計画的かまってちゃん


『僕は風邪をひいてしまいました。寒くてたまりません』

 休日、目覚めてスマホを見るとそんなメッセージが飛んできていた。そういえば昨日、ジェイドは少し元気がなかったように思う。目が眠たそうで、こんな表情は珍しいなと思った覚えがある。風邪をひいていたのか、心配だなあと思いながら、ドレッサーの前に座って髪の毛を整える前に返信をした。

『暖かくしてじっとしていてください』

 送信ボタンを押すと、10秒経たずして既読マークがつき、私の返信を心待ちにしていることが丸わかりだった。……今日は構ってちゃんの日だ。しかも体調を崩したことも重なっているんじゃないか。

 ヘアセットを終えて朝の支度を続けていると、スマホの着信音が鳴った。

『フロイドが部活の練習で出て行ってしまいました』

 ジェイドと付き合うまで何も気づかなかったが、彼はこうして定期的に甘えてくることがある。人に弱みなんて見せない、掴みどころない人だと思っていたのに。たしか、付き合い始めて3か月くらいのときからだろうか。唐突にメッセージが飛んできたり、授業後にアポイントなしで待ち伏せをされたりと、予測できない行動を度々されるのだ。それが心を許されているように感じて安心するときもあれば、何かを試されているように感じるときもあって、私としては心が落ち着かないことが多い。しかし、こんな寂しそうなジェイドの姿を知っているのは自分だけだろうと思えば微笑ましい気持ちにもなって、いつの間にかその疑問も消えてしまう。

『今日はチーム戦ってエースからも聞いてます。楽しそうですね』

『とても羨ましいです。僕も山を愛する会の活動を早くしたいのですが』

 返信が返ってくると、メッセージアプリ上のジェイドのアイコンがこの前発見したカラフルなキノコの写真に変わり、またメッセージが飛んできた。

『画像変えてみました』

『みました。素敵です』

 そう、脈絡のない話が続くこの傾向は、まぎれもなく構ってちゃんの日だ。ジェイドのこういうところが面白いというか、かわいいというか、なんというか。ジェイドの文面もいつもと変わらず敬語で私も基本敬語なので、打ち解けているのか打ち解けていないのか、はたから見たらわからないようなやりとりをしている。楽しくなってしまって、ついつい支度の手も止まりつつ、ジェイドとのメッセージに夢中になってしまった。
 あ。洗濯物を干していなかったことに気づいたので、部屋を一度出ることにする。スマホの充電のため、一度部屋にスマホを置いたままにした。ジェイドからメッセージが来ていたけれど、少し待ってもらおう。

 最後のメッセージは『お腹がすいてしまいました』だった。

 洗濯物を干し終えたので、部屋に戻りスマホを見てみた。私の返信が遅かったのか、ジェイドから追加でメッセージが送信されている。

『しょんぼり』

 出た。必殺技「しょんぼり」。オクタヴィネル寮の3人は自分が「しょんぼり」すれば他の誰かが動いてくれると錯覚しているんじゃないか。実際とてつもなくギャップがいいし胡散臭さも相まって、相手はこのあとの要望を聞かざるを得なくなるという。もはや彼らに許されたユニーク魔法のようなものだった。そしてそれは付き合いの短くない私にも効果を発揮する。

『わかりました』

 出かける準備ができたので、まだ寝息をたてているグリムに一言「行ってきます」と囁いて、私はオンボロ寮を出た。購買に寄って材料を買ってから、オクタヴィネルに向かおう。元気ができるもの作ってあげなくちゃ。何を作ろうかな。


-1-


 

text