侵略的日常と懐柔者の矜持


⚠︎ごあんない
このシリーズは、オロチ3uの世界にトリップしていた貴女が英雄たちと共に戦い、元の世界に戻ってきた――と思ったら、今度は郭嘉と法正が現代に逆トリップしてきて…、というストーリーです。
貴女に思いを寄せる男2人との日常、お楽しみください。
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特異な再会篇
……まぶし……

まぶたの裏に光を覚えて目を開けると、レースのカーテン越しに明るい日差しが差し込んでいた。どうやらリビングの大きな窓の前で寝転がっているらしく、バルコニーに置いた鉢植えの緑がまぶしい。視線を上げると、見覚えのある天井が目に入る。そういえばこんな家だったっけと、今では遠くなった記憶がぼんやりと呼び起こされた。

ユグドラシルが消えて世界が崩壊していく中、目の前で神さまたちのまばゆい光が弾けて記憶が途絶えた。最後に一瞬、目が合ったような気もするけど覚えていない。こんなにあっけなく終わりは来るのかと、甘くない現実を突きつけられた気分だ。
なりたかった自分になれた場所はなくなってしまった。同じ時を過ごして親睦を深めた人たちもいない。

――さよならも言えなかった

ぽかりと空いた心の穴が思いのほか大きいのを感じて、目の前がにじんだ。

体を起こすこともできず、高く昇った太陽へ視線だけを向ける。こぼれた涙が、耳の輪郭をなぞって落ちていった。現実から逃げるように、下半身にかかっていたブランケットを頭からかぶる。
またここでの生活が繰り返される……嫌ではない。嫌ではないけど、現実味がない。どう考えてもこっちがわたしの現実なのにと、ひとり苦笑した。

そういえば、今は一体いつだろう。ブランケットをかぶったまま、手探りでスマホを探す。あれだけスマホのない世界にいたというのに、体に染みついた習慣はなかなか抜けないものらしかった。

「これですか?」

そっと渡された懐かしい感覚に、なんの躊躇いもなくその物体をつかむ。感謝を告げようと「あ」と声を発したところで、はたと気づいた。
待って、今の――

「ふふ、早く顔を見せてくれると嬉しいのだけど」

ちょっと待って、まってまってまってまってまって……!!
思考が追いつかないほどに仮定と否定が押しよせる。握ったスマホも投げ出して、わたしは弾かれたように上体を起こした。

「まったく、いつまで待たせるんです」

ソファに座った法正さんが、わたしを一瞥して呆れた声を出す。

「髪が乱れた姿も愛らしいね」

上から声が降ってきて見上げると、そこには郭嘉さんが柔らかな笑みを浮かべて立っていた。

「、え、え……?」

交互に視線を走らせて、まじまじとふたりを眺める。白シャツの上に薄手のくすみブルーのカーディガンを羽織り、細身の黒パンツ姿の郭嘉さんと、ダークグリーンのなめらかな生地のトップスにグレージュのパンツを合わせた法正さん。

なにこれ、雑誌の表紙みたいなんですけど

洋服を着こなしている彼らは現代人にしか見えない。ただいかんせん、顔とスタイルが破壊的によすぎる。

「え、郭嘉さんに法正さんですよ、ね? なんで? だってさっき…………え、もしかして、間違って元の世界じゃなくてこっちに来ちゃったんですか?」

もしそうならどうにかしなくては。彼らの世界はきっと彼らを待っているはずで、彼らだって自分の世界に帰りたいはずで。
でもどうしたらいいのかと頭を悩ませるわたしの前に、郭嘉さんがしゃがみこむ。そして愛おしげに目尻まなじりを下げると、指先でわたしの乱れた髪を梳かし始めた。
腰を上げた法正さんも、わたしに触れそうな距離まで近づき膝をつく。彼は鋭い瞳でわたしを見つめて口を開いた。

「俺たちは自分の世界へ戻り、人生を終えたんです」

「んん、?」

法正さんの言っていることが理解できず、彼の言葉を口の中で反芻する。人生を終えたって、なんだか死んじゃったみたいな言い方じゃない?

