過保護


「体調を崩していると聞きました。どうして僕に教えてくれなかったんですか」

 ジェイドは私のベッドの横に小さい椅子を置いて腰かける。そして私の片手を握って、心配そうな胡散臭い顔で見つめてくる。体調不良の原因はお前だ。

「いえ、心配かけたくないなって思ったので」
「そんなこと言わないでください。何の連絡もなくて、驚きました」

 嫌だ。むずむずする。そして胃がキリキリと痛む。確かに今までは業務連絡程度にメッセージを送っていたが、今回はそれすら思いつかないほど苦しかったので何もできないままグリムに泣きついた覚えがあった。……グリムはどこに。もはや私の心の安寧はグリムで保たれているレベル。

「グリムくんは、保健室で薬をもらってくると言って出ていきました」

 ありがとうグリム、でも今じゃないよ。私とジェイドを2人にしないでほしい。確かに私は彼と付き合っているけれど、彼と付き合っているせいでこんなに苦しい思いをしているなんて、だれが想像できただろう。

 始まり自体よくわからなかった。本当に何の前触れもなく、彼は私に告白をしてきた。一度保留にして周りに相談した。そしたらエースもデュースも、グリムでさえもいいんじゃないかと肯定するものだから明らかにおかしかった。私はその場のノリに近いような付き合っちゃえコールに乗せられて「はい」といわざるを得ない状況まで追い込まれた。ジェイドはきっと周りから囲んでいくタイプだ。
 私は本当に彼のことが信用ならない。どんな言葉を言われたって、どんなに優しい抱擁をされたって一向に。さらに彼が丁寧に私を宝物のように扱うから、なおさら彼は私に何かを企んでいるような気しかしないし、言葉の節々に人間とのズレを感じて正気を疑うときがある。彼が私の瞳を見つめようものなら、私は全力で顔を背ける。抱きしめられたら、私は無気力になり壁を見つめる。お陰様で胃潰瘍になった。付き合い始めのカップルとは縁遠い状況だ。


 ジェイドの方向をちらりと見た。珍しく、寝間着のような恰好をしていて、兄弟のように寝起きのような髪形、眠そうな表情をしている。彼が私の視線に気づくのと同時に私は顔を背けた。

 彼は私を囲い込んだ。そして、付き合い始めたら私は周りから遮断され始めた。彼の婉曲的な独占欲によって、気づけば周りの友達も気を使って2人きりになろうともしなかったし、ジェイドが近づいたら身を引いて私たちを2人きりにした。それをいいことと思って。私は助けすら言えず、こんなことになってしまった。

 喉が渇いてベッドから起き上がると、ジェイドが先に気が付いて水の入ったグラスを私に差し出す。

「ありがとうございます」
「いえ」

 グラスの水を飲み干すと、体を起こしたままぼーっとした。熱もある気がする。頭がぼんやりとして顔が熱かった。ジェイドは私に近づいて、背中に手を回される。そのまま抱き寄せられて、頭をなでられた。

「苦しいですよね……」

 いったい何をされているんだ。体調不良の原因に介抱されている。でもその大きな掌が心地よく感じてしまって、私はそのままジェイドの胸元に収まってしまう。熱に浮かされながら、呪文のように続けられるジェイドからの言葉を浴びせられた。私は否定も出来ないまま、続けられる言葉に相槌をうっていく。

「僕はずっと貴方のことが心配なんです。僕は貴方を守って差し上げたいだけです」
「うん。うん」


「……では、また来ますから。安静になさってください」

 しばらくすると、ジェイドは妙にすがすがしい笑顔で立ち去って行った。嫌な笑顔だ。入れ替わるようにグリムが薬の入った紙袋を大量に抱えながら戻ってきた。

「なまえ〜〜! 保健室混んでて遅くなっちまったけどこれでもう大丈夫なんだゾ」
「いいんだよ。グリムありがと」
「お礼はツナ缶でいいからな! 保健室のベッド見たら4人くらい怪我してるヤツらがいてさ、よくみたら昨日オレ様たちに廊下で絡んできたヤツだったんだゾ! バチが当たったんだなありゃ」

 私は布団の中にもぐりこんだ。

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