3
僕は神なんて信じていない
あの日、弟が奪われた日、僕の世界から神は消えた
僕が信じるのは僕だけだ
それでよかった
でも家にNRCからの手紙が届いた
僕に続いて二通目の、モナ・アーシェングロット宛の手紙だ
もしかしたら生きているかもしれない
お願いです、神様
どうかあの子を僕の元に返してください
僅かな可能性にかけ、大嫌いな神に縋るしか無かった
そして迎えた入学式
あの子はまだ見つからない
諦めかけたその時、視界の端に懐かしい白菫色が写った
僕より少し色素の薄いあの子は、僕と同じ色ではないことを嘆いていた
白菫色の彼の顔を盗み見ると、あの頃の面影を色濃く残した顔がそこにあった
やっぱりあの子は!モナは生きていた!
数年離れていたくらいで僕があの子を見間違うはずが無い
僕は今すぐモナに駆け寄って抱きしめて、それから笑っておかえりを言いたかった
しかし寮長としてこの場にいる以上、それは出来ない
それに何よりもあの子にかっこいいところを見せたかった
モナはどうやら車椅子を使っているみたいだ
今まで帰れなかったのはそのせいかもしれない
ついにモナが寮分けされる番が来た
オクタヴィネル寮以外はありえないので、鏡に問うまでもないが兄としてモナの勇姿を見守る
ところでモナは何故ファーストネームしか名乗らないのか
そんな疑問が頭をよぎった
まさか記憶がないとか?
きっと僕が急に兄だと名乗ったら混乱させてしまう
そうなると僕と同じ部屋にするのも難しいでしょう
でも僕が傍にいたらいつでもモナのサポートができる
しかし僕が傍にいるとなると、もれなくあの邪悪な双子がついてくるだろう
僕はモナのことをあの双子に話したことは無い
僕とモナの関係を知らない訳ではないだろうが、面白いことが好きな双子だ
穏やかなモナは二人のお眼鏡には適わないだろう
というより暴力の擬人化とも称される双子は、なるべくモナに関わらないでほしいというのが兄としての本音だ
記憶喪失かもしれないのにそんな危ない二人を近づける訳にはいかなかった
そんなことを考えつつ新入生を寮へ案内しようとすると、学園長が何やら面倒事を抱えてきた
火を噴く魔獣に魔力のない新入生なんて厄ネタ以外の何物でもない
その新入生には悪いがモナとは接近禁止命令を出す必要がありそうだ
僕とリドルさんで協力して魔獣を捕え、ちらりとモナの様子を伺う
あの頃のいじめられていた僕とは違って、今の僕は優秀だとモナに知ってもらいたかった
モナはぼんやりとこちらを見ていただけで、やはり僕のことは覚えていないようだった
寮までの道は車椅子では辛かろうとモナを手伝おうとするも、どうやら魔力を糧として動いているようで足を生やしたての人魚よりもするすると動いていた
それに少しだけ悔しく思いつつも、格好良い兄でいるために顔には出さない
寮に着き新入生たちに部屋割りを発表する
モナは車椅子が嵩張るだろうと理由をつけて一人部屋だ
他の新入生たちの不満が出ないように寮長である僕の隣の部屋にした
いくら一人部屋とはいえ、寮長の隣部屋に来たがる人などそうそういない
決して、断じて、モナが困った時に真っ先に手を差し伸べられるだとか、それで好感度を上げようだとかの意図はない
それから僕とモナの美しい兄弟愛が紡ぐ物語が始まった
ら良かったのに!
