魏:合肥の戦い後


呉から合肥を守る。それが今回の使命だった。戦の前、李典さん、張遼さん、楽進さんの間の空気はぴりぴりしていて、みんななんだか落ち着かなかった。
前に出て戦うんじゃなくて、城の守備を任されることに困惑顔の楽進さんはまだいい。
伯父さんを殺された李典さんが、呂布軍にいた張遼さんを快く思ってないことはなかなか根が深そうだった。

そんな中始まった戦いだったけど、なんだか吹っ切れた李典さんがいて、気づけば3人いい雰囲気で、呉を退けることに成功していた。

「凪…」

名前を呼ばれて振り返れば、気まずそうな顔の李典さんが立っている。

「その、だな。…悪かった」

突然の謝罪に、わたしは目をぱちくりさせて彼を見つめる。李典さんは居心地悪そうに視線を彷徨わせた。

「態度、悪かったろ俺…」

「うーん、そんなこともないですけど…」

1度視線をそらして、再度彼を見る。

「わたし、李典さんが怒ってるのって、想像できなくて…だから、ちょっと、びっくりはしましたけど」

わたしがそう言うと、李典さんは困ったように「悪い」ともう一度呟く。

「ああ、すみません!違うんです、謝りたいのはわたしのほうで」

「ん?なんで凪が謝るんだ?」

李典さんが困った表情のまま首をかしげる。

「わたしが生きてたところでは、大切な人が殺されるなんてめったになくて。だから、その相手を仇だとか思ったりも、あんまりなくて…」

そう言いながら、なんて平和ぼけした発言だろうと思う。それが当たり前の場所で育ったんだからしょうがないといえばしょうがないんだけど、ここで生きてる人たちを見てたら申し訳なく感じる。

「そーいう状況とかちゃんと考えもしないで、李典さんのことわかった気になって…あー、えっと…なんて言ったらいーのかよくわからないけど、…ごめんなさい」

なんだか情けなくて、わたしは下を向く。
わたしがいたところでだって、怒らない人なんていないのに、なにをわたしは勝手なイメージで李典さんを見ていたんだろう。

「謝るなよ」

いつも通りの口調に彼を見上げると、李典さんの優しい顔が見えた。
今申し訳ないとか思ってただろ、と笑われて、勘の男にはお見通しなのかと感心する。

「そういう世界でだって色々あるんだろうけど…誰かが殺されたりその相手を憎んだり、そんなことしなくていいならそれにこしたことないんじゃないか?」

「そーかもしれないですけど…」

「なんてーか、凪にはそんな思いしてほしくないんだよな、俺」

微笑んだ顔が少し悲しく見えて、わたしとは見えてる景色が違うのかもしれないと思ったら、胸が痛んだ。

「よし、それじゃまとりあえず、祝杯でもあげようぜ!」

そんな気持ちを知ってか知らずか、李典さんはわたしの背中を押す。城へと足を踏み出せば、門のところで楽進さんと張遼さんが待っているのが見えた。
こっちに手を振る楽進さんに、同じように応えるいつも通りの明るい彼に、ふっと心が緩んだ。

「でも、やっぱりちょっと意外でした」

横目で隣の李典さんを見ると「ん?」といつもの顔で首を傾げる。

「李典さんも、あんな拗ねたよーな言い方するんですね。子どもみたいでなんだかかわいかったです」

「な?! そ、そりゃあん時はそんな言い方になったかもしれないけど、だな!」

あたふたと必死に言い訳を始めた李典さんにはさっきまでの憂いなんて微塵もなくて、わたしは笑ってしまった。

彼はとても強い人なんだと思う