「ねえ わたしのことなんて登録してんの?」

私はスマホをいじる爆豪に投げかけた。
爆豪のスマホに私は何て言う名前で登録されてるんだろうって。そんな単純な話。
爆豪はこちらを見るわけでもなく淡々とこう答えた。

「ブス」

おい。

「マジ?マジなの それ」
「っせーな」
「ひどくない?!彼女をブスで登録するってかなり歪んでるでしょ!極悪だわ引くわ!」
「番号を登録してやることすら百歩譲ってやってんだこっちはよ文句垂れてっと殺すぞクソブス」
「ブスにクソをデコるなよ!」
「ハッ」
「鼻で笑いやがってこのサイコ野郎…ッ」

ヴィランかと疑うような邪悪な笑みを浮かべてスマホをいじっている。最低な野郎だ。せめてこっちを見ろや爆発魔。目ん玉が裏返りそうな勢いで彼を睨めば「おいおい 機嫌直せや」とケラケラ笑ってこっちに意識を向けてくれ出した。え なんか 嬉しいし、ハア…まじイケメンだわ。
そのまま機嫌良さそうに肩を抱かれ耳にキスをされる。その刺激に肩が震えた。空気を察し爆豪を見つめる。

「バーカ、呼んでやると思ったかよクソブス」

爆豪はやはり爆豪だった。
ていうかアンタ楽しみすぎだろ、この状況を。
とまあ、これが昨日の出来事。
そんなこんなで今日。
まだ昨日を引きずってる私は律儀に「よう」と挨拶してきた爆豪を朝から華麗にスルー。その後も「おい」やら「なあ」やら声をかけられたが触んじゃねえと言いたげに睨みオラオラしてたら爆豪はそれ以上は踏み込んでこなかった。お仕置きだよバカヤロウ。あんたの相手なんて絶対してやらないんだから!
そして昼休み。私は遂に一歩踏み出す。
ターゲットは普通科の冴えない顔したあの男子。なんとなく緑谷くんに似ているあの男子を誘惑してやるんだ。どうだ爆豪。これにはお前もかなり堪えるんじゃないかな!

「ねえ、わたしみょうじなまえ」
「え?あ、はい」
「よろしくね」
「は、はあ…」

渾身のウインクをかますと何とも迷惑そうに会釈された。なんだコイツ。緑谷に似て冴えない顔してるくせに一丁前に私を拒否るつもりか。それとも私がブスだから相手にされていないのだろうか。もうこれ普通に緑谷に話しかけた方が良かったパターンじゃね?
しかしもう引くわけにはいかない。
「ねえねえ〜なーに食べてんの?」
「え カレーですが」
「そっか〜!カレーか〜!」
「見てわかりませんか」
「わかりますすみません」
「はあ…」
「一口ちょうだい」
「え」
向こうの方で切島くん達とチルしてる爆豪がちょうど見えるように角度を整え緑谷もどきと喋る。
「嫌ですよもったいない」
「お願い お願いだから…」
「ああもう…一口だけですからね」
「ありがとう!君優しいね!」
緑谷もどきの彼は不服そうにスプーンを渡してきたがそうはいかないぞ少年。
「食べさせて」
「は?」
「バカップルみたいに食べさせてほしいの」
「…もうカレーは差し上げますので僕はここで失礼します」
「待って見捨てないで…!」
「だって君、なにか企みがあるんだろ?嫌だよ、僕は巻き込まれたくないんだ」

席を離れようとする緑谷もどきの上着を必死に握って下へ引っ張る。私たちのコソコソとした攻防を通り過ぎていく生徒がチラ見していくのが分かる。ちょっと目立っちゃってるじゃん。これはこれで効果ありなんじゃね?結構なスキンシップだぜ?いちゃついてるように見えんじゃね?

が、チラッと爆豪たちがいる方へ視線を向ければ私の彼氏はこちらに見向きもせずサンマ食ってました。秋の味覚だね、じゃねえわ。こっち見てよ爆豪。
あ。
そんな爆豪から視線を横にスライドさせると上鳴と目が合った。上鳴はこちらを見て苦笑いをこぼした後、切島との会話に戻っていった。なんだろう…ムカつくわ 上鳴ごときに苦笑いされたらなんか人間として…あの…なんだろう…やるせないわ…


緑谷似のやつに絡んでいこう作戦も不燃に終わり放課後。事態は急変する。女子勢みんなでスイーツ食べようと盛り上がり席から腰を上げた時、前方からバッグを持った爆豪が近づいてきたのだ。え、私に用ですか?え こっち見てますよね、え 私ですか?私だー!
爆豪が私を見つめてる。何をされるんだろう。見つめ返すことしか出来ない。息を飲む。

「帰んぞ、なまえ」

いつもの、なんて事ない平淡な口調だった。


「は、はい!」

ありえない展開に女子勢とのスイーツが吹っ飛び二つ返事をしてしまった。ミナちゃんはヒュ〜ヒュ〜言ってるしヤオモモはきゃっきゃしてるし。呆けている間に爆豪はスタスタ教室を出て行く。遠くなる背中をボーッと眺めて気付く。さっき彼は何て言った?もしかして…でもちょっとわかんない、もしかしたら私の思い違いかもしれない。
ハッと意識が戻った頃にはもう彼の姿はなくて急いで教室を出る。ああもう、私ってなんでこんなに要領が悪いんだろう なんて自責の念にさいなまれつつ玄関口を出た先でスマホをいじる彼を見た。なんとあの爆豪が校門前で待ってくれていた。

「ごめんなさいっ待たせちゃって」
「ん」
「あの…えっと…」
「んだよ」
「なんか…んー、あの…」
「どした」

しどろもどろになる私に少し丸い声音で問いかけてくる。なんなのこんな時だけ。俯き、助けを求めるように彼の上着の袖を握った。

「さっき何て言ったの?」
「あー?」
「聞き逃しちゃって…ていうか意識せずに聞いちゃったからあんまりよくわかんなくって…えっと…つまり、もしかしたらって、思って…」

声が小さくなる。そんな私とは裏腹に、なにがおかしいのかブハッと吹き出した爆豪はオモチャを見つけた子供みたいにウキウキと歩き出した。掴んだ上着がスルリと手から離れていくのが寂しかったが、落ち込む暇もないので後を追う。

「んなこったろうと思ったわ」
「え?」
「テメエ名前呼ばれなさすぎて自分の名前忘れてんだろ」
「…ってことは、やっぱりさっき名前呼んでくれたんだ!」
「かもなー」
「でも私聞いてなかった!」
「な。マジで予想を裏切んねえな、お前」

爆豪は妙に納得したようにクスクス笑って手をポケットに突っ込んだ。
「リアクション薄すぎたしな、コイツぜってー気付いてねえわーって思ってたし。つくづく可哀想なやつだなお前」
でもどこか安心したような顔で前を見ていた。

「もっかい!」
「ねえな」
「即答?!そんなこと言わずにさ〜お願い!」
「一回でちゃんと聞いとけや」
「だってさっきのは不意打ちすぎたでしょ!」
「じゃあヤらせろ」
「強引すぎるけどいいよ!」
「いいんかよ」
「その変わりエッチ中に名前呼んでね!」


「気ぃ向いたらな」

とは言っても。たぶん、呼んではくれないだろう。一筋縄じゃいかないから。そういうヤツだから。この先もわたしはわたしの知らない場所で名前を聞くんだ。


10/28
もどる
トップ