あれからどれほど待ってもモナが僕に助けを求めることは無かった
モナの友人がシャンデリアを壊して連帯責任で退学になりかけても、ハーツラビュルの決闘騒ぎ及びリドルさんのオーバーブロットに巻き込まれても、サバナクローの傷害事件に脅かされても、レオナさんのオーバーブロットに巻き込まれても、助けはおろかそれを僕に伝えることも無かった
そもそもどうしてオーバーブロットが立て続けに起きるのか
それにモナが巻き込まれるのは、恐らく監督生と仲良くしていることが原因だろう
やはり監督生には早い段階で釘を指しておくべきだったか
今は双子の興味も監督生に向いている
出来ればモナがこれ以上変なことに巻き込まれないように監督生からは引き離さなければならない
次のテストでは去年よりも僕と契約する人は増えるだろう
上手くいけばそこでモナは監督生に愛想を尽かすかもしれない
──僕の目的のため、それに何よりモナの安全のためにも今年の計画は完璧でなくてはならない
┈┈┈┈┈┈┈
面白いタコの人魚に弟がいると知ったのは彼がいなくなってからのことでした
僕達がアズールと一緒にいると時折視線を感じることがありました
彼がいなくなって視線の正体がその弟だということ気づきましたが
彼が亡くなったとされてからアズールは憔悴し、彼がいなくなった分を補うかのように色々な人と契約をしていました
そんなアズールですが、僕達が2年生に上がる前辺りからどこか期待するかのような、クリスマス前の子供のような落ち着きのなさがあります
表面上は取り繕っていますが、それなりの付き合いである僕達にはわかりますよ
アズールから何も言われてないので、特にこちらから聞くこともありませんでした
そんな中、事前に渡されていた新入生名簿を確認しているとき、モナ・アーシェングロットの名前を見つけようやく理由がわかりました
アズールは僕達がモナさんに絡むことを良しとしていません
ですので今のところは、モナさんのことは様子見ですかね
あれから寮長の方々がオーバーブロットをしたりと様々なことがありましたが、監督生さんはその全てに関わっているそうです
魔力のない監督生さんがオーバーブロットを止めたなんて話もありますし気になりますね
モナさんもどうやら一緒にいるようですが、やはりそれよりも監督生さんです
巻き込まれ体質といいますか、この学校では珍しい気質をお持ちのようでとても興味深いです
監督生さんが暮らすオンボロ寮をアズールも狙っているわけですし、これからの計画には監督生さんの行動にも気をつけなければなりませんね
┈┈┈┈┈┈
アズールがオーバーブロットをした
オレたちが小エビちゃんたちで遊んでるときに、サバナクローの奴らがラウンジで暴れて契約書を砂にしたらしい
詳しく聞いたことねーけど、アズールにとって契約書は兄としての矜恃だとか何とかだってジェイドが言ってた
まあそれだけじゃなくて色々あるんだろうけど
その辺どーでもいいけど、アズールはみっともなく泣き叫んでオレらからも魔法奪おうとしてきた
小エビちゃんたちと何とか押さえこんだけど、騒ぎに気づいたアズールの弟が飛び出してきてやばかった
“お兄ちゃん”って呼びながら必死にアズールに回復魔法かけてんの
マジで弟クンまでオーバーブロットするかと思った
その前にアズールが目を覚ましたから、そうはならなかったけど
てかアズール、弟クンが記憶喪失だと思ってたとか笑えるんだけど
弟クンずっとアズールのこと見てたのに
泣きながら話すタコの兄弟を見ながらオレはジェイドとそう話してた
┈┈┈┈┈┈
入学してから色々なことがあった
同じクラスの友達のところの寮長がオーバーブロットしたり、違うクラスでも仲良くしてくれる友達の寮長がオーバーブロットしたり
でも別にそんなことは大したことではなかった
数年ぶりに兄と再会した、にも関わらず兄が僕に対してよそよそしいのだ
僕も鈍くないから理由はわかる
兄は僕を弟として認めたくないのだ、だが寮長として無視する訳にもいかずに困っているのだろう
あの日、兄に渡せなかった本は未だに渡せぬまま引き出しの中にしまってある
きっとこのままずっと渡すことはないのかもしれない
誰よりも優しかった兄に見限られた僕は何を目標に生きればいいのだろうか
今までは兄にまた認められたい一心で頑張ってきた
でも兄の目に再び僕が映ることは無い
僕は再会してから今までずっと、兄を“お兄ちゃん”と呼べずにいる
入学して初めてのテストが終わった
結果を見ることなく足早に部屋に戻る
車椅子では迷惑になってしまうし、ジャックが結果を教えてくれるというのでお言葉に甘えることにした
だから僕は翌日学校内にイソギンチャクが群生しているのを見て、すごくびっくりした
聞けば兄と契約して得意魔法を担保にテストに向けた虎の巻を貰ったらしい
50位以内に入れば魔法も返して貰えたらしいけど、契約者の数が多すぎて多くの人が50位以内に入れずにイソギンチャクが生えて強制労働を課せられているみたい
あれ自業自得では?
