男性に「月下美人」の花を貰った。これだけ聞くと、まあ素敵な贈り物ね、なんて思う女性も中にはいるかもしれないが、当の私は一ミリもそんな印象を抱かなかった。なんたって店に届いたその箱は、花を送るにしては不自然なくらい背が高かったのだ。かと言ってスタンド花が入る大きさでもない。不審に思いながら恐る恐る開けてみると、中からは背の高い鉢植えが出てきた。確かに白い大ぶりの花がいくつかついてはいる。しかしその全体像は、花と言うよりは植物と言った方がしっくりくるような姿だった。
ほかの女の子が「センスなさすぎ」「迷惑〜」とか言ってクスクス笑っているのが聞こえてきた。贈り主はひと回り程年上の冴えないサラリーマン。女性慣れしていないんだろうというのは何度か店で会って何となく感じていたけど、まさかこんなものを送ってくるなんて。ひねりを効かせたつもりなんだろうか?花を贈りたいならお店に飾れるような花か、それが無理なら普通の花束なんかでも良いじゃない。私にこれをどうしろって言うの。
店に置かせてもらえないかと店長に相談してみたけれど、邪魔だし匂いもキツイから捨てるか持って帰るかしてくれないと困ると突っぱねられた。鞄やアクセサリーのように売ることも出来ない。捨てちゃえば?と言われたけど、まだ綺麗に咲いている花を届いて間もなく捨ててしまうというのも良心が痛む。悩んだ末、再び元通りに包み直し、わざわざマネージャーに車を出してもらって持って帰ってきたのだ。
部屋まで運ぶのを手伝ってくれたマネージャーにお礼を言い帰らせると、玄関には私と月下美人だけが残された。さあ、こいつをどうしてやろうかと鉢植えの入った箱を睨む。部屋に土が零れるのも嫌だし、とりあえず外に出すか。ゆっくりと廊下から部屋の中を通りベランダへ。タイマー設定のおかげでクーラーが効いていて助かった。あーなんで仕事終わりの疲れた体でこんなことしてるんだろ、私。そんなことを考え溜息をつきながら、箱から出し包装を解く。こんなことさっさと終わらせて休もう。
ベランダの一角に植木鉢を設置して改めてその姿を見てみると、月下美人はとても美しい花を咲かせていた。何だかお店で開けてみたときとはまた違う印象を受ける。ああ、ちょうど月明かりに照らされているからかな?月下美人って名前を持ってるくらいだし、月の光の下で見た方が綺麗に見える花なのかもしれない。濃厚な香りが湿度の高い外気と合わさって身体に纏わりついてきたが、不思議と不快ではなかった。
でも…水やりとかしなきゃけないのかな、やっぱり。花束みたいに、枯れたら捨てちゃってもいいんだろうか。一度も植物を育てたことのない私はこいつの扱いが少しも分からない。とりあえずスマホをポケットから出して、月下美人というワードを検索してみる。
えーっと…『夜にしか花を咲かせない多肉植物です』…『一晩だけしか花を咲かせないといわれています』…『年に2〜3回花を咲かせる場合もあります』…『花は基本毎年咲きますが、状態によっては一度も咲かないこともあります』
………………
ねぇそれ本気で言ってる?とりあえずこの花は夜が明けたらしぼんでしまう、と。今年また咲くかもしれないし咲かないかもしれない。来年も分からない。不確定要素が多すぎる。もう一度花を咲かせるためにはきっと、世話を欠かさないことが最低条件だ。そうか、あの客はただ花をプレゼントしたかっただけではなく私がこういうのを放っておけない性格だと分かっていて敢えてこれを選んだんだ。私がこれを家に持って帰るという選択をした時点で、彼の思う壺だったという訳。