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俺は今、随分と間抜けな顔をしていると思う。目の前で無表情でスマホをいじる幼馴染み。俺にとっては新学期、研磨にとっては入学式の翌日の朝のこと。またこれから揃って学校へ向かう、そんな日だった。
「クロ、俺ね、トモダチできたよ」なんて、朝一番の会話にしてはパンチが効きすぎた話題だ。
トモダチ。友達。普通の人間からしたらそんなこと態々報告するものなのかは知らないが「よかったな」なんてありきたりな言葉で返す。
しかしあの研磨に友達。興味を持たないわけがない。

「……で、どんな奴?」
「ゲーム好きな奴。スマホのゲームのフレンドになろうとしたらもうフレンドだった」
「そりゃあスゲェな」

何のゲームだろうか。パズルとドラゴンなアレか、弾いたり貫通したりストライクするアレか。

「ゲーム上手い?」
「上手いよ」
「部活は?」
「決めてないって。中学は……確か卓球だったかな」
「まあ、馬が合う奴と同じクラスでよかったな」
「うん。昨日はお陰でマルチが捗った」

これだけじゃどんな奴か分からない。しかしあの研磨と打ち解けるなんて、例のゲーマーくんはコミュ力でもカンストしてんのか。

「……名前」
「あ、研磨。おはよ」
「おはよ」

あの研磨が普通に挨拶をしている……! しかも昨日会ったばかりなのに下の名前呼び……?! 信じがたい現実に色んな意味で震えた。それはもう。
恐る恐る目の前の男子を見る。背は研磨より高く、俺より低い。ぴょんぴょん元気よく跳ねた毛先。少し緩められたネクタイ。イヤホンを片耳に嵌め込み、手には日本が世界に誇る某ポータブルなゲーム。
近寄った研磨がゲーム画面をひょいと覗き込んだ。

「すごい、進んでる」
「おー、すげぇねむいけどな」

気怠げな黒目の下にははっきり隈が見える。若干呂律も回っていない。ああ、こう言うのってダメなヤツって言うんだ。
ゲームについて静かに盛り上がる二人を尻目に欠伸を噛み殺す。

「言い忘れてたけど、コレがクロ」
「あ、ウワサのくろおさん。たしかにすごい寝ぐせ? だね」

研磨が普通に俺を紹介した、だと……? 驚きのあまりワンテンポ遅れる。ポーカーフェイスを保ちながら彼の正面に立った。

「黒尾鉄朗、よろしくな」
「おれ、名字名前です」
「……部活決まってないなら、バレー部どうだ?」
「うーん、考えておきます」

まったく動かない表情筋。大きな黒目は忙しなくキョロキョロ動くのに。



▼△▼



結論から言うと、新入部員の中に彼――名字名前はいた。目線が合えばぺこりとお辞儀をされる。あの朝から会うことはなかったのだが、これからは嫌でも顔を合わせることになる訳だ。
身長は決して低くはなく、腕は身長に対して長い方だと思う。運動神経はいい。ルールは本当に基本的なことしか知らない、つまり初心者。

「誘っといてアレだけど、卓球はよかったの?」
「個人競技に飽きてきたところだったんで。ほら、ひとりって限界がすぐ来るじゃないですか。団体競技はそんな単純じゃない……かなと」
「そうかもね」

休憩時間に話しかけてみれば、若干息が乱れているが表情に変化はない。

「黒尾先輩」
「……ん?」
「おれ、人付き合い苦手だし、上下関係とか納得できないタイプなんですけどだいじょうぶですかね」
「今更だな。俺、研磨と仲良くなるくらいだからコミュ力お化けかと思ってた」
「いや、研磨は奇跡的にあったっていうか」
「知ってる。研磨だって出来るんだ。お前もなんとかなるさ」
「……だといいんですけど」

軽く頭を撫でてみれば、ぱちりと瞬きをされた。これが初めて見る名字の表情だった。思い返すが、数少ない接触のなか彼は表情というものを見せてくれただろうか。いや、ない。これが、初めて。
黒尾鉄朗は、彼の戸惑いという名の表情を手に入れたのだった。


/20150311
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