この恋の始まりは、私の一目惚れのようなものだった。なぜ一目惚れだ、と言い切ることができないのかというと、別に容姿に惹かれたという訳ではないからだ。彼の纏う雰囲気や言葉、仕草、声。そういった彼が放つひとつひとつが生み出す、独特の空気感に一瞬であてられてしまったのだ。もしかして世間ではそういうのをひっくるめて一目惚れと言うのかもしれないけれど、そういうことに疎い私にはその線引きさえもよく分からなかった。恋は盲目とはよく言ったもので、彼を好きになってしまったあの日から、私はずぶずぶと底の見えない沼にはまっていった。あの人のトクベツになりたいと、私の心はどうしようもなく望んでいた。少しでも近づくために、努力は惜しまなかった。だけど彼にはその時もうほかにトクベツな女の子がいたのだ。その二人の関係は誰にも覆せなかった。踏み込む隙なんて一ミリもなかった。それでも好きでいることをやめられない。気持ちを消すことはできない。結果は誰の目にも明らかだったけれど、告白をした。なにもせずに終わってしまうより、せめて気持ちを伝えたかった。それは私にとって初めての恋で、初めての失恋だった。皮肉なことに、告白をして玉砕してからも私の気持ちが冷めることはなかった。会話できた日はそれが一言二言の他愛ないものであろうと嬉しくて舞い上がったけど、あの娘の面影を見た日はそれはそれは落ち込んだ。恋というのはこんなにも忙しなく、しあわせで、つらいものなのか。全部を合わせるとたぶんしんどいことの方が多いのに、嬉しいことが少しでもあると、これで良かったんだと思えてしまう。なんて非合理的なんだ。分かってる。分かってるのに、やめられないよ。