転生と同時に終了のお知らせ
叫び声が聞こえる。イチゴ飴ェェエエ!!!だってさ。ああ、きっと隣の部屋の子供だろう。去年産まれたばかりだったし、しかたない。おれが我慢してあげなくては。欲しいお菓子が手に入らないから大騒ぎするなんてことが許されるのは、今のうちだけなのだし。まさか大人になってからもするなんてそんなことナイナイ…………そうだよね??????
一心不乱にページをめくる。嘘だ、そんなの嘘だ。認めたくない。ありえない。だって、だって全部フィクションだ。そうだろ?そうだと言ってくれ。
「ああっこんなところにいたのね──『 』!ほら、こっちに来なさい!」
「待って、ちょっと待ってよ。全部夢だ、幻だ……こんなの悪夢だ」
「そうよ悪夢なのよ!ママの食い患いは─って説明はあとよ!とにかく逃げ、な、きゃ」
ドシリ、と音を立てて『ママ』が図書館に足を踏み入れた。血走った目がこちらを睨む。今にも泣き出しそうなのを、震えが止まらないのを誤魔化せなくてもおれを抱きしめて隠そうとする──なんて立派な『姉』なのだろうか。さすがあの『シフォン』の双子だ。おれがのほほんと考察する間にも、『ママ』は足音を轟かせる。おれたちの前に立つと──彼女の、代名詞とも言える台詞を言った。
「
ライフ オア トリート?」
なんて見覚えも聞き覚えもある台詞だろう。その経験はあくまで、紙面の上と画面からの音声だったけど。当然、気絶寸前の覇気を浴びせられたりもなかったけど。
「ママ!こっちだっイチゴ飴を召し上がれ!!」
そこに駆けつけた、記憶より幾分か若い『兄』がイチゴ飴を差し出す、もとい『ママ』の口の中に作る。名を呼ばれ振り向いた拍子に生じた風圧でおれの隣にあった本のページがパラパラとめくれた。そのページで説明されてるのは『ゴムゴムの実』。その本の名は、『悪魔の実大辞典』。助けてくれた『兄』の名は、『ペロスペロー』。抱きしめてくれていた『姉』の名は、『ローラ』。
そして姉の庇い立ても虚しく、逃げ遅れた原因であることが兄にバレて、一時間にも渡るお説教を食らったおれの名は。
「いいな?これに懲りたら、ママの発作が起きたらすぐ逃げること。忘れないように!わかったな───『フランペ』」
「……はい」
なんでおれがフランペに成ってんだよぉぉおおお!!!!
◆◇◆
おれは何の変哲もないモブ高校生!彼女もおらず遊園地デートにも行かず、別に怪しげな組織の取引現場も目撃していない。ただ普通に部活して帰って少し寝て、目が覚めたら────
「シャーロット・フランペに成っていた……ほんまかいな」
あれ、関西弁喋るのは西の名探偵だから違うな。というかあいつにもかっわいい幼なじみいるんだよな。いいな、おれもやればよかったかな名探偵。
とまあ、現実逃避はそこそこにして…………なんでなん???おれ、本当にモブだよ?特徴も何も無い、教室に2、3人はいるタイプの地味な青年。ワンピースはライトオタク。せいぜい例の歌姫映画で二次創作も嗜むようになっちゃった程度。……ほんとにライトだよ、キャラメル・ママとか知らないもん。
だから、今自分に起きてる現象の名前も知ってる。『成り代わり』ってやつだ。やっててよかったオタクゼミ!でも先生、読むのはいいけど自分がそうなるのは別なんだよね!おれ自己投影はしないタイプのオタクなんです。
しかもよりにもよって『あの』フランペかよ。おそらくホールケーキアイランドで一二を争うレベルで読者からのヘイトを買ったキャラ。あの吹き矢事件以降、平穏無事かつ順風満帆な人生なんて約束されないだろ。こういう転生ってチート特典あるはずなのに始まりからジ・エンドとか何それ美味しいの??
というわけで、原作軸からは綺麗なフォームで某逃げるんだよォーをかましたいところだけど……問題がひとつ。むしろ目下の悩みはそこだ。名前や顔が本誌に出たかどうか定かじゃない兄弟姉妹なら良かったんだよ。今まで通りのモブ人生を謳歌できた。なのに。
「フランペってメッッッチャ重要なキャラじゃん……」
おれの最後のワンピの記憶はお玉ちゃんかわえぇー、だ。能力を使うのにほっぺつまんでちぎるの、字面はアレだけど仕草は超可愛い。よって当然ホールケーキアイランド編は全て履修済み。だから、フランペが何をやらかしたのかもよく覚えてる。
「いくらルフィが成長してたとしても元々優勢だったのはカタクリだし……フランペの行いがカタクリを負けさせたようなものだよな……」
おれは麦わらの一味最推し&箱推し勢だったが、カタクリも二番目に好きな敵キャラだったからあの戦いをよく覚えてる。何遍も読み返してカタクリとブリュレの兄妹愛に感動した。え、一番目は誰かって?クロコダイルさんに決まってるだろ。あのルフィが3回戦までやってようやく勝ったお人だぞ!?もっと敬え……と、それはさておき。
正直おれは今すぐにでもこの家から逃げたい。今まだ四歳児だけど。ついさっき前世を思い出したばかりのバブちゃんだけど。でも、おれがいなければ誰がカタクリを弱体化させる?誰があの尊い勝負に水を差せる?だから、おれはここにいないといけない。いずれ敬愛し、心酔するであろう兄を貶めるために。
…………いや待て、無理にあの
性格になる必要ねーな。程々に仲のいい弟を演じてればいいんじゃね?それこそ、助太刀しようとしてもおかしくない程度の弟。あの人の弟妹ってフランペが過激派なだけで他の人たちも崇拝してたし。あくまでおれの最推しは麦わらの一味。それなら……ふふふ、悪いなロメオ、ファン第1号はおれが頂くわ。