■ ■ ■


 エントロピーの法則というものがある。物事は放っておくと次第に無秩序になっていき、それが自力に元に戻ることはないという法則だ。身近な具体例としてあげられるのが部屋。生活すればするほど物が増え、散乱し、無秩序になる部屋は、掃除しない限り綺麗にはならないのだ。
 まあ、何が言いたいかと言うとだ。


「テスト前ってさ、勉強よりも部屋の掃除したくならない!?」
 
「だからってなんで俺の部屋でソレをやり出す」
 
「だって、あまりにもローの部屋がアレなんですもの……私、そんなズボラな子に育てた覚えはありませんことよ! グスグスッ!」
 
「気色悪ぃことすんな。
 ……はぁ、掃除したら、満足するんだな???」 
 

 そもそも片付け自体はエントロピー関係ないだろ、とローはため息をついた。ごめんな、化学の教科書読んでたら見つけただけで正確には"現実逃避"だもんコレ。もーヤダ、なんも分かんない。
 
 お菓子の空き箱をまとめてゴミ箱に投げて、さあ始めるぞと立ち上がる。ローは優しい。こんなどうでもいいワガママに付き合ってくれるのだから。
 

 ・・・・・



「まあ、あらかた整ったか……。じゃあこれ捨てて来るから待ってろ。戻ったら再開な」

「おっけーい」


 ゴミを捨てに部屋を出るローを見送った瞬間からおれのタイムアタックは始まる。実はこの掃除には意味があった。あ、現実逃避以外のね??

 名付けて、『ローの好きな子さぐっちゃえ大作戦』ーー!!! パチパチどんどーん!!!
 

 最近学校である噂が流れている。

 ローに、 "あの" トラファルガー・ローに好きな子がいるのだという。
 初めはおれも嘘だと思ったさ。だって「クール・イケメン・医者志望」とまるで少女漫画のヒーローのようなステータスのくせして、誰の告白にも頷かず、ず〜っとおれの馬鹿に付き合っている男だぜ?? 学校のマドンナちゃんも振った日にゃコイツの息子は不能かと思ったよ。
 だからローに好きな子がいるなんて信じられなかった。でもどうやらホントらしい。告白を断られた女子達曰く、「あの顔で話すほどの相手にはかなわない」と。けしからん。そんな相手がいるというのに一番の親友を自負する俺に言わんとは!!!

 おれとローの関係値は意外と高い。小学校からの仲だと伝えるとみんな驚く。まあ学年一位と平均以下だもんな!! ヤダ泣きそう!!!!
 そんなわけで、おれの初恋マリちゃんの好きな人はローだったし、委員会で一緒になったメグちゃんに振られた理由はローだし、入学式で仲良くなった隣の席のナナさんはローがおれのクラスに遊びに来る度に見つめてるし…………おれを慰めて誰か。気になる子みんなローに行くんだもん。初めはローのこと知らなかったり興味なかったりしてたのに、いつの間にか取られてる。頼むから早く誰かとくっついて!! そしたらおこぼれに預かるから!!

 さてと、ローの家は広い。ゴミを捨てると言っても戻るまで5分はかかるし、ローのことだからお茶も新しくいれてくれる。フッフッフ。親友として、恋のキューピットになってやるよローきゅん!

 
「へっへへー、まあまずはお約束のベッドの下だよねーってないよな知ってた、さっき掃除した時確認したもん。エロ本ぐらい置いとけよ〜」
 
 
 
「伏せてある机の上の写真立てはー、ってなんだ、俺とのツーショじゃん。懐かし! 中学の卒業旅行だ。また一緒に旅行したいなー」




「あ、おれがあげたキーホルダー。まだ持ってたんだ。センスないとか言ってたくせに……後でからかってやろーっと!」



「こっちには──アルバムだ! 好きな子の写真とかーっておれとの写真しかないじゃん!! つまんねーなぁ。たしかにずっと一緒とはいえこんなにあるのかよー」



 しばらく物色したがめぼしい物は見つからなかった。クソ、そう簡単に証拠は残さないってか。いろいろ思い出が見つかっただけで終わってしまった。そろそろローも戻ってきてしまうだろうし、仕方ない。大本命行っちゃうか!


 生徒手帳!! 実はうちの学校、生徒手帳に好きな子の写真を挟むと両想いになれるとかなんとかってジンクスがあるんだよねー。てか、ローがそれやってたら可愛すぎるだろ。これで見つかっちゃったら二重の意味で恥ずかしいだろうから避けてたけど、我慢できない。見ちゃえ!



「はーー、なんだよまたおれの写真かよっ……は? なんでおれの??」


 そこに挟まれていたのは寝顔だった。だらしなくよだれをたらし、気持ちよさそうに寝ているおれ。撮られた覚えがない。寝ているから当たり前だけど盗撮写真だ。これいつのだ? 日付は……前のテストの勉強会の時か? でも、何で。おれの写真なんか挟んだって意味ないはず、、えっ、あれ?? もしかしてさ、ローの好きな人って



「おい。」




 目の前からパッと奪われた写真。振り向けばこの部屋の持ち主が戻ってきていた。背筋に冷や汗がつたう。ローはいつも通りの仏頂面で、何を考えているのか全く分からない。心臓の音がうるさい。でもバクバクと鳴り響くそれ以外に音がしないからありがたいかも。沈黙。スっと息を吸い込んでローは口を開いた。


「いきなり掃除させたと思ったら家探しするとは、いいご身分だな??」


 ローの額に青筋がピキリ。その発言は妥当も妥当。その通りすぎて思わず。


「す、すみませんでしたー!!」


 おれは平伏し、許しを乞うた。



 ・・・・・

 
 部屋を漁ったことの説教を正座して甘んじて受ける。はい、おれが悪かったです……ごめんなさい……おれはアニサキス以下です……生まれてきとすみません……チリになりたい……。
 しばらくして、ローはおれの頭を軽くはたいたのを最後に、何事も無かったかのように勉強を再開させた。おれもソレに倣って勉強道具を広げ始める。まだ心臓はとくとくと鳴り響いてる。でも盗み見たローは変わりないし……や、やっぱり気のせいだったのかな。


「おい……この試験終わったら改めて言うから、覚悟しとけ」

「え……な、何を」

「フッ、知ってる癖に。気づいたんだろ?」



──言っとくが、俺はもう遠慮しねぇからな?





 シャーペンをカチカチと鳴らすローは悪い顔で微笑んだ。ニヤリと口角を上げて、眼だけが爛々とキマッている。
 ポカンと眺めてしまったおれ。は? いや待ってくれよ勝手にひとりでスッキリするなよ!! ひとりで話進めて覚悟決めんな!!! おれまだ何も理解してないから!!! そんな悩みが晴れたような顔しないでくれ!!!!!

 来週からテストなのにおれはどうしたらいいの!!! 悶々と過ごせと!!!???


 やっぱり掃除なんてするんじゃなかった!!!!! おのれエントロピーーーィィイ!!!!!!
 
 
時間よ、頼むから戻ってくれ!

ローさん誕生日おめでとう
 
 


list

Top