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17 放課後
ソファに座ってデッサンを見直していると、足元に座り込んでスマホをいじっていたりほが突然振り返った。この笑顔は何かくだらないことを考えているときの顔だ。
「日向くん!好きって10回言って!」
「ん?」
「10回クイズ!」
相変わらず突拍子も無い。おおかたTwitterか何かで見かけたのだろう。まぁ別に今やらなければならないことがあるわけでも無いし、暇つぶしには良いかもしれない。
オレは頷くと彼女を手招きした。
「?、なんで?」
「いいから」
「…?、っわ」
立ち上がった彼女の腕をとって引き寄せると、不意打ちをくらった体はそのままソファへ倒れ込んでオレの胸元に収まる。縋るような体勢になったことに驚いたりほが、慌てて離れようとするのを抱きしめて阻止した。
「ちょ、日向く、」
「うるさい」
暴れようとするりほの後頭部に手を添えて固定すると肩が強張るのがわかる。
そのまま耳元に口を寄せるとワザとらしく息がかかるように「すき」と呟いた。
「好き、…すき」
「!」
見えなくても、どんどん顔が赤くなっているのがわかって少し笑う。その声でハッとしたのか、りほが胸元を押し返そうとするけれど、いくらオレが細身とはいえ彼女の力に負ける程ではなかった。
「だぁいすき」
「や、やめ、」
「愛してる…」
「まって、まって!」
抵抗するりほを余所に、耳元にキスをしたり軽く食んだりしながら言葉を吐いていく。その度にびくびく肩を跳ねさせて、それがこちらを煽っていることに気づいているのかいないのか。逃げようとする腰を抑え込むと、小さく悲鳴が聞こえた。
「ん、大好き」
「ひぇ…っ」
そういえば今何回だったか。すっかり数えていなかった。まあでもきっと彼女もわかっていないだろうし、今から10回ということでいいか。こんな可愛い反応するなら、10回以上したっていいけど。
散々耳をいじめた後、耳に舌を入れようとしたところで、今までにない力で体を捻られる。
「ビェーーッ!もうムリーーーーーーーッ!」
思わず手を離すと、りほは反動でドテッと女子らしくない動作でソファから落ちる。そのまま部屋の隅のベッドまで後ずさると、真っ赤な顔のまま耳を抑えてこちらを睨んできた。
「も、ももももう14回も言った…!」
「数えてる余裕あったんだな」
そんな余裕はあるくせに、ベッドの前に逃げてしまうところがなんとも彼女らしい。オレも立ち上がって近づくと、縮こまったりほを抱きかかえてベットに乗せる。そこでやっと自分の逃げた位置が失敗だったと気づいた様子のりほに、笑いながら口付ける。
「オレはまだ言い足りないんだけど?」
少し視線を彷徨わせた後、観念したように目を閉じたりほを見て、口角が上がるのがわかった。今日だけであと何回、愛の言葉を囁けるだろうか。
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