緑の丘の上に建つレンガ造りの鐘塔を背景にして、純白のドレスを身に纏った女性が佇んでいる。僕は彼女の家族や友人たちに混じって、少し離れたところからその様子を見ていた。天候にも恵まれ青い空の下で太陽の光を浴びた彼女はよりいっそう輝いていて「綺麗ね」、「素敵」という賛辞の言葉が所々から聞こえてきたが、それに関して僕は全く同意見だった。彼女とは物心ついた時から数え切れないほど顔を合わせてきたけれど、今日が今まで見た中でいちばん幸せそうで、いちばん美しい姿だ、と心から思ったのだ。
そういえば、幼い頃ふたりで結婚式の真似事をしたことがあった。場所は彼女の家のリビングだったか。一緒に留守番をしていた時にテレビでやっていたとあるドラマのラストシーンで、主人公の女性がずっと恋心を抱いていた男性と結ばれ、結婚式を挙げた。彼女がどうしてもこれやりたい!と駄々を捏ねるので、僕は仕方なく使い古したテーブルクロスを床に敷いてバージンロードをつくり、カチューシャで留めたハンカチをベールに見立ててやって、「結婚式ごっこ」をした。今思い返しても恥ずかしいけれど、満足した彼女が目をきらきらとさせて、いつかあそこで本物の結婚式するんだ!と言っていたのをよく覚えている。
僕はそこまで思い出してから、そうか、ここはあのドラマの中でヒロインが結婚式を挙げたのと同じチャペルじゃないか、と今さらながら気づいた。町はずれの、古くからある教会。街中の便利な場所に数え切れないほど小綺麗な今風の結婚式場があるこのご時世に彼女がなぜわざわざここを選んだのか、今の今まで疑問にも思わなかったけれど。『やっと分かったよ。』そう心の中でそう呟くと、彼女はそれに気づいたように僕の方を見てふわりと笑った、気がした。