「おわっ?! 」
城の廊下を曲がったところで、走ってきた人と思いっきりぶつかった。足音は聞こえてたけど、まさかこんな正面衝突するとは思わなくて、鼻をしこたまぶつけて、お尻も思い切り打った。
「〜〜〜〜!!!! 」
痛すぎて、とりあえず鼻を手で押さえて声も出せず悶える。これはもう事故だと思う。
「わ、わわわわ悪い!」
知っている声にうっすら目を開けると、指の間から焦った顔の李典さんが見えた。予感の男の彼がこんなに慌てているのも珍しい。予想外のできごとだったんだろうか。
「…立てるか?」
本当に申し訳なさそうに手を差し伸べられる。多少痛みがひいたから、その手を取って立ち上がった。
「鼻、曲がってませんか?」
「あー、ちょっと赤くなってるけど大丈夫」
自分の鼻を指差すと、左右からわたしの鼻を確認した李典さんが頷いた。
「本当に悪かった。ああ、なんで予想できなかったんだ俺…」
ぐしゃぐしゃと髪を乱す李典さんに、大丈夫だと告げる。
「それにしても珍しいですね。今日は勘が冴えなかったんですか?」
わたしの問いに、彼は苦い顔をする。どうしたんだろう。
立ち話もなんだからと、茶屋に連れ立つことになった。お詫びに奢ってくれるらしく、痛みも忘れてうきうきと出かける。この世界は2つの世界が混ざり合っていて、そこに住む人の姿もお店の種類も多様で面白い。
「それで、なにかあったんですか?」
もきゅもきゅと草餅を味わいながら尋ねる。中のあんこの甘さがちょうどよくて、これはやばい。李典さんは串に刺さった団子を1つ口に放り込んで、これまたもぐもぐさせながらわたしを見た。
「小少将ってわかるか?」
「わかりますよ、ピンク…あ、桃色の髪の、くねっというかしなっというか、みたいな人ですよね」
最近仲間になった彼女の顔を思い浮かべる。すごい小悪魔みたいな感じじゃなかっただろうか。
「声、かけられちまったんだよ…」
なぜだか頭を抱える李典さん。
「よかったじゃないですか、美人に言い寄られたんですよね?」
自慢か?とも思ったけど、見る間に目を見開いて、串を持っている手がぷるぷると震え始めた。
「お前知らないのか?不幸を呼ぶ女って呼ばれてるんだぞ!」
「そういやそんな話も聞いたような…」
でもそんな噂、信じられるわけもない。不幸を呼ぶなんて、誰かの嫌がらせなんじゃないだろうか。恨み、けっこう買ってそうだなと思うのは、多少羨ましいと思ってるからかもしれない。
「…いいか」
低い声に目の前の人物に焦点を当てると、彼はぐっとこちらに身を乗り出した。
「あの女には近づくなよ!あんな不吉な予感のするやつ初めてだ…」
「え…」
彼の真剣な瞳に、わたしの動きが止まる。李典さんの予感を丸々信じてるわけじゃないけど、その予感がよく当たるのも目の当たりにしているから蔑ろにもできない。そんなにやばい人なんだろうか。
「声をかけられたらすぐさま逃げろ!」
「あ、それでさっき全力疾走してきたんですね」
「あ?ああ、まあそうなんだが…」
だからわたしとぶつかる予感ができなかったのかと納得。すっきりして残りの草餅を口に放り込む。美味。
「いや、じゃなくてだな……」
はたとわたしを見た李典さんが、今気づいたとばかりに言う。
「お前、本当に美味そうに食うよな」
ごくんと口の中のものを飲み込んで、お皿を差し出す。
「李典さんも食べます?」
「いや…それより、気をつけろよ?」
あまり言っても意味がないと思ったのか、彼は持ったままの団子を口に入れた。
「わかってます。心配してくれてるんですよね」
なんだかうれしいですと笑うと、ならいいけどよと新しい串を目の前に出される。わたしはありがたく、それにぱくりと食いついた。
あーおいしかった