ちょっとは弟としての贔屓目もあるかもしれないけどサボろうとした自分たちが悪いのに、そこかしこで兄の悪口が聞こえてムッとしてしまう
エースとデュースとグリムまで契約してるし
エースたちまでお兄ちゃんの悪口言うから、軽くイソギンチャクを引っ張ってやった
ちなみに僕は4位だった
兄ならもっと上手くやれるのに
僕はやっぱりあの人の弟として不出来だと思う
悔しくて今日はずっとテストの復習をしていた
だから監督生が兄と契約してオンボロ寮を取られたなんて知らなかった
監督生とジャックが少し忙しそうだ
兄のことで何かしようとしてるのかもしれない
監督生もジャックも優しいし大好きだし、できることなら手伝ってあげたいけれど兄の嫌がることはしたくない
だから監督生たちの行動を見て見ぬふりしてしまった
それから数日後
寮もとい、モストロ・ラウンジが騒がしかった
嫌な予感がして、できる限り車椅子に魔力を込めて最速で向かった
そしたら大好きな兄が倒れていた
まだ認められてないのに
ごめんなさいもありがとうも満足に伝えられていないのに
僕のできる最大限の回復魔法を使用した
何をしてもお兄ちゃんを助けたかった
僕を制止する周りの声も耳に入らなくて、黒く濁った魔法石も見えなかった
兄が目を開いたとき僕は泣きながら抱きついた
兄から嫌われても鬱陶しがられても無視されてもいいから、生きててくれるだけで嬉しかった
──モナ?
掠れた声で僕の名を呼ぶ兄の声が聞こえた
「お゛兄ち゛ゃん゛っ!!」
兄の優しい目がまた僕を見てくれていた
┈┈┈┈┈┈
アズール先輩がオーバーブロットしてから、モナくんは私たちと過ごす時間が少し減った
アズール先輩がモナくんを片時も手放そうとしないのだ
さらにいうとモナくんがいない時に私たちのところに来て、「もしモナを危ない目に遭わせたら分かっていますね?」と冷たい笑顔で言い放っていた
それはそうとアズール先輩はモナくんがやばい双子に付き纏われてることを知っているのだろうか
いやフロイド先輩が「これアズールにバレたらやばくね〜?」って笑っていたから恐らく知らない
モナくんもモナくんで双子に遊ばれているのが面白くないのか、よくリーチ兄弟に噛み付いている
二人からしたら子犬(子ダコ?)がじゃれているとしか思っていないようだが
あの二人にはモナくんの小生意気な態度が少し珍しいのだろう
それにしてもあのアズール先輩がブラコンを拗らせていただなんて驚きだった
モナくんがとある本をプレゼントしたときには、きっかり3分固まって無言で泣き始めた
この時の動画はジェイド先輩が持っているようだ
アズール先輩は大切な弟からプレゼントを貰った記念として動画を保存しておくべきか、己の恥として削除させるべきか大いに悩んでいるとかいないとか
何はともあれモナくんが前より笑うようになったから、一件落着です
でもグリム、それからエーデュース
イソギンチャクから解放してあげたんだから、見返りは勿論くれるよね?