「今の感じだと、凪殿はここへ帰ってきたばかりのようだね……時間の流れが違うのかな。ふうん、面白いね」

郭嘉さんはそう楽しそうに笑うけど、わたしはなにがおもしろいのかわからない。とりあえず手を挙げて、疑問を投げてみることにした。

「あの…さっき法正さんが言ってた『人生を終えた』って、なんだか死んじゃったみたいに聞こえたんですけど……」

「そうですが?」

そ う で す が ?
さも当たり前だというように小首を傾げる法正さんに、わたしは目を丸くする。助けを求めるように郭嘉さんに視線を向けると、「そうだよ」と、こちらも当たり前のような顔をして微笑まれた。
そ う だ よ ?
唇を引き結んで、ついでに両頬を膨らませて、彼らの言うことを理解しようと試みる。眉間に皺が入って、自分でも変な顔になっている気がしないでもない。

「え…っと、おふたりはすでに自分の世界に帰って、ちゃんと? 生きてからお亡くなりになって? で、ここにいる?」

理解できないままにまとめると、ふたりは頷く。どうしよう、頷かれたくなかった。
というか、この人たち死ぬということに対して軽すぎやしないだろうか? わたしなんて死ぬなんて考えただけで怖いし、誰かが死ぬのもいやなのに。死んだあとなら、そんなこともあったねくらいの気持ちになれるわけ? 知りたくないけど。

「……とりあえず、わからないけど、わかりました。なら、ふたりは幽霊ってことになるんですか?」

「違うと言いたいところですが、それを証明することはできませんね」

「だけど触ることはできるから、実体はあるようだよ」

郭嘉さんはそう言って、長い指でスマホを拾い上げた。手のひらに返ってきた機械の重さは、夢かもという考えを打ち消すほどには現実的だ。それに、少し触れた彼の指先の感触は、確実に生きている人間のものだった。

「じゃあ、どうやってここに来たんですか? 目が覚めたらここだったとか? あ、死後の世界ってあるんですか? お花畑ありました? 三途の川は?」

なんだかんだ好奇心がうずいて、矢継ぎ早に質問する。半分以上がただの興味本位だ。
そんなわたしに、法正さんは口元をわずかに緩ませた。呆れたようにも見えるけど、眼差しはとても優しい。

「死後の世界なんてものは知りませんが、ここへ来たのは凪殿が呼んだからですよ。俺の名を、煩いほどにね」

「へ?」

「私にはとても甘美に聞こえたけれど……そう考えると、私たちの心残りが貴女だったからかもしれないね」

「え……っと」

わたしが呼んだとか、彼らの心残りがわたしだったとか、どっちにしても好意があることが前提で、気恥ずかしいことに変わりはない。
ちらりと彼らに目を向けると、そこにはありえないほど顔面偏差値の高い顔が並んでいる。やばい、急に恥ずかしくなってきた。

「で、でもまあ、そういうことも、あるの、かも? 人生なにが起こるかわかりませんもんね。あ、あれ、おふたりは人生終わってるんでしたっけ……あ……その、えー……」

彼らの顔のよさを再認識した途端沈黙に耐えきれなくなって、むりやり言葉をひっぱり出したら自滅した。ああもう、黙っていればよかったと思いながら、続く言葉を探すけど見つからない。困った。
そんなわたしを見て、ふたりが同時に笑いだす。

「変わりませんね」

「貴女といると飽きないよ」

彼らの笑顔を見ていると、なぜだか胸がいっぱいになった。


<後記>
ついに始めてしまいました。現パロは色々と設定が難しく(国籍とか言葉とか…そもそも名前が)書けなかったのですが、逆トリなら、しかもトリップ後の逆トリなら愛され系いけるのでは…?ということで、まあご都合主義的ではあるものの、シリーズ化することとなりました。なぜオロチ3u後なのかというと、郭嘉,法正を一緒に出すにあたり、お互いある程度の信頼があったほうが都合がよかったというだけです。ファッションについては用語やらなんやら難ありのため、AI協力の元お送りしています。


初めての外食篇*
とりあえず郭嘉さんと法正さんにはリビングのソファに座ってもらって、買い置きしていたスティックタイプの紅茶を作って渡すことしばし。

……なんか、おなかへったな

ふたりは部屋の中を物珍しそうに見回しながら、ときおりカップに口をつけている。わたしはといえば、テーブルを挟んだ向かいでクッションを座布団代わりに、ぼんやりそんなことを思っていた。

きっと頭を使いすぎたんだろうな。
だって、わたしが目を覚ますまでの一瞬で、郭嘉さんと法正さんは自分の人生を生き終わったらしい……なんて、なかなかに信じられるものではない。そもそも生き終わったって言葉、初めて使いましたけど。
とはいえ、彼らが嘘をついているようには見えないし、そもそもそんなことをするメリットもないはず。

たかだか1時間ほど前、目が覚めて悲しくなったかと思ったら、ふたりの姿と話に驚いた上にちょっと好奇心がうずいて、それから彼らがいることがどんどんうれしくなって胸がぎゅうっとして――。これ、頭も心も疲れてもしかたなくない?

