▼ 荒北くんの彼氏が欲しい(女主)
※女主→男主(荒北と付き合ってる)
憎い。にくい。にくい。
声にならない声が喉から溢れ出す。にくしみが、いかりが、喉を締め上げて呼吸ができなくなる。それでも、目の前の人物を睨みつけることをやめられない。
どうして、どうして私じゃない。なんで、どうして。私は、わたしは。
目の前にいる男、荒北靖友は私が思いを寄せている××くんと付き合っている、らしい。荒北の言葉なんて絶対に認めたくない。だがおそらく事実なんだろう。
どうして私じゃ駄目だったんだろう。私はめちゃくちゃ可愛い訳ではないけど、どこにでもいるような並の女だけど、この荒北という敵意剥き出しのケモノのような男に劣っているとはどうしても思えなかった。
荒北との距離を詰めて、勢いよく襟首をつかむ。
そこで私は見たくないものを見た。首から下げたチェーンには、××くんとお揃いの小さめなドッグタグがついていたのだ。そしてさらに追い打ちをかけるように、視界に飛び込む首筋の噛み痕と、鬱血痕。
「……っ、なんで、なんで!なんでなんでなんで!!!」
「なんでだろうなァ」
余裕とも取れる間抜けな返答に、私の精神は耐えられなかった。そこでプツリと切れた。
「……荒北は、××くん、噛むの」
「あ? コレェ? オレはしねェよ」
なぜこんなことを聞いたのか、自分でもわからない。ただもう叶わないことを完全に自覚して、単純に気になったことをうっかり口を滑らせたんだと思う。
てっきりその鋭い犬歯で幾度となく彼の白い肌に痕を残しているのだと思った。でも、荒北は違うと言った。
「なんで?」
このなんで?は純粋な疑問だ。
「さっきからなんでなんで煩ェ女だな」
「と、取り乱して申し訳ないと、思ってマス」
「……あの細くて白ェの、傷モンになんて誰が出来るかよ」
「っ!……うん、そうだね」
その答えは、とても納得いくものだった。そして決意した。さよならする。この醜い感情に。
「噛まれるのは、マァ、オレの趣味だな」
「……荒北、さっきはごめん。私もう、大丈夫だから。えっと、お幸せに」
「おう。二度とちょっかいかけンじゃねェぞ」
とびきり、しあわせになってね。
嘘じゃない。心からの、本心の言葉だ。荒北はそういうのに聡い。だから追撃はくらわず見逃してくれた。
荒北からしたら私はいきなりキレて騒いだ挙句謎の質問をかましてなぜか最後に和解した、ただの変な女だろう。そして、すぐに忘れ去られるだろう。
それでいい。彼の預かり知らぬところで、私の想いはなかったことになるのだ。荒北は私のことを彼に言わないだろうから、彼をきっと幸せにする男の手によって握りつぶされて、私の想いは粉々になるのだ。
それでいい。いいんだ。
最後に少しだけ静かに泣いて、私の恋は終わりを迎えた。
2016/09/15
没ネタ供養
←:back:→