歴史に残す戦い後


オーディン軍を退けに行っていた人たちが帰ってきたらしく、ぞろぞろと門をくぐってくる。みんなうれしそうにしているところを見ると、快勝だったみたいだ。
ほっと胸を撫で下ろして出迎えると、元就さんは挨拶もそこそこに自室へ戻って行った。なんだかとても興奮していて、今すぐに稀代の名軍師の勝利を書き記さねば!とかなんとか。

「凪殿」

声をかけられて振り向くと、元就さんとは対照的な雰囲気の郭嘉さんが立っている。

「郭嘉さん、おかえりなさい…どーかしたんですか?」

「何がかな?」

なにが、と何事もないように言うけど、なんだか沈んでるように見える。

「勝ったん、ですよね?なんか、うれしそうじゃないっていうか…」

首を傾げると、おや、と郭嘉さんも首を傾げる。

「顔に出てしまっていたようだね」

「元就さんはすごくうれしそうでしたけど…?」

元就さんが去って行った方を見やると、郭嘉さんは肩を落とす。

「ああ、元就殿は、ね」

首をひねるわたしに、彼は視線を寄こし疲れた表情を見せた。

「少しだけ、私を助けてくれるかい?」

「え?」

理解できなくて瞬きをしたわたしに、郭嘉さんが覆いかぶさってくる。戦ってきたばかりだというのに、ふわりと香るいい匂いはなんだ。拘束というより、洗い立ての柔らかいタオルを頭からかぶったような感覚がする。

「ああ、凪殿は柔らかくてよい匂いがするね…」

髪をすく指まで優しくて、このまま眠ってしまえればしあわせだろう。…いや、これはけっこうなセクハラでは?まあ、イケメンだしいっかと思ってしまう辺りわたしも大概か。

「なんでそんなに疲れてたんですか?」

彼の髪が頬をくすぐる感触を楽しみながら尋ねると、小さなため息が降ってきた。

「…華がなくてね」

はな…と理解できなかったのは一瞬で、そういえばさっき帰ってきた中には誰も女の人がいなかったなと思う。この様子だと、相手側にも女の人はいなかったんだろう。酒と女がなにより好きな郭嘉さんには辛いものがあるのかも。よくわからないけど。

「それは残念でしたね」

「その上、宴の誘いを元就殿に断られ…これが落ち込まずにいられるだろうか」

なんだかとてつもなく残念そうだけど、わたしからしたら別にそこまで落ち込む話でもない。
それでもなぜだか郭嘉さんが落ち込んでいるのを見ているのは忍びなく、口を開く。

「あの…わたしでよかったら、お酒おつきあいしますけど…」

花が開くように微笑んだ郭嘉さんに、なんだか早まった気がした。

わたし、もしや策にはまった?