関興に戦う理由を尋ねるif


もくもくもくもく

わたしの隣でにぎりめしを口に運んでいるのは、あの関羽さんのご子息、関興さん。
この姿を見て、誰がかの有名な軍神、関羽の血を引いていると思うだろうか。おにぎりを食べていなくても、普段の姿からも関羽さんを彷彿とさせるものはないんだけど。
今日だって、なんだかふらついてる彼を見つけて声をかけたら、朝からなにも食べてないとか言うじゃないか。今はもうどちらかと言えば夕方に近いというのに。慌てておにぎりをもらってきてしまった。(実際はお米を蒸して作っているらしいからおにぎりと言っていいのかはわからないけど、まあいいか。)
とまあ、いつもぼんやりしてることが多い彼だけど、実は武も才もあるらしいから驚きだ。別に悪口じゃなくて。

個性的な見た目の人も多い中で、関興さんはわたしの世界にいても普通に馴染めそうな風貌をしてるなと、りすがどんぐりを食べてるみたいにしか見えない彼を見ながら思う。
いや、でもこのマイペースなイケメン、現代にいたら悪い人に捕まりそうで心配だ。

ごくん、とお米を飲み込んだ彼が、わたしを見て首をかしげた。

「…米粒、ついている?」

なんだそれ、かわいすぎる。そして一粒ついてる。

「右の口元に」

わたしが指差すと、彼は自分の口元に指をはわせて、ご飯粒を見つけると口に含んだ。
そんな姿を見ていると、戦いの中に身を置く人には見えないなと思う。公園でベンチに座ってたり、図書館で本を読んでたり、そういう穏やかな場所が似合うような気がする。
もし生まれた時代が違っていたら。戦いなんかなくて、穏やかに生きられる世界だったら。そんなこと、考えるだけむだなことはわかってるけど、それでもどうしても考えてしまう。

「どこか痛むのか?」

眉間にしわでも寄ったんだろうか。関興さんが心配そうに覗き込んできた。

「、んーん」

首を横に振るけど関興さんが静かにわたしを見つめるから、たまらず口を開く。

「関興さんは。…なんで、戦うんですか…」

「…ん」

わたしの言葉の意味を探すように、彼はゆっくり瞬きをした。
視線を落として黙った関興さんに、我ながら答えにくい質問をしてしまったと後悔したとき、彼が呟く。

「私は」

声につられて関興さんを見ると、いつの間にかこっちを見ていた瞳とぶつかった。

「大事なものを、守りたいんだ」

穏やかな表情で、だけど思った以上に力強い口調で話す彼に、悲しくもないのに呼吸が苦しくなった。たまらずわたしは下を向く。

「家族も、仲間も」

「ん」

大事なものを守りたい、それはどこでも誰でも同じだと思うけど、この世界での重さは、わたしのいた世界のなん倍もなん十倍も重い。関興さんならなおさらだ。

「凪殿」

感情の分かりにくい声で名前を呼ばれ、知らないうちに膝の上で握りしめていた手に、関興さんの手が触れた。きれいな顔に似合わず硬いその感触が、胸をしめつける。

「凪殿も」

ついに涙があふれて、ぱたぱたとわたしと関興さんの手の甲を叩く。顔を上げられないでいるわたしの背中に回された腕に抱き寄せられ、次の瞬間には彼の胸元におでこをつける格好になっていた。

思いもしない彼の行動に涙がひっこんだのもつかの間。あなたを守りたいんだ、と囁かれた言葉に、またまぶたが熱くなる。

わたしを守りたいと言ってくれるのはうれしい。だけどふと、そのせいで関興さんが傷ついたりしないだろうかと不安になった。けがをした彼を想像して、背中がひやりとする。

「わたしも、関興さんを守りたいです」

く、と顔を上げて彼の目を見据える。きっと涙でぶさいくだろうけど。

「守られてるだけなんて、そんなのいやだ」

「凪殿…」

関興さんが珍しく驚いた顔をする。

「わたし、強くなります。関興さんの隣に立っていられるように」

そう言うと、彼の瞳は優しく細められ口元は柔らかく弧を描いた。その表情にどきりとする。

「あなたがいてくれれば、私は誰より強くなれる気がする」

関興さんの指が、わたしの目尻に触れて涙を落とした。
守られるだけはいやだと、彼が同じように思っていたのだと知ったのは、もう少しあとの話。

ぜったい傷つけさせるもんか