眉根を寄せてうっすらと目を開けると、白い障子越しに外が明るいのが見てとれた。この明るさに目が覚めたのか、と寝ぼけた頭で思いながら再度目を閉じる。
どうやら、昨日はいつの間にか眠ってしまったらしい。あったかい布団をかぶって――。
…ん…、ふとん…?
自分で思ったことに疑問が浮かんで、閉じたばかりの目を開ける。布団なんかかぶった覚えがないからだ。そして、昨日のことがぶわっと思い起こされて、静かに血の気が引いたと同時に眠気がぶっ飛んだ。さあっと頭から冷たくなっていく感覚がなんとも言えず気持ち悪い。
昨日は、百地さんとお酒を飲んで、眠くなって…そして、あろうことか彼に抱えられて、そのまま眠ってしまったのだ。
そしてそして、今、まだ彼の腕の中、と。
頭をあずけているのが彼の胸元だと認識した途端、脈拍が早くなった気がする。
閉じ込めるようにわたしの体に腕を回している彼が、起きているのか眠っているのかはわからない。あったかい布団をかぶっていると思ったのは、なんと百地さんの体温でした、なんて笑えないにもほどがある。
おそるおそる首を上げていくと、まぶたを閉じた彼の顔が視界に入った。思った以上に近い距離に驚くより、その造作が繊細なことに息を呑む。
このまま見ていたいような居心地が悪いような思いに包まれていると、ふいにその目がぱちりと開いた。
「起きたか」
「 ?!! 」
声は少しかすれているけど、いたずらっぽく笑う瞳は、彼がすでに起きていたことを物語っている。今度こそ本当に居心地が悪くなって、もぞもぞと動くわたしを見た百地さんは、愉快そうに喉を低く鳴らした。
「体痛くねえか」
座った体勢のまま眠ってしまったことを心配してくれる彼に、罪悪感がふくらむ。
「百地さんこそ!すみません、わたしのせいで!!」
贅沢しろといったのはどの口だ、と自分で自分を叱責して、まくしたてるように言葉を続ける。
「本当ならゆっくりできたはずなのに、本当に、ほんっとうに!すみません!!」
彼から少し体を離し、できた隙間で頭を下げると、半ば呆れたような、それでいてどこか困ったような声が降ってくる。
「おいおい、そこまでするほどのことじゃねえだろ」
「……するほどのことです…」
わたしは小さく呟く。そしてはっとして顔を上げた。
「今からでもゆっくり布団で寝てください!」
今が何時なのかもわからないままに、気持だけが急いて彼から離れようとしたのだけど、百地さんはなぜだかわたしをがっちりホールドして動かない。そしてなにごとか考えるように無言のままわたしを見やる。
「………」
「あの…?」
「悪ィと思ってんだよな」
確認するように問われ、わたしは、もちろんです…、と答える。
「なら、もうしばらくじっとしててくれねえか」
きょとんとしたわたしを放置して穏やかにそう言った彼は、抱き枕よろしくわたしを抱えなおすと、そっと静かに目を閉じた。
えっと、…わたしはどうすれば…?
後記
おまけとして、百地に抱き抱えられた翌朝の小話です。多少明るい雰囲気になったのではないかと…。落ち込んでいた気持ちが、百地に抱きしめられることで満たされた結果かなと思います。誰かに包まれることで、ふっとなにかがとけていくことってあるのではないでしょうか。
百地は百地で、与える側のはずが与えられる側にもなっていて、彼もなにかしら満たされるものがあったはず…。そしてそれを今だけでも手放したくなくて、彼女を離さなかったと。
もやもやと溜まっていたものがリセットされて、状況がわからず困惑しながらもすっきりした顔をする彼女と、穏やかな表情で目を閉じる百地のお話でした。