忠誠誓って?兵士諸君
すううっと空気を吸い込み、一瞬腹の底に留める。そしてそれを一気に解放するようにおれは声を張り上げた。
「ファンクラブ心得伍か条ー!!」
その壱!
「「「推しは愛でるものであり触れるものではない!!」」」
その弐!
「「「推しの通りし道はレッドカーペットと心得よ!!」」」
その参!
「「「推しの邪魔をするなかれ!!」」」
その肆!
「「「推しの御心を害するなかれ!!」」」
その伍!
「「「YES推し活!!NOタッチ!!我らは観客、パーテーションの向こうから歓声嬌声を上げるべし!!」」」
おれの号令に合わせて目の前にずらりと並ぶ同志達が心得を謳いあげる。淀みない意志を示すがごとき決意表明と熱気にやられてか、天井のシャングリアが揺れる。今日の集会もつつがなく終わった。さて、いつもの言葉で締めるとしよう。
「それでは最後に───
カタクリ(おにー)様、サイコーーー!!!!」
ファンクラブはやらないと言ったな、あれは嘘だ。……いや嘘じゃなかったんだけどね?少なくともあの時点では本気だったんだけどね??だってそうじゃん。既存の集まりに加わるならまだしも、一から作るのなんてえげつない労力が要る。会の立ち上げ、申請、会員名簿の管理、会費の折衝、集会場所の準備、日時の指定、広報エトセトラエトセトラ……マァジで面倒くさい。
でもおれは頑張るよ。どんな心境の変化だよというツッコミが聞こえてくる気がするが、これにはブラックコーヒー並に深ーい理由があってね……
△▼△▼△
おれが成り代わってから一年弱。おれは5さいになった。しかしなまじ中身がアレなため幼児らしい振る舞いなんて全く分からない。ウーム、ここは某天才園児のクレヨンなあの子の真似でもしてみるか……?ねぇねぇお姉さーん、ビターチョコたべれるーぅ?…サブいぼできてきた、やめよう。おれにはハードルが高すぎた。
自分で言っててもドン引きレベル、あまりの寒さに「へくちっ」とくしゃみをし、おれは腕をさすった。そんなこんなで他の兄弟姉妹たちといい付き合いができないまま日常を過ごしていたおれは、ひとりぼっちで街を散歩する。べ、別にさみしくなんかないやい!
そして、その瞬間は訪れる。おれにとって忘れられない一日が幕を開ける。
衝撃。暗転。浮遊感。さらに頭への打撃。そして振動。遠心力。
単刀直入に言おう。誘拐だ。あの"ママ"相手に何を考えていたのかはつゆ知らないが、身代金や侮辱、憂さ晴らし……というのが妥当だろうな。
まぁ、おれに金をかけて取り戻すほどの価値もなければ、子供一人攫われた程度で名が廃るママでもなし。悲しきかな、最も意味がある目的はおれを奴隷市に出したりママの代わりのサンドバッグにするという"憂さ晴らし"だけなのだ! 泣いてもいい??
こんなことになるなら、もっと家族と仲良くしてればよかった……なんて儚き第二の生よ。
波の音が聞こえる。成功を喜ぶ誘拐犯たちの声がする。ああ、もう無理だ。助けなんてこない。結局ホールケーキアイランド編まですら生きられないなんて。
船が大きく揺れる。とうとう出航した。これからのおれの使い道をおれの入った袋の真横で話さないでくれ。天竜人に売り払うとか言うなよ!泣くぞ!!うぇーんっごめんなさい殴らないで蹴らないで!!
『フランペ』に過去を描写するほどの深みはなかったから、おれはアイツのことを何も知らない。だから、原作でもこうだったのかだなんて分からない。
でも、おれの場合は今この瞬間。この世界が、フィクションからリアルへと変貌した。
「無事かフランペ!」
「カ、カタクリにーさん……」
「酷い痣だな……すまない、遅くなった」
「う、うえええええええええんんんん!!!」
中身の話は忘れてくれ。年甲斐もなく大泣してしまった。助けてくれた。意図的に関わらないようにしてたのに。避けてたのに。可愛げのない、弟だったはずなのに。
「あぁ、良かった。
今度は守れた。もう大丈夫だ」
ポンポンと優しく頭を撫でられて、抱き上げられて。そして死体も血だまりも何も目に入らないように隠されて連れ帰ってもらった。
この時から、おれの中の認識は変わった。カタクリは『大好きな漫画のキャラクター』から『大好きな兄』に変化した。そうして城に帰り、安静にするようにと言いつけられたベッドを抜け出し、
「誰だ……ってフランペ? ダメじゃないか。誘拐されかけたのだし、ゆっくり休みなさいとお医者さんに」
「ペロスにーさん……」
「ん?」
「お……僕に、」
ファンクラブの結成方法を教えて欲しい!!!