「ザーキ!おはよー!」
後ろからドン、と豪快にタックルするように抱き付いてきた原を、山崎はいつものようにぐっと踏ん張って堪えた。毎日がラフプレーだ。
暑い暑い死んじゃう!と言いながらもじゃれついてくる原をあしらいながら、熱されたフライパンのような通学路を歩く。
今日は学校の登校日。久し振りでもない制服を着て、歩く二人。
赤い自販機の前でピタリと立ち止まる。
「ザキ、俺このままだと干からびて死んじゃう。ジュース奢ってよ」
「は?なんでだよ!」
「良いじゃん!!」
「いやよくねーよ!」
「ちぇー……ザキの癖に生意気ー」
ガムを膨らませながら、不服そうな顔をして財布を取り出した原は小銭を入れると、ボタンを押す。
「げ!間違えた!ザキーこれあげる」
「自分がいらねえもん渡すなよ!…まあ、ありがとうな」
「はいはいどういたしましてー」
そう言った原は、笑っていた。
*****
別クラスの原と分かれて、教室に着くと既に瀬戸は席に着いていた。万年眠たげで、山崎は散々迷惑を被られているのに、今日に限ってしっかりと目覚めていた。
丁度瀬戸の前が山崎の席で、おはようと声をかけて席に座る。鞄の中の荷物を取り出している最中に 、重大なミスをした事に気が付いた。
「げ」
「どうしたの山崎」
「…………筆箱家に忘れちまった」
「あーあ。今日抜き打ち小テストあるっていってたじゃん」
「はー…まじかよ…」
頭を抱える山崎。
買いに行こうにも、時間がない。
そんな山崎の様子に、頭上から溜息が落とされる。
「ほら、このシャーペン使いなよ。消しゴムも貸したげる」
「ありがとうな瀬戸!あと「返さなくていいから」……って被せんなよ!!」
「はいはい、どういたしまして。ほら先生きたよ」
そう言った瀬戸は、苦笑していた。
*****
「嘘だろ…」
昼飯購買戦争、まさかの敗北。
手柄は何もなし。
成長期で食べ盛りの男子高校生にとっては、死刑宣告に近かった。
いや寧ろ死刑宣告だ。
絶望に暮れる山崎の後ろ姿に、古橋が声を掛けてきた。
「おはよう山崎。どうしたんだ?」
「ああ、古橋かおはよう…。購買がまさかの完売で俺の昼飯がない………」
「すまないが意味がわからない。そんなことが本当にあるのか?」
「そう思うならいっぺん見てこいよ!」
「分かった」
「本当だったな」
「だろ!?」
このままだと死んじまう……と死にそうな声で呟いた途端に大きなお腹の音が哀しく響いた?
「…………今日は食パンを焼いてな、中々の良い出来でとんかつサンドを作ったんだ。調子に乗って沢山作ったから、お前にわけてやろう」
「ふ、古橋、お前神かよ…ありがとう!!」
「どういたしまして」
そう言った古橋は、無表情だった。
*****
蒸し風呂のような体育館。
だらだらと流れる汗が目に沁みて、思わず基礎練の動きが止まった。
「あーくそアチぃ…」
「おいヤマぁ!!サボってんじゃねえぞ!!」
花宮の怒声が瞬時に飛ぶ。
自分だけ涼しい顔をして指導している花宮に少しだけムカついて、言い返した。
「少し位いいじゃねえか鬼監督!」
「なんだ、その反抗的な態度!」
「汗が沁みて痛いんだよ!」
「そうかそうか、ヤマは基礎練だけでなく特別なメニューがしたいのか?それならそうと早く言え」
「え?」
「ヤマの為に俺が直々に考えた特別メニューだ。……やれるよな?」
「いや、その、」
「御礼は?」
「あ、アリガトウゴザイマス…」
「ふはっ、どう致しまして」
そう言った花宮は、相変わらず捻くれた笑顔をしていた。
*****
部活後の部室。
練習後の自主練と花宮特製メニューを何とか終わらせた山崎は、ふらふらの足でなんとかロッカーには辿り着いたが、そのまま床に座り込んでしまった。
「お疲れ様ザキ、今日は一段とキツかったな」
「お疲れ様まっつん、いやマジで死ぬかと思った………」
そう呟いた山崎は、消え入りそうな声だった。
松本は思わず笑う。
「まーまーそんな日もあるだろ。…………山崎、ハッピーバースデー!ほら、受け取れ!」
「え、これ俺にか!」
「当たり前だ」
「………え、マジかよ!俺が欲しかったリストバンドじゃん!まっつんありがとうな!今日初めて祝われたわ………」
「え、アイツらから貰ってるだろ?」
ジュース。
シャーペン。
とんかつサンド。
特製メニュー。
「……………おいマジかよ!あれそうだったのか!!!?」
「気が付いてなかったのか…」
そう言った松本は、呆れたように笑った。
『ひねくれ者共のバースデー』
(まあ俺も普通に渡す訳がないがな)
(え)
(原ー! いいぞ!)
(ザキ覚悟!)
(え、ちょ、ギャアアアア!!)
(イエーイ顔面ケーキ大成功!)