【もしも巴に禪院巴としての記憶がなかったら】
「ッ巴!!!」
そんな声が聞こえて、身体に衝撃が走る
突然のことに驚き思考が停止する
そして状況を理解した
自分は今、謎の男に抱え上げられている
「あの…」
「声も巴だ!匂いも!」
よく分からないが、この男が自分の匂いをも知っている変態さんだということは分かった
「五条先生、あの、助けて下さい」
男の行動を見ながら腹を抱えて笑う担任に救いを求める
「ほら巴が困ってるから、離して」
五条先生に窘められても男は離すどころか、人の腹に顔を埋め深呼吸をし始めた
「あぁ久しぶりのスゥハァ巴だ、お前はスゥスゥいつでもスゥハァ可愛いな」
これは本格的な変態さんである
そして担任は笑いながらとうとう地面に倒れ伏せた
自分で何とかするしかない
「先程から僕を知っているようですが、どちら様ですか?」
声が届いていることを祈ってそう聞いてみる
「あぁ?お前巴だろ、何言ってんだ?」
男は言外に聞かなくても分かるだろと言っているようだった
「残念だけど、巴にお前の記憶はないよ」
スっと五条先生は立ち上がって言った
「はァ?」
そういきり立つ男の腕の中で首を傾げる
「記憶とは何のことでしょうか?」
「おいマジかよ」
項垂れる男に罪悪感を感じる
「あの、お兄さんのお名前は?」
「…甚爾」
甚爾と名乗った男は怒られた子供のような顔で抱きしめてきた
「甚爾さん?」
「お前は…いや何でもねえ」
甚爾さんは何かを言いかけて、そしてやめた
「へえ、弟に忘れられたらアンタでも落ち込むんだ」
五条先生は意外なものを見たかのように言った
「へ、あ、え?弟?僕が?」
「いい、忘れろ」
頭が混乱する
甚爾さんが僕の頭をガシガシと雑に撫でた
「巴、今いくつになったんだ?」
唐突に甚爾さんが年齢を尋ねる
「?17です」
あと1年か、そう呟く甚爾さんを五条先生は引き攣った表情で見ていた
1年後に何があるんだろうか
そんなことを考えていると再び身体に衝撃が走り、僕を抱える腕が変わった
「悠仁、危ないでしょ!」
思わずそう注意する
「ごめん兄ちゃん!」
謝る弟だったが、僕を抱き上げたままで下ろしては貰えないようだ
「おいガキ、そいつ返せよ」
「お前兄ちゃんに変なことしそうだから、絶対やだ」
すると甚爾さんがフッと笑って言った
「お前と巴は兄弟で、俺と巴には血縁関係はない。この意味わかるか?」
「赤の他人ってことだろ!」
珍しく悠仁が怒っているようで、グルルと喉を鳴らしながら威嚇している
「違ぇよ、つまり俺と巴は近親相k「ちょっと黙ろうか」
甚爾さんが何か話している途中で、五条先生が甚爾さんを殴りつけた
「痛ってぇな、何しやがる」
「可愛い生徒たちの前でそういうこと言うのやめてくんない?」
五条先生が甚爾さんに説教を始めた
そして悠仁は甚爾さんの言いたい事が伝わったのか、僕のことを降ろしたあとガシリと肩を掴んできた
「兄ちゃん、お願いだからこの人に関わんないで」
悠仁の余りの剣幕に了承しそうになるが、恐らく学校関係者なため無理な話だ
「えっと、うーんどうだろ」
とりあえずお茶を濁すような返事で許して欲しい
「そういや巴は2年だよな?」
甚爾さんが思いついたかのように聞いてきた
「あぁそれね、色々あって僕のクラスだよ」
「じゃあ俺と一緒じゃん!」
悠仁の嬉しそうな顔に僕も嬉しくなる
「は?」
鬼のような顔をした甚爾さんがいなければ、だが
「お前が巴の担任とか無いわ、俺と代われ」
「嫌ですぅ、僕が巴と恵の面倒見るんで〜」
そして甚爾さんと五条先生の喧嘩にも似たやり取りが殴り合いになり、そして夜蛾学長に殴られて終わった
今日も高専は平和である
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