山登り行くぞゴルァ
爆豪からの電話。開口一番の一言で私のささやかな休日は幕を閉じることとなった。ただでさえ目の前の蚊を仕留めることに執念を燃やしていたというのに、これから蚊がわんさか大量発生しているところに放り込まれるのだ。地獄だ。
1ヶ月くらい前から突如として爆豪に目を付けられて今じゃ立派なパシリになっている。それに対してあーだこーだ文句を返すが、結局は彼の言いなり。だって爆破予告されるんだもん。誰か彼を逮捕すべきだし世のヒーローはちゃんと仕事をすべきだと思う。
歩きやすい格好で来いと言われたので相応しい服に着替えながら、正直登山に誘われるより、焼きそばパン買ってこいよのほうが幾分かマシだと悪態をついた。休日に脅迫されるなんて初めての事だったし。…もしかして山に埋められるのか?
待ち合わせ場所に着くと爆豪が居た。待たせてしまったことに冷や汗が流れたが、彼から発された言葉は意外にも「行くぞ」って、それだけ。呆けている間にズンドコ歩き出していた。急いで後を追う。
「待たせちゃってごめんね」
「…」
「ていうか大丈夫なの?遭難とかしない?」
「テメエがアホやらかさなきゃな」
「森のクマさんに会ったらどうやってスタコラサッサする?」
「樹海行くわけじゃねー」
「帰る頃には絶対足動かないと思うよ私」
「リフト乗りゃいい」
「下山する頃になると真っ暗じゃない?」
「アホか 夜までやってるとこあんだよ」
「え 夜まで一緒ってこと?変な気起こさないでね」
「それはお前次第な」
「キャ〜こわい〜犯されるう〜」
「そういう意味で言ったんじゃねえ。誰がテメエでかますかよ 調子のんな」
「てか小石多くない?だるう〜」
「っせーな!いちいち文句垂れんなクソアマ!」
やっと歩く足を止めてくれたかと思えば怒鳴られた。うん いつもの爆豪だ。毎日生理の男。
そして山頂を目指しひたすら歩く。爆豪セレクトの山なんて…ファイト一発とか叫んでる断崖絶壁コースじゃね?なんて一抹の不安を抱えつつ着いて来てはみたけど、これまた意外にも歩きやすいビギナーコースだったようで、軽装で散歩している老夫婦とすれ違うレベルだった。え これただのハイキングじゃね?空気うまいし最高なんですけど!
「ねえ爆豪お腹すいた〜」
「食ってこいっつたろ」
「だってお腹すいてなかったんだもん…」
「空気でも食ってろや」
「もう食った うまかったぜマイナスイオン」
「よかったじゃんよ」
「ああもう!爆豪助けてよ!」
爆豪はピキピキと血管浮かせる。苛立ってはいるようだが、ぶちギレているわけではないようだ。むしろわたしの方がイライラしてるかも。なんせ空腹だし。ふと前を見るとヤシの実に似た何かがたわわに実っていた。不思議に思い「あれなに?」と指をさすと、爆豪が「あー」と肩を下げた。
「アケビだろが」
「知らないよ」
「テメエが聞いたんだろクソが」
「だって知らないし〜」
「チッ…食いもんだ」
「え!食べられるの?食べたい!」
「やめとけ」
制止を無視して未練がましくアケビってやつを見つめる。そんなわたしを放っておくこともせず爆豪は面倒そうに隣に立った。
「やめとけっつったんだよ何度も言わせんなや」
「だってあんな近くにあるのに…」
「落ちたらアブねー」
「大丈夫だよ爆豪いるもん」
「…食って腹あたったらどうすんだ」
「ええー…でも、」
「行くぞ」
「はーい…」
「…」
「…」
「はよ来いやブス!」
目と鼻の先にある食材。なのに爆豪は触ろうともしなかった。空腹は空腹でも極限状態ではないから、好奇心で手を出すことはしない。つまらないことでリスクを冒さない。油断をしない。
こうして考えると、自然を相手にギャンブルをするということはハイリスクなのかもしれない。自然とは無秩序なのだから。サバイバーの爆豪はリスクをよく知っている。途端に頼もしく見えた。
先を歩く爆豪に追い付くと、ポケットから粉々になったハッピーターンを出してくれた。秒で袋のまま口に放り込む。ドン引きの爆豪。気にせず口からゴミになった袋を出せば、今度は哀れむようにバッグからクッキーを出してくれた。二段構えかよ!と思ったが突っ込む暇もなく袋を引き裂きクッキーを流し込んだ。キメェ、くらい言われると思ったのに何も言われなかった。
それからも私は散々足を引っ張った。それでも爆豪はぶちギレなかった。いつもであれば爆破される案件でさえも。なんだか今日の爆豪は、雰囲気というかバイブスがいつもと違った。穏やかというかなんというか…アンタそんな別人格を宿らせてたんですねみたいな。まさかのホワイト爆豪出現に戸惑う。マイナスイオンの力でお得意のニトロ製造が無効化されているんだろうか。
「着いたぞ」
「え もう着いたの?」
「あ?歩き足んねえっつうんならもっかい往復してくるか?」
「いやいや結構です!ていうかなんかめっちゃ景色最高だね!なんか、あの、えっと…キレイ…」
足と止めたエリアには、車の駐車場や山荘やパブが数軒あって、その先には夕日で照らされた街が一望できる展望台があった。
私たちの住む街。
山頂で絶対ヤッホー言ってやると思ってたけどそんな雰囲気の場所ではなかった。
ここ夜景もいいらしいよ〜と近くのカップルがいちゃついている。おい…いいじゃんかロマンチックかよ…。ていうか爆豪ってこんなやつだっけ…?なんか爆豪に対してありえない感情が湧き出してくる。この人こんな素敵なこと出来るんだ ていうか考える思考回路があったんだ。そっちに感動だわ。
転落防止の柵に手をつく。景色を眺めようと思ったがどうも隣の男が気になる。爆豪は柵に片肘をついてその手のひらに顎を乗っけて景色を眺めている。ちょ…爆豪カッケエ。その優雅でイケメンな姿に目が釘付けになる。夕日を浴びているせいで彼の色気が倍増して見えているのかも。認めるよ、アンタって超かっこいい。
ふわり、夕日を浴びた温かい風が状況が微かに変わるかのように前髪を撫でた。その瞬間、また驚かされることになった。
「付き合え、オレと」
その一言だけで、いきなり肩を抱かれたから。
勘ぐってはいたが、まさかこんなことになるなんて。飛び出しそうになった目にグッと力を入れて深呼吸をした。
「あのさ、私がアンタを振ったらどうするつもりなの?なんで今?帰り道気まずすぎて地獄でしょ」
「ハッ オレがンなヘマすっかよ」
こちらを見ずとも私の胸中を察しているかのような自信っぷりが彼の横顔から伺える。
「…爆豪はてっきりリスクをおかさないもんだと思ってた」
「んだよそれ」
「ほら 爆豪って無謀なことをしそうに見えてしないじゃん。だから、リスクをおかさない人だと思ってたの。真っ向から告白なんてしないもんだと思ってた」
「そうかよ」
「うん…」
「端から不確実な賭けはしねえ。こんなもんリスクとは呼ばねえわ」
バカかお前、そう言ってケラケラ笑う顔は夕日に照らされて私にはキラキラして見えた。爆豪はリスクをよく知っている。私は、そうだね と彼の肩に寄りかかり ただ夕日を眺めた。素敵な景色、これが感想。
0806 爆豪はリスクを知っている
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