。名残惜しくゆっくりと唇を離すと紡がれるのは互いの唾液。
いけないことだ。
彼にとっての。

「おろし、て…」

「いやです」

即答する。
万里との長い接吻で陶酔したのか、神父の抵抗らしい抵抗は手足をばたつかせるだけで、万里には痛くも痒くも感じない。そうしている間に教会聖堂の入り口にまで達した。万里は躊躇いもなくそのまま重々しい扉を開け、祭壇へと続く道に真っ直ぐ靴を響かせ進んでいった。

(神なんかいない)

当たり前だ。
自分が神なのだから。
神父を降ろした場所はマリアよろしく、石像の遥華が微笑む赤い祭壇の上。勿論邪魔なモノは異世界に放り込んでおいた後のそれ。しゅるり、と髪を結う朱紐を解くと万里は慣れた手つきで神父の手を頭上にてきっちり縛り上げた。何が起こっているのか困惑する神父が何故だか愛おしく感じる。
紛い物に感じる。

「…何をなさるおつもりですか」

「神に私達の愛を祝福でもしてもらおうかと思いましてね。君と此処で交尾なんて、神様だって見たことないでしょうから…ね」

「…なっ……!」

微笑む万里と驚愕する神父。拒絶の言葉さえ出ない神父を余所に万里が服を捲り上げると途端に足をばたつかせ神父は抵抗を見せる。人形は人形らしく、動かなければいいのにそうはいかない。万里は容易く膝裏を持ち上げ、神父を霰もない格好にさせるとざまぁみろと悪態をついた。
苛々は収まらない

「や…、嫌です!て、天罰が下りますよっ!早くお止めなさい!!」

「おやそれは怖い」

へらへらと万里は笑いを返して、持ち上げた足の付け根に顔を寄せ強く吸い付いた。ロングコートの下のホットパンツとニーソックスの絶対領域に栄える鮮やかな紅痕。綺麗なものだと不粋に考えながら、もう一度そこを舐め上げれば逃げ腰になる神父の華奢な体が面白い。諦めればいいものをまだ抵抗を見せる神父を万里はどうしても地に伏せたかった。底意地悪く笑い、神父のソコを軽く撫でるとピクリと体が反応し動きが止まる。確かにそこにあるのは布越しでも分かる男性器。微かに反応を見せているのは先程の接吻のせいだろうか。

(…結局はそうだ)

落胆の想い。
可笑しいものだ。
ファスナーが下ろしていく。あ、あ、と小さな悲鳴を上げる神父の声は後押しをしているようで。姿を現した綺麗で汚れを知らないモノをすぐに口には入れず、人差し指で先端をつつけばソコは万里に小さく反応を返した。

「ひぁっ…!」

我慢出来ずに神父が漏らした矯声に何故か自分もモノも反応してしまう。面白いと舌舐めずりをしてから、いただきますと律儀に呟いて、口に含むと根本から丹念に舐め上げ始めた。

「あ…やめッ、ひッ、はぁぁ…!」

上から下へと筋をなぞるように舐め、または鈴口を舌で刺激しながら口に含みしゃぶる。青臭さに慣れた口内でさらに深い快楽を神父に与え続ければ、やがて性器は完全に勃ち上がり、ピクピクと射精感に襲われ歓喜に震えていた。口の回りに付いた精液を指で拭い、絶望に放心する神父を万里はまじまじと見下ろす。服従しろと唆す。
なんて可哀想な生き物。
耳打ち。

「イきたいでしょう?」

「だれ、が…」

「素直になりましょうよ…君はただ、悦楽に身を任せてしまえばいい。そうすれば、絶望に悲しむことだって無くなる」

「だ、まりなさ…いっ…!」

「ヨガってたくせに白々しい。今も強がっていたって辛いんでしょう…お願い出来ますよね?」

私だって入れたくて仕方ないんですからと悪い笑顔を神父に向ければ、吐き返されたのは唾。ダイレクトに眼鏡に当たり、万里の顔に緩やかに滑り落ちる。汚れた眼鏡を外しそれを見つめたまま数秒間、突然万里の中で何かがぷつりとキレた。懸命に手の紐を外そうと暴れている神父の姿に消えそうにない苛々と鬱憤が神経を刺激していく。
壊せと囁く。
君が悪い。
気味が悪い。

「八つ当たりしますから、もう君が壊れちゃったって私には関係ないですもんねぇ…はははっ……」

暴れる神父の手を乱暴に片手で押し付け、手加減なしに右頬を叩けば乾いた音が、誰もいない教会内に響く。表情を変えた万里の様子に神父が恐怖からか、震えているのもお構いなしに話を続けていく。
自業自得である。

「優しくしてあげるつもりでしたが止めました。やっぱり私には向いてないみたいです。それにキミも私に逆らえばどうなるか分かる良い機会ですし…ねぇ」

これからのお付き合いのために、と吐き捨て神父の両足を高く持ち上げる。慣らしきっていない秘処に躊躇いもなく、万里は一気に自らの性器で彼の中を貫いた。

「いァ、ん、ぐぅッ…!」

途端に出た神父の痛々しい悲鳴は重ね合わせた唇が全てが消える。切れて流れる血さえも潤滑油にして、万里は神父の奥底に自分自身を乱暴に打ち付けていった。そうして悲鳴はいつか恍惚な嬌声に変わり果て夜に飲み込まれるまま悪夢を呼ぶ。
死神が捉えたのは。

『悪夢』

紛れもない

『現実』

鳥の声が朝を告げた。
目覚めた永愛の体は虚脱感に支配され、義父や子供達の顔をぼんやり思い出して涙が滲む。昨晩の事はもう過去の事になりつつあって、無理矢理広げられ、何度もイかされ、永愛自身から求めたなどと考えるだけで笑えてくる。軋む身体をやっとの思いで動かし、祭壇の横で無惨に脱ぎ捨てられていた服を掴んだ。泣きはらした目が乾燥し永愛の視界を拒む。悪魔のような男の、触れがたい唇のおぞましい感触を忘れたいがため、永愛はきつく噛み締め血の味に涙する。
ぐちゃぐちゃな体が惨めだ。


悪夢を見た悪夢
(最悪の出会い方)


悪夢より残酷な現実。
醒めない絶望。

「あぁ、すっきりした」

苛々は収まった。
覚めた快楽。





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