N:墨俣築城戦-稲葉山城の戦い後


俗にいう一夜城を作り上げたのは秀吉だと、ドラマかなにかで見た気がする。だけど実際…といっていいのかはわからないけど、とりあえずこの世界では百地三太夫の働きが大きかったらしい。

いきなりどどんと城が建ったことに驚いたのは、なにも敵軍だけではない。わたしも目を丸くした。
その城が要となり、織田軍は勝利をおさめる。

とまあ、そんなこんなで戦も終わり、なんだかんだで日が暮れて、あとは寝るだけとなったわたしはあてがわれた部屋へと向かっていた。別の世界から来たというだけで、高待遇を受けている自覚はある。おもしろがってくれている信長さまさまだけど、ほぼなんの力にもなれていないのが申し訳ない。わたしなんかよりよほど高待遇を受けるべき人がいるはずだ、とは思うけど、こうして何不自由なく生活できるのは心からありがたいというのが本音だ。ただ同時に、自分の存在が異物のようで、孤独でもあるのだけど。

「なァに考え込んでるんだ?」

急にかけられた声に振り向くと、半歩の距離に百地さんが立っていた。というかもう振り向いたら彼の胸が目の前で、驚いて腰を抜かしそうになったところを、百地さんに抱き止められる。

「お、っと」

「す、すみません…!」

と、反射的に謝ったところで、謝る必要があったのか?という疑問が頭をよぎる。普通じゃない現れ方をした彼に問題があった気もするけど…まあいいか。

「いやすまん。驚かせたか」

「そりゃまあ、振り向いてこの距離にいたら誰だってびっくりしますよ」

この距離、と目の前10センチのところに自分の手のひらを出すと、彼はからからと笑った。

「百地さんも、今日はここにお泊まりですか?」

そう尋ねると彼はあごをかいて宙を見る。

「俺に立派な部屋なんざ似合わねえんだが…」

「なに言ってるんですか、そうじゃなくてもほら、百地さんは今日の立役者なんですから、贅沢したっていいんじゃないですか?」

「――なら、」

その立役者に一杯つきあってくれねえか?
彼の言葉にきょとんとしたのは一瞬で、わたしは「もちろんです」と元気に頷く。


百地さんの部屋に入ってすぐ、彼はどこからか数本のお酒を取り出した。その中の1本からは甘い桃のような香りがして、果実酒だろうかと期待が高まる。

しばらく2人で向かい合って、お酒を飲みながら今日の一夜城建設の話を聞いて。そうこうしていると、戦いの疲れもあってか頭がぼんやりしている自分に気がついた。

「眠ィなら部屋に戻るか?」

百地さんが声をかけてきたのは、まばたきがゆっくりになっているのを自覚したときだ。
わたしは膝を抱えて、ううん、と首を横に振る。

「もうちょっとだけ、ここにいたらだめですか?」

それを聞いた彼は楽しそうに口の片端を持ち上げた。

「どうした、心細えのか」

からかうように言われた言葉に視線を外して、少しだけ、と素直に答えると、百地さんは目をぱちくりとさせた。わたしの回答に驚いたんだろう。自分でも、普段ならこんなこと言わない自信はある。お酒の力なのか、ゆらゆら揺れるろうそくの灯りのせいか、弱っているのか…。

「仕方ねえな」

呆れたような言い方だけど、声は優しい。
よ、と立ち上がった彼がすぐ隣に移動してきたかと思うと、その長い足の間にわたしをおさめるように座り直す。背中から回された腕に引き寄せられ、頭が彼の胸にくっついた。

「…そばにいてやるよ」

そうささやく百地さんの手のひらは、そのままわたしの頭へ移動して、優しく髪をなでていく。

そっと目を閉じると、大きな体に抱きしめられた、この小さな空間しか存在していないような錯覚に陥る。
護られるように抱えられたわたしと、ちびちびとお酒を舐める彼と。

静かでふたりぼっちのこのときが、悲しいのかしあわせなのかわからないけれど、なぜだか無性に泣きたくなった。

明日からまたがんばれますように


後記体がでかい人に包まれたい、から百地をお相手に始まったこの話。最初は添い寝→いややりすぎ?手を握るくらい?のイメージでした。が、あれだけ体がでかい(私の中の百地は規格外にでかいのです…)なら、足の間にいるのもありでは?と思い、あっさり変更になりました。最初のイメージはまた別の誰かのために取っておきます。
それはそうと、百地のせりふに小文字の『ァ』とか『ィ』とか『ェ』とか使いたくなるのは私だけなんでしょうか。ゲームムービーを調べると、『え』は基本『え』表記なんですよね。『ァ』はありましたが。
お話に戻って…なんというかこう、お互いの事情を把握しているわけではないけど、なんとなく無意識にでも共感して引かれあっているのって、切ないけどいいなあと思います。お互いが感じている感情が、恋愛なのか家族愛的ものなのか同類相憐れむなのか、書いてる本人でさえはっきりしません。ただ、百地がどんな人か知らないことを抜きにしても、今の時間が続くわけではない――ひいては永遠はない――ことを感じ取っている彼女と、その彼女を憎からず思っているであろう百地が、どうかしあわせになりますように…と、書き手が思うのもどうなのかとは思いますが。