ばちり。
荀ケさんと話をしている郭嘉さんと目があった。新しく仲間になった義弘さんや郭嘉さんが、仲間たちと話しているのをぼんやり見ていたときのことだ。
視線を合わせたまま、彼がこちらに向かってくる。
え、どうしよう。いやいや、目があってると思ってるのはわたしの勘違いかもしれない。後ろにいる人を見てるんだ、たぶん。
「あなたのような美女が来てくれて嬉しいよ」
彼がふわりと微笑む。王子か。
「…それ、わたしに言ってます?」
「ええ、もちろん」
とりあえず背後を見て誰もいないことを確認した上で、自分を指差して尋ねたところ肯定されてしまった。いまいち素直に受け止められないのは、彼の顔がいいからか。それとも誰にでも言ってるような雰囲気が、そこはかとなく見て取れるからか。
本気か測りかねながら、そういえばと思う。なぜにわたしはさっき彼を見て王子だと思ったのか。ホストだと思ってもいいような気も、今となってはしなくもない。しばらく彼を眺めて、そのひらひらな服装がファンタジー臭を醸し出しているからだろうという結論にたどり着いた。頭のそれも、王冠をイメージさせる。派手めのスーツでも着てたら、第一印象はホストだったかも。いや、派手じゃなくてもホストだな。
それはそうと、戦いのさなか、この人お市ちゃんにも同じようなこと言ってなかったか?
「あの、お市ちゃんはいいんですか…?」
「うん?もちろん市殿も嬉しいけれど、あなたが来てくれたことも私は嬉しいよ」
悪びれもせずそう当たり前のように言う彼に、思った通りの人だったと思う。まあ、あなただけなんてせりふを誰にでも言っちゃうような男よりは、信用できなくもない。…かもしれない。
「せっかくお近づきになれたのだから、今宵は共に美酒を酌み交わすというのはどうかな」
いつお近づきになったんだろう、と内心思いながらも、きれいな顔の彼に言われてしまえば悪い気はしない。
「まあ…別にいーですけど…」
「あなたならそう言ってくれると思っていたよ」
そんなやりとりをした途端、わたしたちの間の空気が変わった気がした。胸の奥がざわざわと音を立てている。
知ってる。わたしはなにかを知っている。それが郭嘉さん自身なのか、このやりとりなのか、はっきりとはわからない。これがデジャヴというやつなんだろうか。
思い出せそうで思い出せないもどかしさに顔を上げると、郭嘉さんもわたしを凝視していた。その顔はどことなく驚いたようにも困ったようにも見える。なんで胸がぎゅっと掴まれたように締めつけられるのか。
なにか言いたい気がするのになにを言えばいいのかわからない。
「お二人とも、どこかお加減でも悪いのではありませんか?」
荀ケさんに心配そうに声をかけられるまで、わたしと郭嘉さんはただ黙って見つめあっていた。
以前遠呂智の作った世界で一緒だったときの記憶なんて、なくなってしまったはずなのに。
なんでこんなに泣きたくなるんだろう