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「……は…?」
それが、私の第一声だった。
…私の…秘密…?…
ハッタリだそんなの……
でも…なんで…
どうしてッ…?…
(…頭が…回らな……)
『………。』
視界が揺れているような気がする。揺れているのは私の方だ。フードの喰種は困惑した私の様子をただジッと見つめ、それ以上は何も口にしなかった。
そしてそのまま身を翻すと、ただそれだけを残し私達の元から立ち去ろうとした。
「!?…待てッッ!!」
「なまえちゃんッッ…!!」
六月くんの静止の声も聞かず、気付けば私はその喰種の後を必死に追いかけていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
大ホール手前にある、仮の控え室。今は物置として使われている様子のその室内に、乱雑に置かれた備品と私達は居た。
「…ハア…ハア…ッ…速いですね…」
『…ついてこれるなんて貴女もなかなかですね、みょうじ三等』
(名前まで知っているのか…)
「…貴方には色々と伺いたいことがあります。…もちろんコクリアで、ですけど」
『はは、怖いなあ〜〜。ま、大人しく投降する気もさらさら無いけどね』
「では…力づくでッ……!!」
右足を踏み込み、一気に相手の懐へと切りかかる。左、右、正面、時には下方から。反撃の隙を与えぬよう、手を決して緩めることなく攻撃を仕掛け続ける。…持久戦、私にとってここはハイセさんとの特訓成果の見せ所だった。
(…ッ!!決めるッ!!)
ほんの一瞬、相手の手元が揺れる。その歪んだ隙を見て、私が一気に攻撃を強める。
「…ハアァッッ!!!」
『ッ!?!?』
――キィィィィインッッ…
『ッ………』
「…観念、してくださいッ…!」
相手の赫子を弾き返すと同時に、首元へと入り込み、すかさずマウントポジションをとる。相手の喉にクインケを突き立てると、ハァ、ハァ、と呼吸する度、肩が揺れる。
(…勝った。)
「…部隊に連絡を入れます。大人しく降伏して下さいね…」
『…ふっ…はははッ…!』
「!?何がおかしッ…!!」
『いやぁ…ねえ、君はいつから僕が"単独犯"だと思い込んでたの?』
「ッ…!?」
マズイ…そう思った時にはもう遅かった。
――ズシャァァァァアアアッッ!!
「ああぁぁぁあああッッ!!」
背中が急激に熱を帯びる。熱い熱い熱いッ…!!背後からの突然の攻撃。火傷のようにジリジリとした痛みが、まるで全身を走るかのように私を襲う。
「う、ぅぅう…ッ…ふ、…フーッ…フーッ……」
うずくまる体を起こせないまま、気が狂いそうな痛みに耐えようと必死に呼吸を整える。
これは、フードの喰種"以外"からの攻撃。まさか背後に仲間が潜んでいたとは…戦闘に夢中で気付けなかった私の失態である。
「ッ、はあっ…う、ぅ…ッ…」
「……本当、なまえちゃんは可愛いよ」
「…ッ!?!?!?」
「マウントをとれて、ああ安心!…なんて顔しちゃって」
(な、…んで……!?)
見開いた目が捉えた姿に、一瞬だけ呼吸が止まる。聞き慣れた声、長身によく似合う白いコートと、両手にはクインケ。ニヒルに笑うその表情は、私が知っている彼の姿ではなかったけど。
「ごめんね、これ、契約だから」
「…さ、…の…上等…ッ…!」
私の血で赤く濡れたクインケを仄めかしながら、いつものように白鳩のコートに身を包んだ…佐野上等が立っていた。
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千年続く、幸福を。