カレーライス


 ボクが家に帰ると、なまえちゃんの泣く声が聞こえた。なまえちゃんがこうなってしまって、三日目になる。それは、ボクの中のもう一人の存在が消えて三日経つということだ。
 ボクは買い出しの袋を片づけようとキッチンのほうへ歩く。キッチンはリビングのそばにあるから、いやでもなまえちゃんの姿を見ないといけない。なまえちゃんの泣いているところは、悲しくなるから見たくない。

「なまえちゃん。今日はね、カレーライスを作ろうと思うんだ。一日目だからサラサラのカレーになっちゃうと思うけど、明日はもっとおいしくなるよ」

 キッチンから、なまえちゃんに聞こえるように少し声を張り上げた。返事が返ってこないのはわかってる。でも、なまえちゃんに一方的に話しかけでもしていないと、彼女の泣き声にボクがどうにかなっちゃいそうだった。ボクはなまえちゃんの笑顔が大好きだ。彼女がボクに笑いかけることはなかったんだけど、ボクは彼女の笑顔がとってもかわいくて素敵だということを知っている。彼女はボクではなくて、バクラによく笑いかけていたから。

 バクラはいじわるだ。なまえちゃんを置いていってしまうなんて。ボクが、恋のライバルがいなくなって嬉しく思うとでも思ったのだろうか。
 なまえちゃんはバクラのことが好きだったんだよ。でもバクラは、ボクがなまえちゃんのことを好きだと知ってからは恋のキューピットにでもなろうとしていたのだろうか、今になってはわからないけれど、ボクの恋を応援しようとしていた気がする。いつもバクラが表にでているときはボクの意識は無くなる、けれどバクラがなまえちゃんと話しているときだけは不思議と意識が戻って、彼女の笑顔を見ることができた。最初はとても嬉しかったんだ。なまえちゃんがボクの目の前で笑っている。人格は違うけれどボクと会話を交わしている。それだけでとても幸せだったんだ。けれど、ボクはどんどんバクラに嫉妬するようになった。

 ボクはスーパーの袋から玉ねぎを取り出した。

「ばくらくん」

 ボクはびっくりした。だって、ずっと泣いてばっかりだったなまえちゃんが立ち上がって、キッチン越しにボクと目を合わせている。なまえちゃんの瞼は完全に腫れ上がっている。そして、少しだけ微笑んでいた。ボクはもっとびっくりした。なまえちゃんが、バクラじゃない、ボクに笑いかけてくれている。

「どうして獏良くんはここにいるの」

 彼女の言いたいことはなんとなくわかった、どうしてバクラがいなくなって、ボクがここにいるのかということだろう。そんなの、ボクが本物の獏良了だからに決まっているじゃないか。そう言いたかった。けど、ボクは何も言えなかった。なまえちゃんは、ボクなんか好きじゃないんだ。だって、なまえちゃんはバクラが好きだから。

「そんなの、ボクにもわからないよ」
 もう、どうにかなっちゃいそうだ。気づいたらボクは泣いていた。

「ああ、ごめん。玉ねぎが目にしみちゃってるんだ。ごめんね。ごめんね……」
 なまえちゃんは何も言わない。

 ねえバクラ。君はボクを、なまえちゃんをどうしたかったの。


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