「おなか、空きません……?」

伺うように問いかけると、ふたりの視線がわたしに集まった。彼らの返事を待つまでもなく、わたしの頭にはある和食のお店が浮かんでいる。

「あの、わたし前から行ってみたいお店があって……ご一緒してもらえるとうれしいんですけど」

「もちろん付き合いますよ」

「どんなものが食べられるのか楽しみだね。美酒はあるかな」

「……お昼からお酒はやめてください」

とりあえず色よい返事が返ってきてほっとする。あ、でも休日のランチタイムだからいっぱいかも……。そう不安になってお店に電話してみたら、ちょうど今なら席が確保できるとの回答。ついでに「個室をご用意させていただきますね」なんて返ってきて、唖然とした。こんなラッキーある?普段のわたしならありえない幸運に、これはきっと彼らの運がいいんだろうとひとり納得する。

わたしが電話する様子を訝しげに見ていたふたりに、行きましょうと告げて玄関へ向かう。ちょっとそこまで用の小ぶりのバッグを持って、途中洗面所で鏡をチェックすることも忘れない。
そういえば郭嘉さんと法正さん、靴、ないんじゃ――と思ったのも一瞬で、うちの小さな玄関に男物の靴が2足、きれいに並んでいた。

なんの力か知らないけど、サービス精神旺盛すぎやしませんか……


家から徒歩5分程度のビルの中に、そのお店はある。シンプルなのに洗練されてぐっとおしゃれに見える暖簾をくぐると、木のいい香りがしてついつい深呼吸してしまった。木材で統一された調度品と温白色の照明。落ち着いた和の空間には緩やかな音楽が流れていて、気持ちが自然に穏やかになっていく。そこにいる人もみんなしあわせそうで、とてもすてきなお店だった。店内の空気とお値段に合わせたように、年齢層は若干高めかもしれない。

和服姿の店員さんに案内されるわたしたち――もといわたしの後ろを歩く法正さんと郭嘉さんに、マダムの視線がついてくる。
「ちょっと、素敵じゃない?」「かっこいいわねぇ」なんて囁きまで聞こえて、こうなることを予測できなかった己の想像力のなさに沈黙した。続いて「きゃあ」と黄色い悲鳴が聞こえたものだから、わたしは恐る恐る振り向く。法正さん越しに盗み見ると、郭嘉さんがマダムに向かって微笑んでいた。どうやらそれが、彼女らにぶっ刺さったらしい。やーめーてー!!
頭を抱えるわたしに「放っておけばいいですよ、いつもの病気です」と、法正さん。
……あなたにも黄色い声が飛んでますけどね。

比較的小さめの個室についた途端どっと疲れて、わたしは静かに深いため息をつく。入口からここまでほんの数メートルの距離だったはずなのに、心的疲労がはんぱない。

疲れた……と思いながら、椅子に深く腰掛けてランチメニューを開く。その瞬間、お店自慢の白いつやつやの土鍋ご飯が目に飛び込んできた。続いて色とりどりの小鉢、見ただけでサクッと感の伝わってくる天ぷらに、鮮やかなお刺身。ずらりと並んだ食欲をそそる写真を前に、一瞬にして心労がふっ飛んだ。

来てよかったあ……高いけど

すでにしあわせを噛みしめながらふたりを見ると、彼らもその料理の美しさに驚いた顔をしている。
なににしますかと尋ねると、わたしと同じものを、と返ってきた。こっちの食べ物なんて分からないから、それが妥当だろう。わたしは悩んだ末、いろんなものを少しずつ楽しめる小鉢御膳を3つ注文した。

料理を待つ間、ふたりは周囲に視線を走らせ、部屋の外の音にも意識を傾けている。わたしはそんな彼らを見ながら、家を出る前に約束したことを思い返す。
@ 驚くことばかりかもしれないけど、なんでもない顔をしておくこと
A 人前であれこれ質問しないこと
B 『殿』の敬称は一般的ではないから使わないこと
この3つを、郭嘉さんも法正さんも律儀にも守っている。軍師であるふたりがわたしの言うことをきいているなんて、なんだか感慨深い。この人たちの人生で、己より劣る人物の意見に、こうも素直に従うなんてことがあっただろうか。