あの日、弟が奪われた日、僕の世界から神は消えた
僕が信じるのは僕だけだ
それでよかった
でも家にNRCからの手紙が届いた
僕に続いて二通目の、モナ・アーシェングロット宛の手紙だ
もしかしたら生きているかもしれない
お願いです、神様
どうかあの子を僕の元に返してください
僅かな可能性にかけ、大嫌いな神に縋るしか無かった
そして迎えた入学式
あの子はまだ見つからない
諦めかけたその時、視界の端に懐かしい白菫色が写った
僕より少し色素の薄いあの子は、僕と同じ色ではないことを嘆いていた
白菫色の彼の顔を盗み見ると、あの頃の面影を色濃く残した顔がそこにあった
やっぱりあの子は!モナは生きていた!
数年離れていたくらいで僕があの子を見間違うはずが無い
僕は今すぐモナに駆け寄って抱きしめて、それから笑っておかえりを言いたかった
しかし寮長としてこの場にいる以上、それは出来ない
それに何よりもあの子にかっこいいところを見せたかった
モナはどうやら車椅子を使っているみたいだ
今まで帰れなかったのはそのせいかもしれない
ついにモナが寮分けされる番が来た
オクタヴィネル寮以外はありえないので、鏡に問うまでもないが兄としてモナの勇姿を見守る
ところでモナは何故ファーストネームしか名乗らないのか
そんな疑問が頭をよぎった
まさか記憶がないとか?
きっと僕が急に兄だと名乗ったら混乱させてしまう
そうなると僕と同じ部屋にするのも難しいでしょう
でも僕が傍にいたらいつでもモナのサポートができる
しかし僕が傍にいるとなると、もれなくあの邪悪な双子がついてくるだろう
僕はモナのことをあの双子に話したことは無い
僕とモナの関係を知らない訳ではないだろうが、面白いことが好きな双子だ
穏やかなモナは二人のお眼鏡には適わないだろう
というより暴力の擬人化とも称される双子は、なるべくモナに関わらないでほしいというのが兄としての本音だ
記憶喪失かもしれないのにそんな危ない二人を近づける訳にはいかなかった
そんなことを考えつつ新入生を寮へ案内しようとすると、学園長が何やら面倒事を抱えてきた
火を噴く魔獣に魔力のない新入生なんて厄ネタ以外の何物でもない
その新入生には悪いがモナとは接近禁止命令を出す必要がありそうだ
僕とリドルさんで協力して魔獣を捕え、ちらりとモナの様子を伺う
あの頃のいじめられていた僕とは違って、今の僕は優秀だとモナに知ってもらいたかった
モナはぼんやりとこちらを見ていただけで、やはり僕のことは覚えていないようだった
寮までの道は車椅子では辛かろうとモナを手伝おうとするも、どうやら魔力を糧として動いているようで足を生やしたての人魚よりもするすると動いていた
それに少しだけ悔しく思いつつも、格好良い兄でいるために顔には出さない
寮に着き新入生たちに部屋割りを発表する
モナは車椅子が嵩張るだろうと理由をつけて一人部屋だ
他の新入生たちの不満が出ないように寮長である僕の隣の部屋にした
いくら一人部屋とはいえ、寮長の隣部屋に来たがる人などそうそういない
決して、断じて、モナが困った時に真っ先に手を差し伸べられるだとか、それで好感度を上げようだとかの意図はない
それから僕とモナの美しい兄弟愛が紡ぐ物語が始まった
ら良かったのに!
