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ふ、と意識が浮上した。体を包まれた柔らかな感触とあたたかさが心地よく、まだまぶたが上げられない。
そばで誰かの声がする。低い声で、なんと言っているのかまでは聞き取れない。聞き覚えはない、と思う、たぶん。
そんなことを考えていると、頭がはっきりしてきた。さっきまで聞き取れなかった会話が次第に理解できるようになる。
「珍しいですね、あなたが餌を連れてくるなんて」
「…餌ではない」
低い音と冷たい音の2つが、どこか耳に心地いい。なんの話をしているんだろう。頭がぼんやりして、うまく理解できないでいるわたしをおいて、話は進んでいく。
「それではなんですか、これは」
「突然現れたのだ」
開けるか開けないかといううっすらした視界に、淡いオレンジ色が見えた。柔らかなそれは灯りだろうか。
「…ネロ・イディオスを知っているか?」
冷たい音が発した突然の単語に、それはと訝しげな声が返る。
「今となってはただの伝説でしょう」
あなたともあろう人が希望でも持っているのか、というニュアンスを含んだ少し嘲笑うような返答。
「そう思うなら確かめてみるのだな」
「…まさか、これがそうだと?」
こちらに向けられた視線を感じて、ゆっくり瞬きをしてから焦点を合わせる。
1人は青白いほど白い肌。もう1人は対照的に浅黒い肌。種類は違うけれど、共に整った顔立ちの2人の男が、そこに立っていた。
「お目覚めのようだ」
「起きて早々で申し訳ありませんが、少し確かめさせてもらいますよ」
有無を言わせない雰囲気に、申し訳ないなんて思ってないよな、なんてぼんやり思っているうちに、浅黒い肌の男が枕元へやって来た。
男の方へ顔を向けるのとほぼ同時に、ぷつりという音と首元に感じる痛み。
ごくり、と男が喉を鳴らす音が、いやに大きく響いた気がした。