許昌の戦い後


陣地で座り込みぼんやりしている酒呑童子さんが、なんだか悲しく見えるのはどうしてだろう。

「なにしてるんですか?」

声をかけると、その目の焦点がわたしに合った。

「…なにも、していない」

こんなに大きくて強そうなのに、なんていうか迷子みたいだ。彼の隣にしゃがんで、話しかける。

「酒呑童子さん、なんで妖魔にあんなこと言われなきゃいけなかったんですか?」

先の戦いで見た彼と妖魔の様子を思い出す。

「なんの話だ?」

わたしが言ったことじゃなくても、あんな言葉、口にしようとするだけでいやな気持ちになるなと思いながら、口を開く。

「ぐずとか、のろまとか…」

ああ、と酒呑童子さんが呟く。そこからは悪い感情もいい感情も読み取れない。

「その通りだからだ」

納得できない答えに、彼の瞳の奥を覗いてみる。当たり前だけど、そんなことしてみてもなにかがわかるわけじゃない。ただ、眉間にしわを寄せた自分の顔を見つけただけだった。

「お前も怒っているのか?」

「え?」

「私が、自分が誰かさえわからないから、お前も苛立っているのか?」

ゆっくり静かにそう尋ねる酒呑童子さんに驚く。

「え…そんなこと!そんなことないです!…ん?あれ、怒ってるのかな…酷いこと言った妖魔には怒ってるかも…?んん、どっちにしても、酒呑童子さんに怒るわけないです!」

まくしたてるようにそう言うと、彼はふっと息を吐いた。気のせいか表情も柔らかくなったような。

「おかしなやつだ…」

おかしいと言われて喜ぶのも変だけど、酒呑童子さんの悲しい雰囲気が変わるならそれもいいかと思う。

「太公望さんが力になってくれるから、自分のこと、わかりますよ」

「そうだな」

太公望さんがボランティアじゃないことはお互いわかってる。それでもただの利害関係でもないと、わたしは思う。

「だいじょうぶですよ。…だいじょうぶ」

なにがかはわからないし、なんの根拠もない。でもだいじょうぶだと思いたい。彼も。わたしも。
言葉とは裏腹にわたしは下を向く。

「ああ、大丈夫だ」

隣からかけられた声は、言葉は同じなのに、その言葉にすがるわたしとは、根本的に違うものに聞こえた。顔を上げると、思った以上に優しい表情をした酒呑童子さんが目に入った。

「それに、ここは案外居心地がいい」

そう呟く酒呑童子さんに、わたしもそう思いますと答えた。

なんだかわたしが元気づけられてしまった