あれからどれほど待ってもモナが僕に助けを求めることは無かった
モナの友人がシャンデリアを壊して連帯責任で退学になりかけても、ハーツラビュルの決闘騒ぎ及びリドルさんのオーバーブロットに巻き込まれても、サバナクローの傷害事件に脅かされても、レオナさんのオーバーブロットに巻き込まれても、助けはおろかそれを僕に伝えることも無かった
そもそもどうしてオーバーブロットが立て続けに起きるのか
それにモナが巻き込まれるのは、恐らく監督生と仲良くしていることが原因だろう
やはり監督生には早い段階で釘を指しておくべきだったか
今は双子の興味も監督生に向いている
出来ればモナがこれ以上変なことに巻き込まれないように監督生からは引き離さなければならない
次のテストでは去年よりも僕と契約する人は増えるだろう
上手くいけばそこでモナは監督生に愛想を尽かすかもしれない
──僕の目的のため、それに何よりモナの安全のためにも今年の計画は完璧でなくてはならない
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面白いタコの人魚に弟がいると知ったのは彼がいなくなってからのことでした
僕達がアズールと一緒にいると時折視線を感じることがありました
彼がいなくなって視線の正体がその弟だということ気づきましたが
彼が亡くなったとされてからアズールは憔悴し、彼がいなくなった分を補うかのように色々な人と契約をしていました
そんなアズールですが、僕達が2年生に上がる前辺りからどこか期待するかのような、クリスマス前の子供のような落ち着きのなさがあります
表面上は取り繕っていますが、それなりの付き合いである僕達にはわかりますよ
アズールから何も言われてないので、特にこちらから聞くこともありませんでした
そんな中、事前に渡されていた新入生名簿を確認しているとき、モナ・アーシェングロットの名前を見つけようやく理由がわかりました
アズールは僕達がモナさんに絡むことを良しとしていません
ですので今のところは、モナさんのことは様子見ですかね
あれから寮長の方々がオーバーブロットをしたりと様々なことがありましたが、監督生さんはその全てに関わっているそうです
魔力のない監督生さんがオーバーブロットを止めたなんて話もありますし気になりますね
モナさんもどうやら一緒にいるようですが、やはりそれよりも監督生さんです
巻き込まれ体質といいますか、この学校では珍しい気質をお持ちのようでとても興味深いです
監督生さんが暮らすオンボロ寮をアズールも狙っているわけですし、これからの計画には監督生さんの行動にも気をつけなければなりませんね
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アズールがオーバーブロットをした
オレたちが小エビちゃんたちで遊んでるときに、サバナクローの奴らがラウンジで暴れて契約書を砂にしたらしい
詳しく聞いたことねーけど、アズールにとって契約書は兄としての矜恃だとか何とかだってジェイドが言ってた
まあそれだけじゃなくて色々あるんだろうけど
その辺どーでもいいけど、アズールはみっともなく泣き叫んでオレらからも魔法奪おうとしてきた
小エビちゃんたちと何とか押さえこんだけど、騒ぎに気づいたアズールの弟が飛び出してきてやばかった
“お兄ちゃん”って呼びながら必死にアズールに回復魔法かけてんの
マジで弟クンまでオーバーブロットするかと思った
その前にアズールが目を覚ましたから、そうはならなかったけど
てかアズール、弟クンが記憶喪失だと思ってたとか笑えるんだけど
弟クンずっとアズールのこと見てたのに
泣きながら話すタコの兄弟を見ながらオレはジェイドとそう話してた
┈┈┈┈┈┈
入学してから色々なことがあった
同じクラスの友達のところの寮長がオーバーブロットしたり、違うクラスでも仲良くしてくれる友達の寮長がオーバーブロットしたり
でも別にそんなことは大したことではなかった
数年ぶりに兄と再会した、にも関わらず兄が僕に対してよそよそしいのだ
僕も鈍くないから理由はわかる
兄は僕を弟として認めたくないのだ、だが寮長として無視する訳にもいかずに困っているのだろう
あの日、兄に渡せなかった本は未だに渡せぬまま引き出しの中にしまってある
きっとこのままずっと渡すことはないのかもしれない
誰よりも優しかった兄に見限られた僕は何を目標に生きればいいのだろうか
今までは兄にまた認められたい一心で頑張ってきた
でも兄の目に再び僕が映ることは無い
僕は再会してから今までずっと、兄を“お兄ちゃん”と呼べずにいる
入学して初めてのテストが終わった
結果を見ることなく足早に部屋に戻る
車椅子では迷惑になってしまうし、ジャックが結果を教えてくれるというのでお言葉に甘えることにした
だから僕は翌日学校内にイソギンチャクが群生しているのを見て、すごくびっくりした
聞けば兄と契約して得意魔法を担保にテストに向けた虎の巻を貰ったらしい
50位以内に入れば魔法も返して貰えたらしいけど、契約者の数が多すぎて多くの人が50位以内に入れずにイソギンチャクが生えて強制労働を課せられているみたい
あれ自業自得では?