しばらくして運ばれてきた料理は、写真と違わぬ鮮やかさとそれ以上の実物ならではのボリューム。わたしは「うわあ……!」と小さく感嘆を漏らした。お刺身、お浸し、天ぷらに煮物、それにふわふわの卵焼きが小鉢に行儀よく並んでいる。その上、茶碗蒸しと具沢山のお味噌汁とお漬物。
そしてなんといっても、目の前で炊けた土鍋ご飯の蓋を開けたときの感動に勝るものはない。ぶわっと白い湯気と一緒に、お米の甘くて香ばしい香りが部屋中に広がった。

「んー、おいしい……」

優しくて薄味なのにしっかりと食材の味がして、箸を運ぶたびにわたしはおいしいとつぶやく。彼らはその都度肯定の相づちをくれて、それが素直にうれしかった。

料理がなくなるのに合わせたように扉がノックされ、1人の女性が入ってきた。手に持ったお盆には、湯呑みに急須、それに蓋のついた小ぶりの陶器の器が乗っている。他の店員さんたちとは違う安心感のある落ち着いた雰囲気……女将さんだろうか。

「お口に合いましたか?」

陶器の器を並べながらにこりと微笑まれ、わたしは勢いよく首を縦に振る。

「はい、どれもすごくおいしかったです!」

「それはよかった、こちらはたまごプリンです。うちの自慢のデザートなんですよ」

「た ま ご ぷ り ん……!」

わたしが目を輝かせると女将さんは優しく笑って、急須のお茶を湯呑みに注いだ。

「ふ、凪は食べ物に関しては全て顔に出ますね」

「 !? 」

「そこが凪のいいところだけどね」

「 !!? 」

急に名前を呼ばれた衝撃に、わたしは目を白黒させる。対照的に法正さんも郭嘉さんも涼しい顔だ。
ちょっと待って、こんなにナチュラルに呼び捨てにされるなんて聞いてない。確かに、確かに『殿』は使わないように言ったけど……!

「仲がいいんですね、お友だちですか?」

お茶を配る女将さんにそう尋ねられて、そうですと安易に答えようとした自分に待ったをかける。男ふたりを連れて友だちですって答えるの、なんかやだ……。と思って、頭をフル回転させること約2秒。

「い、いえ、その――い、いとこなんです!」

ちょっと不自然だったかもしれないけど、急遽捻り出したにしては我ながらうまいところに落ち着いたのではないだろうか。

「ね!」

郭嘉さんと法正さんに、合わせてくださいと目で訴える。ふたりはお互いに視線を交わして、揃って頷いた。

「ええ。彼女はとてもかわいらしい私たちの いとこ、、、 です」

「俺たちにとって何より大切な、ね」

含みをたっぷり持たせた言い方に気づいてか気づかずか、あらあら、と微笑ましそうに目を細める女将さんに、わたしは気まずい思いで下を向く。
それではごゆっくり、と静かに閉まった扉を確認して、わたしはふたりに向き直った。

「なんであんな言い方するんですか……」

「いとこだなんて、寂しいことを言うからですよ」

湯呑みに口をつけていた法正さんが、視線をゆっくりとわたしに移動させる。なにも特別なことはしていないのに、心のうちを見透かされるような瞳に不覚にもどきりとしてしまった。
彼が特に寂しいなんて思っていないことは、淡々とした声の調子から明白だ。

「次からは伴侶にしようか」

頬杖をついた郭嘉さんが、本気とも冗談ともつかない様子で目を細めて、わたしは逃げるように明後日の方向を見た。

「それなら貴方は誰なんですか」

「おや。私が、凪の伴侶のつもりだったのだけど」

「も、もういいですから!」

たまらなくなって、わたしはデザートのプリンにスプーンを入れる。弾力がありながらもとてもなめらかなそれは、口に入れると舌の上で優しく溶けていった。


<後記>
彼らにとっては初外出,初外食。なにを見ても驚きはするけどあまり顔には出ないような気もするし、あれはなんだどうなってると質問攻めにされるような気もする(今回は黙っとけと言われて大人しくしてるけど)。郭嘉は女性なら全年齢大切にしそうなので、マダム人気も高そう。法正は法正でコアなファンがつきそうです。