※ジェイド→夢主→フロイド
彼のベッドに座って、向かい合う。少しおとなしめの髪を撫で、頬同士を寄せて呼吸をする。目は閉じたまま、彼の左肩に頭部を預け、皮膚や嗅覚で感じ取れる彼を確かめていった。少し長いメッシュが鼻の頭をくすぐる。背中へ手を回されるとそのまま体を沈められ、彼の胸板に包まれるようにシーツの隙間に潜りこんでいく。ベッドの軋む音とシャツのこすれる音が聞こえて、彼の息遣いが私の左首をかすかに刺激した。ゆっくり呼吸を続けながら、それに合わせて上下する動きと共に、彼の体重が私に少しずつかかり、身体を着実に密着させていくのがわかる。両手を彼の背中に回していくと、彼の両腕も私の身体を包み込んで臀部に沿わせ、2人の身体はベッドに深く沈んだ。密着した胸の鼓動が大きく跳ねていることがわかる。これが本当に彼だったらいいのに。
「フロイドせんぱい」
自分の声が静まり返った部屋でわずかに反響する。抱きしめられながら目を開けて視界の端に映るフロイド先輩のベッドを眺めた。乱雑に放られたタオルケット、椅子にかかったストール、脱ぎ散らかされた靴……それらを眺めながら嫉妬に似た感情が湧いてきた。私も、ああなりたかった。いいように扱われて、彼の居場所にそっと存在していたかった。満足いくまで弄ばれて、それでも彼のために存在している何かになってみたかった。
「僕だったら、貴方を大切にします。きっとこんな辛い思いはさせません」
――申し出たのは、ジェイド先輩からだった。フロイド先輩に片想いをし続け、掴みどころのなさすぎる先輩の態度に私の心は折られていた。それでも掴みきれない彼のシャツの袖だけでも掴みたくて必死だった。私の必死さを哀れんでジェイド先輩は私にやさしく接した。あるときは友人のように、あるときは恋人のように、彼はいつの間にか私のそばにいるようになった。
彼の部屋に行きたいと言い出したのは私だった。好きな人がいない時間、あえて反対側の部屋が見えるようにベッドの壁際に腰掛けた。私が寂しさを訴えるとジェイド先輩は私の寂しさを少しずつ拭い取るように抱擁する。好きな人の兄弟に愛でられながら好きな人の名前を呼ぶという行為は非常に私を高揚させた。我ながらいつからこんな悪者になったんだ。さすがに、ジェイド先輩の背中もこわばって震えさせてしまった。顔が見えない位置にあってよかった。別に彼が嫌いというわけではないけれど、やさしさに甘えているというよりは、好意に胡坐をかいている自分に嫌気がさす。そして、こんな悪いことをしている自分に酔っている。ここにフロイド先輩が来たらどう思うだろう。私を欲しがってもらえるだろうか。……いや、ないだろう。身体は温まっていくが、心に砂が流れて積もっていくような息苦しさを覚える。ジェイド先輩だって、ここまでされて私を抱きしめている必要などないんだ。
「僕の、間違いでした」
ジェイド先輩の、突き放すような言葉が首元から響く。抱きしめる両腕の力が緩まっていき、身体も離れ、私は息苦しさから解放されていく。もういいだろう、と私は彼の胸元から完全に離れようと胴体に力を入れた。
「うっ」
首もとに引っ張られるような鋭い痛みを感じ視界が揺れた。鎖骨を巻き込みながら尖った歯に噛みつかれていた。一度口が離れると、冷静すぎるジェイド先輩の声がもう一度私の身体に突き刺さる。
「僕は随分遠回りしていました。ですが、それももうやめにします」
彼の低くて妙に落ち着いた声が、いやに身体の奥まで響いてくる。噛まれた箇所がヒリヒリと熱を帯びはじめ、痛みのあまり涙が滲んでくる。その涙がこぼれて、気づかれてしまわないように必死にこらえる。視界はゆがんでいき、フロイド先輩のベッドの上の乱雑に扱われている愛用品たちが、霞んでいく。私はずっとこうなるのを待っていたのかもしれない。
… …
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