ちょっとは弟としての贔屓目もあるかもしれないけどサボろうとした自分たちが悪いのに、そこかしこで兄の悪口が聞こえてムッとしてしまう
エースとデュースとグリムまで契約してるし
エースたちまでお兄ちゃんの悪口言うから、軽くイソギンチャクを引っ張ってやった
ちなみに僕は4位だった
兄ならもっと上手くやれるのに
僕はやっぱりあの人の弟として不出来だと思う
悔しくて今日はずっとテストの復習をしていた
だから監督生が兄と契約してオンボロ寮を取られたなんて知らなかった
監督生とジャックが少し忙しそうだ
兄のことで何かしようとしてるのかもしれない
監督生もジャックも優しいし大好きだし、できることなら手伝ってあげたいけれど兄の嫌がることはしたくない
だから監督生たちの行動を見て見ぬふりしてしまった
それから数日後
寮もとい、モストロ・ラウンジが騒がしかった
嫌な予感がして、できる限り車椅子に魔力を込めて最速で向かった
そしたら大好きな兄が倒れていた
まだ認められてないのに
ごめんなさいもありがとうも満足に伝えられていないのに
僕のできる最大限の回復魔法を使用した
何をしてもお兄ちゃんを助けたかった
僕を制止する周りの声も耳に入らなくて、黒く濁った魔法石も見えなかった
兄が目を開いたとき僕は泣きながら抱きついた
兄から嫌われても鬱陶しがられても無視されてもいいから、生きててくれるだけで嬉しかった
──モナ?
掠れた声で僕の名を呼ぶ兄の声が聞こえた
「お゛兄ち゛ゃん゛っ!!」
兄の優しい目がまた僕を見てくれていた
┈┈┈┈┈┈
アズール先輩がオーバーブロットしてから、モナくんは私たちと過ごす時間が少し減った
アズール先輩がモナくんを片時も手放そうとしないのだ
さらにいうとモナくんがいない時に私たちのところに来て、「もしモナを危ない目に遭わせたら分かっていますね?」と冷たい笑顔で言い放っていた
それはそうとアズール先輩はモナくんがやばい双子に付き纏われてることを知っているのだろうか
いやフロイド先輩が「これアズールにバレたらやばくね〜?」って笑っていたから恐らく知らない
モナくんもモナくんで双子に遊ばれているのが面白くないのか、よくリーチ兄弟に噛み付いている
二人からしたら子犬(子ダコ?)がじゃれているとしか思っていないようだが
あの二人にはモナくんの小生意気な態度が少し珍しいのだろう
それにしてもあのアズール先輩がブラコンを拗らせていただなんて驚きだった
モナくんがとある本をプレゼントしたときには、きっかり3分固まって無言で泣き始めた
この時の動画はジェイド先輩が持っているようだ
アズール先輩は大切な弟からプレゼントを貰った記念として動画を保存しておくべきか、己の恥として削除させるべきか大いに悩んでいるとかいないとか
何はともあれモナくんが前より笑うようになったから、一件落着です
でもグリム、それからエーデュース
イソギンチャクから解放してあげたんだから、見返りは勿論くれるよね?