はじめまして、異世界


ここはどこだろう。
だだっ広い土地、生い茂る木々、そびえる山々、見知らぬ建造物。
ビルもマンションもコンビニも、道路すらない。

たしか仕事が終わって、駅に向かって歩いていたはず。いつもの大通りじゃなくて、たまたま裏の細い道を歩いて、小さな公園を通り過ぎた辺りで霧が出てきて――それから…?

ぽつぽつ

記憶を辿っていると、空から雨粒が落ちてきた。最悪だ。肩にかかったままのかばんの中をあさってみても、折り畳み傘は入っていない。職場に置いてきたことを思い出して、絶望的な気分になった。

濡れないうちに雨宿りしないとと、草木が茂る中に入り、根元が洞になっている木を見つけてその下にしゃがみ込む。ぼんやりと見慣れない景色を眺めながら、どう考えてもさっきまでいた場所じゃないなと思う。あえて言うなら、とんでもない田舎。だけど、そもそも道もない車も自転車すらも走ってない、むしろ人すらいない、なんてことあるわけがない。
そもそも現代ですらないような…いやいやそんなことある?
そういえばとスマホを取り出すも圏外。本当にどこよここ。

そのときがちゃがちゃという金属が擦れ合うような音がしてそちらを向くと、鎧を着た人たちが歩いているのが遠くに見えた。槍のような物を持っている人もいる。
そういうお祭りがある所もあるけど、どう見てもそういう雰囲気じゃない。
まさか本当にどこか別の世界に来てしまったなんて、そんなまさか。

ぽたりと木の枝から落ちた滴がまぶたを叩く。びっくりして目をつむり、手の甲で水を拭ったところで、しまったと思ったけどもう遅い。

あー、絶対顔がやばいことになってる…と思ったのに、手の甲についているメイクの量が明らかに少ない。シャドーの色と、少しのラインとマスカラの黒。かばんから鏡を取り出してよくよく見てみると、シャドーとチーク、リップは化粧直ししたときのまま。塗っていたはずのファンデはほぼなく、ラインとマスカラも薄い。
とはいえ、顔が薄くなっているわけではない。ファンデを塗っているような肌に、マスカラやラインいらないかも、というくらいのまつげと目元。もともとこういう顔ですよと言わんばかりだ。
すごくありがたいけど、これは絶対、なんだかわからない不思議な力が働いているとしか思えない。

変なことに巻きこまれたと思わざるをえない状況に、わたしは途方に暮れたのだった。