木の洞に座り、ハンドタオルを頭に乗せる。小雨とはいえ申し訳程度にしかしのげないけれど、ないよりはよほどいい。
これからどうしたらいいのかなんて、皆目見当もつかない。抱えた膝の間に顔を埋めて、なにも考えたくなくて目を閉じた。
かさり
草を踏む音が思いの外近くで聞こえて、体を固くする。顔を上げるタイミングを失ったわたしの耳に、「どうしたのだ?」と届いたのは、少し離れた位置かららしき男の人の声だった。凛とした真面目そうな。わけを話せばどうにかなるだろうか?と思ったとほぼ同時に、今度はすぐ側から低音が降ってきた。
「なんでもありません。仔猫を見つけただけです」
重く冷たい印象の声に肩をすくめる。どうしよう、怖い人かも。
「この雨の中濡れてしまってはかわいそうだ。城に連れて帰ってはどうだ?」
最初の声が応える。いい人たちなのか怖い人たちなのかどっちだろう。
このまま黙っていれば、猫を連れてどこかへ行ってくれるだろうか。ああでもこの機会を逃したら終わるかも。本気で人生が。
「できるようならそうしますので、劉備殿は先に帰っていてください。あなたが倒れては元も子もありません」
「それではそなたに任せよう」
わたしがもたもたしている間にそんな会話がなされ、怖そうな人だけが残ったらしい。
湿った体が冷えてきて少し寒い。それでも未だ尚動けないままのわたしは、息を殺して事態が動くのを、もしくは彼らがいなくなるを待つ。どうするのが正解か、誰か教えてほしい。
「聞こえているんでしょう。さっさと顔を上げたらどうですか」
がさりと草を踏む音がして、動けないわたしの真上からそんな声がする。やばい、これは絶対わたしに言ってる。そうに違いないこの距離感。見えないのにすごく見られてる感もある。蛇に睨まれたかえるよろしく、息をすることすらできない。バレていないと思っていたさっきまでとは、恐怖というか緊張というか、全然違う。
顔にかかる髪をはらいながらおそるおそる顔を上げると、鋭い目つきの男が射抜くようにわたしを見下ろしている。いやもうこれは見下していると言ってもいいくらいだ。整った顔立ちだからか、よけい怖い。
のだけど、それより気になってしまうのが彼の着ている服だった。なんていうんだろう、ハロウィン?仮装?コスプレ?
「……」
「こんなところでなにをしているんですか」
唖然として二の句の継げない所に質問され、慌てて立ち上がり言い訳のように口を開く。
「あ、その…わたしここがどこかわからなくて…変な話なんですけど、わたしの知ってるところとは全然違うような気がして、それで…」
黙って見下ろしてくる視線に、次第に声が小さくなっていく。
「それで、どうしていいかわからなくて…雨も、降ってきて…それで…」
「あなたも別の世界から迷い込んだということですか」
当たり前のようにありえないことを言う彼に、わたしの眉間にぐ、としわが寄った。別の世界…迷い込んだ…あなた、も?
「俺は法孝直、そんなに怯えなくてもまだ取って食ったりしませんよ」
「あ、わたしは深空凪です」
名前を名乗る感じで言われたからわたしも雰囲気で言ってしまった後で、彼が日本人にはない名前で少し焦る。そうだとしたら言葉が通じるのはなぜだ。
「…ん?」
そういえばこの人、まだ、取って食ったりしないって言わなかっただろうか?まだ?なんかもうつっこむところが多すぎて疲れる。お風呂入って寝たい。
「主の許可もあることですし、一緒に来ますか?」
「、え…いいんですか?」
「1人がよろしければお好きなように」
くるりと背を向けて歩き出す彼を、わたしは慌てて追いかけた。
彼の言っていた『見つけた仔猫』がわたしのことだとわかったのは、彼の主だという劉備さんに「許可をいただいたので仔猫を連れてきましたよ」と紹介されたときだった。仔猫?とわたしと劉備さんのセリフがかぶったのは、致し方ないと思う。
とりあえずおうちができました