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※あんまり気分のいい話じゃないです
そのひとは、平然と世間話をするような呑気さで爆弾を落とした。
「昔ね、太刀川さんが両親に挨拶したいって言ったから家に呼んだんだけどさ、うち両親ともに大規模侵攻前に死んでるわけ。当然額縁とご対面することになったのね?」
「まってまってまって無理無理ついてけないです周さん」
「……え? なんで?」
「なんでもクソもないですよ! 重い! 世間話の域を遥かに超えてます!」
「聞いてよ、ここからが面白ポイントなんだから」
「やだー!」
「太刀川さんなんて言ったと思う? 『母親似なんだな』って言ったんだよ、めちゃくちゃ面白くない?」
「ないです! こわいこわいこわいどっちも怖い!」
出水はこの時ほど鍔本に対して怖いと思ったことはないという。
しかしこの時すでに何徹目か分からないような錯乱状態だったらしく、数日後に本人から「あの時はどうにかしてた…ごめん、忘れてくれ…」と謝罪された。たしかに振り返ってみれば目の下の隈はとんでもない色だったし、目が据わっているのにやけにハイだった。
これほどの常識人であっても睡眠不足で狂ってしまうんだな、と睡眠の重要性を改めて認識した。
「――ってことがあったワケよ」
「なんで俺に喋んだよ、これからどうやって周さんの顔見りゃいいわけ?」
「そんなの俺が知りたい」
「それはそう」
そんなことがあったので、俺は米屋に恐怖のお裾分けをしてやることにした。こんなのひとりで抱えてたらどうにかなりそうだったから、この槍バカには尊い犠牲になってもらった。南無三。
「いやー、周さんも追い込まれるとハイになっちまうんだな。ある意味レアかも」
「どうせ太刀川さん絡みだとは思うんだけど、候補が多すぎてどれかわかんなかった」
「だろうな」
「――ってことがあったワケ。不謹慎だけど面白いと思わねぇ?」
「思わない。ぜんぜん思わない」
弾バカがひとりで抱えきれずに俺に伝言ゲームをしてきたように、俺も秀次にすることにした。たしかに黙ってられないけど、誰彼構わず言いふらしたいわけでもないから。俺たちのバカみたいな伝言ゲームも、きっと秀次で終わりだ。
「あの人は、理由はなんだっていいから足を止めるなと言っていた」
「周さんが?」
「ああ、本当に弱いのは変化を諦めた人間だと」
「深いなー、たったの一個上なのにそんなこと言えるようになるもんなのか?」
「近界民のせいだろ」
「それもそうか」
ひとりになって、先ほどの陽介の話を反芻する。
実は知っていた。両親をなくしていることを。あまりにも迅と衝突するおれを見かねたのか、以前話しかけてきた時に教えてくれた。
あの人は、自分はこれからの事を大切にしたいと言っていた。これから誰一人奪われないように、自分のできるすべてを賭けたいと。
けれど、俺のことは一切否定しなかった。共感はしないが協力すると言ってくれた。
不思議なひと。いつか知らないうちに消えてしまいそうなほど儚くて、けれども芯が強いひと。立ち止まるなと背中を押してくれるひと。
2022/08/23
この3人でアホみたいな伝言ゲームしててほしい(なお三輪で確実に終わる)
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