郭嘉に秀吉から助けられるif


わたしは今、とても困っている。なぜかって、秀吉さんに絶賛絡まれているからだ。
中庭に咲く木蓮に誘われて、1人でまったりしていたら、そこにふらふらと秀吉さんがやってきたのがほんの数分前のこと。
けっこうなお酒の匂いといい感じに酔いが回っているのは別にいいけど、セクハラはいただけない。

「なぁいいじゃろ?ちょーっとその膝を貸してもらいたいだけなんさ」

「いや、その、それはちょっと、困るというか…」

「その柔らかそうな太ももにすりすりできるなら死んでもかまわん、な?」

な、じゃないし!そもそもわたしそんないい太もも持ってませんけどーおー!と泣きたくなりながら後ずさるわたしに、両手をわきわきさせながらにじり寄ってくる秀吉さん。
全力疾走したら逃げ切れるだろうか。でもこの向き合った状態から背中を向けるのは心底怖い。目を離した瞬間捕まるかも…なんて、いやな想像しか浮かばない。

カツンッ

そんな硬いもの同士が当たったような小気味よい音がしたのは、先の見えない状況に叫び出しそうになったとき。
ヒュッとなにかが飛んできて、秀吉さんをかすめたのが目の隅に映って消えた。
なんだ?と思っていると、庭の木か石に跳ね返って、再度球状のそれは秀吉さんを襲う。

「ぬおう?! 」

けっこう酔っているにも関わらずそのなにかを間一発で避けるのは、さすがというかなんというか。

「動いてはいけないよ」

耳元で囁かれた声と突然肩にかかった手の重みにびっくりして振り向くと、いつ来たのか背後に郭嘉さんが立っていた。
とすると、あの秀吉さんを襲っている球体はもしかしなくても郭嘉さんのでは?

「か、郭嘉!お前!なにを!するんじゃ!! 」

「さすが秀吉殿。お上手ですね」

必死でボールを避けながらちらちらと横目でこちらを見て文句を言う秀吉さんと、それを見てなんとも楽しそうに微笑む郭嘉さん。それはそれは対照的だ。

何十往復したかわからないけど、ボールがやっと消えた頃には、秀吉さんはぜーぜーと荒い息を吐いていた。お酒飲んですぐの運動はやばい気がするけど大丈夫だろうか。
そういえば一歩も動いてないわたしと郭嘉さんには当たる気配もなかったな。あれだけかんかん跳ね返ってたのに。それも計算してたんだとしたらどれだけ頭いいんだこの人。と、ちょっと恐ろしくすら感じたところで、その郭嘉さんが口を開く。

「そうそう秀吉殿。ねね殿がお探しのようでしたよ」

お酒と運動で真っ赤になっていた秀吉さんの顔が、瞬く間に青く変わる。

「そ、そういえばわし用事があるんじゃった!ねねが来ても何も知らんっちゅうことにしといてくれ、な!」

そう言って逃げるように去っていく秀吉さんを見送って、なんだか嵐のようだったなと思う。
それに比べて郭嘉さんの穏やかさというか静寂さというかが、今はとてもありがたい。

「楽しい人なのだけど、今回は度がすぎたようだね」

困ったように笑う郭嘉さんの言葉に、彼と秀吉さんがよく連れ立って飲みに行っているという話を以前聞いたことを思い出す。今日はたまたま悪酔いしただけで、普段はあんな感じじゃないのかもしれない。
どっちにしても、郭嘉さんが来てくれて助かった。

「郭嘉さん、本当にありがとうございました」

「どういたしまして。凪殿を困らせるのは私だけの特権だからね」

困らせてるってわかってやってたのか、と思ったわたしに、

「譲る気はないよ――秀吉殿にも」

誰にもね、と彼はそう艶やかに微笑んだ。

勝てないなあと思うのに、なんか嬉しいなんて