カロリー爆弾


「なまえさん」
「はい」
「なんですか、この不愉快極まりないレシピは」

 アズール先輩からVIPルームに呼び出された。先輩の手元では、先日課題って言われたオリジナルメニューの案が細長い指につままれてヒラヒラと舞っている。

「いやそれ、新しいメニューを新しい視点で考えてきた結果ですけど」
「このカロリー爆弾がですか」
「……そう!! カロリー爆弾です。いい言葉ですね先輩」
「ハァ……?」

 先輩は的確にこのメニューの長所を言い当ててくださったはずなのに、なぜかさきほどから先輩の眉間にはしわが寄りっぱなしだ。このままではこのしわが残り続けて形状記憶されてるみたいになってしまう! これはいけない。ほぐしてあげないといけない。私は先輩がしわをピクピクさせながらテーブルに置いた私考案のレシピを眺める。でも不愉快って何? こんな斬新で魅力的なメニュー、良いに決まってるじゃん!


「あのー先輩」
「なんですか」
「……そんなにこのレシピ駄目ですか」
「駄目でしょう」
「えっ」
「えっ」

 まさか「駄目」なんて言われると思ってなかったから私はすごく驚いた。すると先輩も驚愕のあまり肩を揺らして、眼鏡のフレームも一緒に揺れた。そのままフレームが傾いたのを戻しながら私を見つめてくる。

「……食パン一斤をくり抜き、その中にミートソーススパゲティを入れてハンバーグで蓋をし、チーズをたっぷりかけてオーブンで5分。チーズに焦げ目がついたところで取り出して最後にパセリを振ったら完成するこのレシピが駄目だとおっしゃるのですか」
「聞くだけで胸やけがする……誰が食べたいというんですか」
「私は食べたいです」
「ハァ……?」

 いけない。また先輩の眉間のしわが1つ増えてしまった。そんなにいけなかったのかなこのメニュー。グリムはすごくいい! って言ってくれたし。いや、グリムに聞いたのがいけなかったのかな……でも私は食べたいって心から思うし、実際こういうメニューを心の底で欲している学生だっているんじゃないかな。

「カロリーが高い。手間がかかる。彩りもない」
「パセリが……パセリがあります」
「パセリを1瓶振ったとしても、無理がある。それにくり抜いた食パンの中身はどうするんですか。そもそも食パンは必要ですか」
「器として必要です……中身は、私が食べます」
「なぜ……」
「食パンの中身が好きだからです。このメニューのコンセプトは、食パンの中身を私がまかないとしてもらえるように、かつどうしてもカロリーが欲しくて死んでしまいそうな生徒向けに、考案しました。名前はアズール先輩の秀逸な案を頂戴して、カロリー爆弾1とします」
「私欲のためにメニューを作るな。あとシリーズ化も却下」
「悲しいです……」
「僕だって悲しいです」

 愉快な新メニュー談話になると思いきや、VIPルームは静寂に包まれた。




つづかない

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