「で、その獏良了くんって、どんな子だったのかな」
ファミリーレストラン。私は今刑事のお兄さんと席に着いて話している。ウェイトレスが私の頼んだオムライスとオレンジジュース。そして刑事さんが頼んだブラックコーヒーをテーブルの上に置いて去っていく。私はそれを視線で追って、遠のいたのを確認するなり口を開いた。
「だから、その、獏良くんを探してください」
「ご両親から捜索願が出されていないから……」
「私が出しますから」
「それは……ちょっと……」
「ね」と、刑事さんは困り顔で私に微笑みかけた。その顔はまるで、獏良くんの存在を疑っているかのようで、私はもやもやする。
夕方、学校が終わってすぐ、家の近くにあった警察署によくわからないまま「獏良くんを探してください」と泣きながら駆け込んだ。入り口にいる人は相手にしてくれなくて、私もどうしたらいいかわからなくて状況を説明できずにいると、勤めを終えた若めの刑事さんが出てきて、その状況を見かねて今に至る。
……先ほどからずっと獏良くんについて話しているのにな。私たちはつい先週まで下校を共にしていたこと、そして先週の金曜日から獏良くんが学校に現れないし、家のチャイムを押しても反応がないし人気もないということ。
私たちは最近、お互い一緒にいるのが楽しくて、そんな時間が増えて、この前だって獏良くんの家にお邪魔して、獏良くんがおすすめしていたケーキ屋さんのシュークリームを一緒に食べるような、これから少し青春をはぐくめる見込みのあるような仲だったこと。
でも刑事さんにとってはそんな情報は大事じゃないらしい。……ふん。若い夢見る女子高生にとってはこういう情報のほうが後々反芻できるから楽しいというのに。わかってないなあ。と思いながら刑事さんに奢られたオムライスをスプーンで一掬いして、食べる。
「僕はね。君との関係性というよりは、獏良くんが、どんな男の子なのか。家族構成とか、周りからはどういう扱いを受けていたのかとか、もしかしたらいじめとかそういうのはなかったのかとか……そういうことが聞きたいんだ。もしいなくなった理由があるかもしれないしね」
いじめは、なかったんじゃないかな。むしろモテモテだったし。いや、モテるっていっても、大衆受けする性格でもなさそうだったから。愛玩用だった気はするけど。学校では……友達、ちゃんといた。よく流行りのゲームをしていた気がする。ただ獏良くんは、流行りのものというより、ずっと自分が好きで続けているものがあったらしかった。それについては、知らないけど。
家族。あー、知らないかも。いや、知らないな。お父さん?いるみたい。お母さん?いるのかな。あの家に一人暮らしだしな。そんなサイズ感だったし。兄弟……いるのかな。一人息子って感じもしなくはない?
「ちょっと、失礼かもしれないけど……」
相変わらず私への対応がつかみ切れていない様子で刑事さんが口を開いた。
「君、付き合っているのにその、獏良くんのことあまり知らなかったのかな」
「え」
いや、知ってるって。というかまだ付き合ってない。でも、それすら反論する気が失せた。これは、獏良くんを知っているには含まれないのか? 私は獏良くんとの思い出なら、ある。でもそれは、獏良くんを知っているということには含まれない? ああでもそうか。そんな話したって刑事さんが獏良くんを探す材料にはならないしそもそも探そうと思ってくれるのかも怪しいかもしれない。
……困ったな。
獏良くんがいないと、困る。何が困るって、なんだ。獏良くんなしで生きていけないわけじゃないけど、なんだか今日はいてほしくて、ああ、そうだ。ちょっとセンチメンタルな気分だったんだ。私はちょっとセンチメンタルな気持ちになるとそれを獏良くんに共有したがる癖がある。でもそれは最近のことだった。そうやって、自分の弱みを見せられる人がいるのがうれしかった。女友達には言えないような、そんなこの青年期特有の悩みを共有していたはずだった。うん。でもそれだけか。
じゃあ、これって私のために獏良くんを探してもらうのか。あ、でもそうだよね。いなくなって困ったから、駆け込んだんだった。そうだったや。
「わかりません」
「え」
「わかりません……」
オムライスをもう一掬いして、付いていたケチャップがあまりにも酸っぱいから、私は涙を流した。
… …
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