友達と飲んでくる、と言ったきり、帰りの遅いナナシが気になって仕方なかった。途中まで迎えに行く、とメッセージを送ると、しばらくして了承を示す言葉と、変なスタンプが返ってきた。彼女がよく使うスタンプだ。

 待ち合わせの場所にはまだ彼女は来ていなかった。新たな連絡が来ていないかスマホを眺めつつ待っていたが、ふと顔を上げると、道の向こうから肩を組んだ男女二人組が近付いてきていた。片方は迎えに来た彼女。もう片方は、どうにもウマの合わない男、ジェイミーだ。僅かな苛立ちを抑えつつ、軽く手を上げて声をかける。

「よぉ」
「あ、せんぱーい!」

 ナナシはだいぶ酔っているようで、いつもよりも更に間の抜けた声で返事をする。その顔は笑みで溢れていて、だいぶ上機嫌のようだ。
 しかしまぁ、隣の色男の存在が気に食わない。

「友達ってコイツかよ…」
「そうですよ、友達です!ね?」
「そうだな!」

 肩を組んだままで顔を見合わせ、ニコニコと笑いあう二人。体がじわじわと怒りに侵食されていく。

「で?そちらさんはなんでそんなにベタベタくっついてんの?」
「あ?これくらい普通だろ?な?」
「普通だよね!……?」

 二人は再び顔を見合わせて、笑みを交わした。さっきのやり取りと変わらないように見えるが、そんなことはない。アイツは俺の言葉を受けて、明らかに彼女への触れ方を変えた。肩を組むんじゃなくて、肩を抱く、だ。先程までよりも近い顔。キスだってできそうな距離。ぽやぽやした頭でも何かがおかしいことに気付いたのか、ナナシが不思議そうな顔をしたのがせめてもの救いか。
 ギリギリと奥歯を噛み締め、こめかみが引きつりながらもまだ怒鳴り散らかしていない俺は偉いと思う。

「ほら、帰るぞ」
「はーい」
「なんだ、帰っちまうのか?」

 俺の方へ来ようと身じろぎしたナナシに頬を寄せるように首を傾げてジェイミーが引き留めた。こちとら我慢の限界なんてとっくに過ぎている。カッと目を見開いて、苛立ちの原因の男の胸ぐらを掴んだ。

「おい、てめぇいい加減にしろよ!!」
「まぁまぁ怒るなって」

 余裕しゃくしゃくといった様子で、とぼけたような物言いに更に怒りは募ってゆく。

「帰るぞ!」

 乱暴に彼女の腕を掴んでズンズンと歩き出す。
 ナナシが呑気に、バイバーイ、だなんて手を振っているのを見て、彼女に対しても怒りが湧いた。




「先輩」
「ん?」

 手を引きながら早足で歩いていると、唐突に声をかけられる。振り返らないまま、不機嫌を隠せない声で返事をした。
 しばらく待っても彼女は何も言わない。
 足を止めて振り返るとナナシはじっと俺を見上げた。無言のままに時が過ぎる。薄暗い街頭の明かりでも分かるくらいに真っ赤な頬、真っ直ぐな瞳。その姿を見ていると、何故だか急速に怒りが引いていって冷静さを取り戻した。
 そっと屈んでゆっくりキスをする。柔らかな唇の隙間から吐息が漏れる。

「酒くさ」
「いっぱい飲みましたからね!」

 へらりと笑う彼女。つられてこっちも笑顔になってしまうのはいつものこと。今度は腕を掴むのではなく、優しく手を繋ぐ。先程までとは違って、穏やかな歩みで帰路についた。