ガイアさんの身体を作り出すなんてとんだ芸当をして見せたうちの1人が、のんびり空を見上げていた。
「ハデスさん?」
「おお、凪」
振り返る間際の一瞬の表情が、怖いくらい真剣に見えた気がしたけど、こっちを向いた顔はいつも通りの笑顔だった。光の加減かな、とさして気にせずわたしも彼に笑いかける。
「いー天気ですね」
青空に浮かぶ白い雲。気候も悪くない。時折静かに風が吹いて、そうだなと返すハデスさんの髪がなびく。やっぱり神さまってきれいだ。
「お疲れさまでした」
「ん?」
ぺこりと頭を下げたわたしに、ハデスさんが首を傾げる。
「ガイアさんの身体作るの大変だったんですよね?」
「ああ!俺の言ったこと真に受けたのか?おもしろいヤツだな」
目を丸くした後はははと豪快に笑うハデスさんは、本当に大したことなんてしてないみたいにも見える。でも、けっこう大変なんだぜと言った言葉も、たぶんうそじゃないと思う。ああやっておちゃらけて見せたけど、本心なんじゃないだろうか。彼なりのわかってほしいサインかも、なんておこがましいだろうか。
と、ちょっと後悔しかけたら、横から伸びてきた手がわたしの頭を撫でた。これはありがとうってことでは?
「そういえば」
前から気になっていたことを思い出して、いい機会かもと口を開く。
「…ハデスさんって、ゼウスさんと仲いーんですよね?」
「どうした、突然」
きょとんとした表情を向けたハデスさんに、言わなきゃよかったかなと思いながら続ける。
「わたしのいた世界では、ハデスはゼウスにあまりいい感情を持ってなくて」
へえ、と呟く彼に、慌てて首を振る。
「あ、わたしの世界のしかもお話の中の話ですよ!でも、だから、ハデスさんとゼウスさんが仲よくて、よかったなって」
誰がなんて言ったって、兄弟仲がいいにこしたことはない。神さまの生死や時間や関係性がどうなっているのかよくわからないけど、わたしのいた世界のギリシャ神話みたいに、かたくなになってこじれてどうしようもなくなるのは悲しいじゃないか。
「あんまりむりしないでくださいね」
こんなこと神さまに言うのも失礼かもしれないんですけど、とつけ加える。
「お兄ちゃんって、知らないうちにむりしちゃうじゃないですか。下の子はそれに気づくこともなかったりする、――」
ぐ、と腕を引き寄せられて、最後まで言えないままハデスさんの肩口にあごを乗せる格好になる。
どうしてもゼウスさんと比べてしまうからか、細身に見える彼の身体がどれほど筋肉質か、身をもって体感することになろうとは、誰が想像しただろう。
「凪、お前――」
痛いくらいに切羽詰まったハデスさんの声。ざわざわと胸が騒ぐ。
彼の名を呼ぼうとした途端、ハデスさんがわたしから身体を離した。見上げた先には、普段となんら変わらない笑顔がある。
「お前、いい女だな」
ちゅ、とわたしのほっぺにキスを落としたハデスさんは、どう見ても軽いにーちゃんだ。
さっきの雰囲気はわたしの勘違いに思えるくらい普段通りの様子に戸惑う。
「お前なら、いつでも冥府に歓迎するぜ」
「……それは…どーも」
無理にチャラい雰囲気を作っているような気がしてしまうのは、わたしの考えすぎだろうか。
気のせい…ならいーんだけど…