聞き慣れない女の声と、聞き慣れた男の声が聞こえて、草陰に隠れて覗き見た。そこには最近ふらりと現れた玉藻さん。そして法正さんがいる。
「面白い男よ。わらわの側に侍るのを許そう」
光栄です、と笑う法正さんに、なんとも言えない気持ちになって、わたしはその場から逃げ出した。
なんだ、このもやもやした気持ちは。
そんな光景を見た数時間後、今度は董卓さんと玉藻さんが話しているところに行き当たった。今日は玉藻さん日和なのかと思いながら、柱に隠れて聞き耳を立てる。少し距離があるからはっきりとは聞き取れないけど、酒池肉林がどうとか。お前も加えてやろうとかこうとか。相変わらずの董卓節が炸裂しているらしい。楽しそうでなによりですね。
「あーもー、なんでこんなにいらいらするんだ…」
自分でもぷりぷりしてるのを自覚しながら、特に目的もないまま歩く。そしてこういうときに限って出会ってしまうのだ。会いたくない人に。
街にでも出ればよかったと後悔したのは、廊下の角を曲がってきた法正さんが見えた瞬間だった。
反射的に回れ右した後で、いやそれはおかしいと再び回れ右。結果その場でくるりと1回転してしまった。その間に彼は目の前まで迫っている。
「ついにおかしくなりましたか」
そりゃあまあこういう反応になるわなと、項垂れる。でもなぜか次の瞬間、誰のせいだとよくわからない怒りが湧いてきた。
「わたしのことなんて気にしてる場合じゃないんじゃないですか」
「…どういう意味です」
すごく怖い顔で睨まれたのは、わたしの言葉が刺々しかったからか否か。ただ困ったことに、今日のわたしのいらいらはそれで怯むようなやわなものではなかった。
「玉藻さん、董卓さんに言い寄られてましたよ。早く助けに行ってあげたらどーです?」
数時間前に見た法正さんの表情が頭をよぎる。なんで彼は今、こんなにいやそうな顔をしてるんだろう。なんで玉藻さんとは楽しそうに話してたんだろう。
「でもびっくりしました。法正さんはあーいう人が好きだったんですね。あんなに楽しそうな法正さん初めて見ました」
ぺらぺらとなにをわたしは話しているんだろうと思っても、どうしても止められない。言うだけ言ってそれじゃあと背を向けた。
「ずいぶんな言いようじゃないですか」
腕を掴まれて体の向きを変えられる。無表情でわたしを見下ろす法正さんを、ぐ、と睨みつけた。
「そんな顔で睨まれても、怖くありませんよ」
「…っ、…」
こっちは怖いんだよ、と言いたいけど言えないまま顔を伏せる。
「あなたが怒る理由はないでしょう」
「…別に…怒ってるわけじゃ…」
正論を突きつけられて、ますます下を向く。あー、自己嫌悪。
「そうですね、それはただの嫉妬ですから」
は…?と驚いて顔を上げると、目の前には法正さんのどアップ。一瞬後には、彼の唇がわたしの唇を包んでいた。
しっと…嫉妬…?ていうか、今…